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お隣の氷姫は、ぼくにだけ微笑む  作者: こねこねこ
第1章 桐島エリスの秘密

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断片的な脅迫④:氷の姫君、狼狽する

『お前の秘密を知っている』


 先輩のスマホには、脅迫めいたメッセージが表示されていた。

 送り主の名前は『ファントム』。

 ファントムと言えば『オペラ座の怪人』の登場人物だ。

 じっちゃんの名を賭けまくる某推理漫画によく出てくるから、名前だけは知っている。


「学校での接触は避ける約束でした。ですが、この事で佐藤さん以外に頼れる人がいなくて……」


 人目のない場所に行き、先輩のクールな態度は崩れていた。

 かなり動揺しているようで、身体は震え、顔色が悪くなっている。

 今すぐ抱きしめて差し上げたい!

 訴えられそうだからしないけど。


 ――それよりも、誰がこんなことを。


 ぼくは思考を始めた。

 ファントムは、どうやって先輩の秘密を知ったのか。

 何故、脅迫文を送って来たのか。

 脅迫に要求を伴わないのは何故なのか。

 その他諸々が脳内で絡み合う。


 その途端――。

 過去の記憶が、突然フラッシュバックした。


 二年前の、あの時の苦い記憶。

 思い出したくない、挫折の記憶。

 動悸が激しくなり、呼吸が苦しくなる。

 視界が明滅し、意識が遠のく――。


 ――これは、まずい。


 拳を握り締め、何とか耐える。

 二年前――ぼくは、ある事件に関わった。

 その事件には、ぼくの『幼馴染』が巻き込まれていた。

 だから、彼女のためにその事件を調べた。

 その末に、真相を突き止めることは出来た。

 犯人を特定し、証拠も押さえた。


 だけど、事件は終わらなかった。

 首を突っ込んだ代償は高くついた。

 いや、アレは代償でもなんでもない。

 ただの理不尽――。


「佐藤さん、大丈夫ですか?」


 気が付けば、桐島先輩がぼくの顔を覗き込んでいた。

 心配そうにしながらも美しい相貌が、至近距離にある。

 ぼくは思わず、仰け反ってしまった。

 思考が一気に現実に引き戻され、視界がクリアになる。


「大丈夫です。気にしないでください」

「ですが、体調が悪そうです」

「持病のしゃくです」

「しゃく? そう言えば、そう言う時に使われる『しゃく』とは、なんのことなのでしょうか? 私――」

「気にしないでください」


 話が逸れそうだったので、阻止した。

 ただ、それも無意味ではなかった。

 その言葉で、気が抜けた。

 先ほどまでの落ち込みが、嘘のように消えていった。


 ――さて、仕切り直しだ。


 ぼくは、動揺しっぱなしの先輩を見た。

 破滅の危機に、顔を真っ青にしている。

 少しでも早く、この状況を解決してあげたい。


「とりあえず、スマホのロックを解除してみてください。送り主の情報を探ってみましょう」


 推理をするためには、材料が必要だ。

 とりあえず、その材料を集めることにしたのだが――。


「それが……出来ません」

「出来ない?」

「五時間目が体育だったのですが、戻って来てスマホを確保してから、指紋認証が弾かれてしまうのです。番号認証も出来ません」


 指紋認証が弾かれる。

 番号認証も出来ない。

 それは異常事態だ。

 スマホの故障という可能性もゼロではない。

 だけど、その可能性は低いだろう。

 だとしたら――。


「それ、別の人のスマホなんじゃないですか?」

「……え?」

「それは同機種であるだけで、別人の所有物という可能性はないですか? 先輩のスマホは、他の誰かが持っているとか」


 それなら、問題は解決したようなものだ。

 脅迫文は、先輩に宛てたものではない。

 まぁ、本当の所有者は大変なことになるかもしれないけれど。


「でも、スマホのケースは私のものです」

「でしたら、誰かが入れ替えたのだと思います」


 それは、悪質な悪戯だ。

 だけど、悪戯の範疇を出ない。

 可能性としては、十分にあるだろう。


「とりあえず、電話をかけてみましょう」


 先輩から電話番号を聞き、電話をかけてみる。

 ぼくのスマホから、呼び出し音が鳴り始めた。

 だが、先輩が持っているスマホは反応しない。


「やっぱり、これは別人のスマホですね」

「そのようです……」

「先輩のスマホを持っている人が通話に出てくれれば、事情を説明できるのですが」


 ぼくは三十秒ほど、電話をかけ続けた。

 だが、一向に出る気配がない。


「出ませんね」

「……はい」

「先輩のスマホを持っているのは、スマホを見ない人なのかもしれません」

「そんな人、いるでしょうか?」

「少なからず、いると思います。パソコンだったり、ゲームだったりをしていて、交友関係が狭ければ――」


 実際、ぼくもスマホをあまり見ない人間だ。

 親しい友人もいないので、何の問題もない。

 もう一度言おう、何の問題もないのだ。


「ロックを解除することも出来ないでしょうし、明日、教室の中で持っている人を探してみればいいと思います」


 これで解決だ。

 脅迫文は、先輩に宛てたものではなかった。

 もっとも、本当の持ち主には脅迫文が届いていたことになる。

 だが、それはその人の問題だ。

 ぼくが関わるべきものではないし、関わりたくもない。


 そう思ったのだが――。

 先輩の表情はすぐれないままだった。

 何だか、嫌な予感がしていると、先輩が口を開いた。


「……あの」

「先輩?」

「……それでは、駄目なのです」


 まだ、何かあるらしい。

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