3.
『惑星大気圏へ突入、減速スラスター起動』
軌道降下ポッドがこの惑星の大気圏に侵入したことを無機質な男性とも女性ともとれる声が告げる。
「なんだか懐かしいわね…」
眼下に見えるのは幼いころに旅行で訪れたことのある惑星テト、それに似た水の惑星だ。
当然違う星だということは理解しているが、ここに来るまではワープに次ぐワープ、ワープ時以外はただただ何もない空間を航行するという状況だったからか、地に足を付けられる惑星と言うだけで、もうじき地に足を付けられるという高揚感で懐かしさを感じているのかもしれない。
[先行している部隊はすべて大気圏突入時に連絡を絶っている]
上官からの注意を思い出す。
ポッドはガタガタと揺れるが許容の範囲内だ、大気に問題があるわけではない。
であれば現地の文明に撃墜された?
だが事前に観測した範囲ではこの惑星の文明レベルではこのポッドを落とすこと、それ以前に気づくこともできないだろう。
「そうなると―」
注意すべきはあの日暴走ワープに巻き込まれた帝国の決戦兵器、それと帝国兵だ。
幸い決戦兵器の活性化は現時点では観測されていない。
「だがこれまで活性化したという記録もない…ではなぜ…」
それについて確認、報告するのも私の任務のうちの一つである。
「ポッド、最終索敵をよろしく」
『………』
ポッドからは返事がない、これまでにこんなことはなかったはずだが。
「ポッド、応答して、……ダメね、それなら直接入力で…」
座席から折りたたまれていたターミナルを取り出す。
ポッドに直接索敵を行うようコマンドを叩く。
『………』
しかし反応が―
『…あ……あーあー』
ザザっというノイズに交じり女性の声が聞こえてくる。
ポッドの無機質な声ではない。
咄嗟に警戒態勢をとる…が、現在は大気圏突入中、こちらにできる手はなかった。
『あ、聞こえてる?もしもーし?』
こちらの神経をあえて逆なでするような呑気な声の持ち主はこちらに問いかけてくる。
「貴様は誰だ!」
せめて威勢は保とうと強い語調で問いただす。
『人の敷地に土足で踏み込んでき上に貴様だとか誰だとは失礼だね~、こないだきた子、あの~何だっけ~、あ、ザーリャだったかザリャー帝国?ってところの子はもっと礼儀正しかったよ~』
その言葉に背筋がゾッとする、なぜ文明レベルも育っていないこの惑星の人間がザリャー帝国の名を知っているのか。
「質問の答えになっていない、誰だと聞いている!」
『本当、ディスプリン共和国さんは教育がなってないですね~』
「-っな!?」
こちらからは一切伝えていない情報まで抜き取られている、こんなことが出来るのは…
「帝国の人間か!」
『ぶっぶ~、残念無念~、まあ引き延ばしても意味ないので答え合わせですが~』
そういうと降下ポッドの周りを白い光が覆いつくす。
撃墜された!?
そう思ったのもつかの間、光が晴れると―
「どうも~、太陽系第3惑星、主の一人であるアマテラスで~す」
目の前に見慣れない服を着た少女が現れた。
―ブン
「うお」
余りに現実離れした状況で置き去りにされた思考を無理やり回転させた結果はナイフ一閃だった。
「あたらない!?」
いや、正確には当たっているはずだがすり抜けている、実体のないホログラムを切ったような感覚だ。
「も~、せっかくチャンスを上げようと思ったの、もうそれもなしね!」
プンプンという効果音をばら撒きながら、アマテラスと名乗った彼女は壁をすり抜け船外に出る。
「というわけで、運よく生き残れればハードモードな地球観光をお楽しみください~」
そう言い残し彼女はポッドから離れていく。
「まて!お前はいった―」
ブー、ブーっとけたたましい警告音が鳴り響く。
航行システム、姿勢制御システム、通信システム、ほぼすべてのシステムに異常が発生している。
「何が起きてるの!」
各システムをリブート、不具合個所の探知を行おうとするが冗長構成となっているはずの自己診断システムにすら異常が発生している。
―運よく生き残れれば
先ほどの少女の一言を思い出す。
「まさか彼女が…」
そう気が付いたのは既に地表が目前に迫っている時だった。
※
「なかなか進化してたな」
久しぶりの神社探索で1時間ほど時間を潰せたので一度実家に戻るが…
駐車場には車が止まっていない、つまりは―
「まだ帰ってきてないか…」
はぁ~っと深いため息をつく。
別段困っているというわけだはないが致命傷なのはスマホの充電が切れているということだ。
「現代っ子なのよ、常に最新情報に触れていたいのよ…」
常に情報に触れていたい自分にとっては数時間ですら過剰なデジタルデトックス時間であった。
まだ帰ってこないかなーっと、駐車場に腰を落としぼーっと空を見上げた時だった。
キラッと光るものが見えた。
「うん?」
見間違いかと思い目を凝らしてもう一度空を見上げる。
再びキラッと何かが光る。
「あー、流れ星だ、久しぶりに見た」
思ったよりも長く輝く星を見て願いを考える。
早く家族が帰ってきてほしい?金が欲しい?
それよりももっと切実な願いが口から出ていた。
「彼女彼女彼女彼女彼女彼女……」
6回言えたから2回分のお願いになるだろう、そう思い再び空を見上げると―
「なんかこっちに来てないか?」
流れ星は先ほどよりも明るく、そして大きくなっているような気が―
ズドーン!!っと爆発音に似た音が鳴り響く。
「うお!?」
落ちたのだ、流れ星が。
衝撃波に揺らされた鼓膜が落ち着くと衝撃波のせいかあたりでは車のクラクションが鳴り響いていた。
「うわぁ…」
これは大変なことに…
「面白いことになって来たぞ!」
頭で考えていたことと体の動きが一致しない。
頭では危ないから離れたほうがいいとわかっている。
だがしかしこの高揚感は抑えられない。
衝撃に驚き心拍数が上がっているだけ?アドレナリンで一時的にテンションが上がってるだけ?
「ハハッ」
自然と笑いがこみあげてくる。
大型台風で休校になったあの日、大雪の中自転車で通学してこけたあの日、それに似た、いや、それ以上の高揚感がこみあげていた。
「ハハ!こんなに楽しいことはない!」
はたから見ると笑いながら走る不審者が一人誕生した瞬間だった。
※
「あーむ」
目の前には俺が食べるはずであったデザートのアイスを食べる少女がいる。
風呂上がりで少し濡れた髪、サイズの合っていない俺のTシャツ、もといダサTをダボッと着ている。
「ん?」
俺の目線に気が付いたのか、スプーンを咥えたままこちらに目を合せ、ハッとしたような顔になる。
冷凍庫から出したばかりでガチガチになっていたアイスを咥えていたスプーンで何とか削り取り、こちらに差し出す。
「はい、どーぞ」
あーんの姿勢だった。
「え、あ、どーも」
思ってもいなかった出来事にきょどりながらも彼女が持っているスプーンからアイスをもらう。
いつも食べているアイスよりおいしく感じるのはお高いアイスだからだろうか、それともあーんをしてもらったからだろうか?
「って、そうじゃなくて…」
小さくつぶやいた言葉に彼女は自分用に削り出したアイスを食べながら「ん?」っと首をかしげる。
くっそ、かわいいなと思いながらも現状を思い返すと頭が痛くなる…
「なんでこんなことになったんだ…」
俺の後悔をしらず、彼女はおいしそうにアイスを食べていた。
―数時間前-
土煙が立っているのは地元にある小さな古墳の近くだった。
上には木々が立ち並んでおり、古墳と知らなければ小山だと勘違いするだろう。
可能な限り土煙を吸わないよう、服で口元を覆い簡単なマスクにして辺りを探し回る。
―ガコン
そんな音が聞こえ、そちらに向かう。
まだ落ち着かない土煙の中、周期的に光るライトが見え、小走りで近寄る。
「隕石…じゃない?」
そこにあったのはアニメや漫画、ゲームなどに出てくる小型の宇宙船のような―
「動くな」
チャキっという音と共に頭に何かを突き付けられる。
え、うそ、銃!?この日本で!?
思ってもいなかった出来事に頭が真っ白になる、が、とっさの判断で手を上にあげることはできた。
「そのまま着ている上着を脱いでこちらに渡せ」
記憶では今日の気温は2度だったはずだ、上着を取られたら凍え死ぬぞという話だが命には代えられない。
「わ、わかった」
寒くなるということで着てきたオーバーサイズのコートを脱ぎ、彼女に渡そうと振りか―
「え、ちょっと待って!振り返らないで!」
その言葉を理解できたのはすでに半分ほど振り返ってからだった。
「え、えぇ!?」
そこにいたのは土埃のせいで汚れていてもわかるほどきれいな白い肌、それを隠さんとする衣服は何も身に着けていない、つまりは全裸の少女だ。
少女は銃?のようなものをほっぽりだし、俺のコートを奪おうとする。
俺はあっけにとられ、動けずコートを奪われる。
少女は奪い取ったコートに身を包みしゃがみ込んだ。
「もういや、お嫁にいけない…」
いつの時代の反応だ…
「いや、ごめん、まさか服を着てないとは思ってなくって…」
ありきたりな言い訳を並べるが彼女には届いていないようだった。
「そうだ、こいつが悪いんだ、こいつを殺して私も死ぬ!」
物騒な声が聞こえたかと思った直後、目の前を何かがかすめる、彼女の蹴りだ。
―ゴンッ!
空を切ったその蹴りはそのまま宇宙船にぶつかるとその外壁をへこませていた。
スゥ―っと冷たい汗が滴る。
こんなもの受けたらひとたまりもないと一目でわかる。
「まって、不可抗力だから、いや、何も見てない、見えなかったですから」
そういいながら後ずさるがやはり彼女の耳には届いていなかった。
じりじり近づいてくる俺のコートを着た少女から距離を離そうとするが、木の根に足を取られ転倒してしまう。
あ、終わった―
彼女が近づき、再び蹴りを入れようとした時だった。
ふっと空が一瞬だけ光ったような気がした。
可能なら来世はもっとうまく生きていきたいな…
そう思いながら頭部衝撃を覚悟する。
「きゃっ!」
しかし蹴りの衝撃はなく、聞こえてきたのは素っ頓狂な少女の声だった。
―ゴンッ!
彼女の蹴りは再び空を切り宇宙船の外壁へと当たる。
どうやら少女もこの木々に足を取られようだ。
―ゴン
少女はそのままバランスを崩し宇宙船にぶつかりへたり込んだ。
-ガタン
「ん?」
その衝撃で宇宙船の一部が傾き、そしてその上に乗っていた部品が…
「きゃん―!」
彼女の頭部にジャストヒットした。
―ガランガラン
っと動く部品がその動きを止めてなお彼女は起き上がらない。
「え?うそ?死んだ?」
体を起こし彼女のもとへ向かう。
「すぅー、すぅー」
幸い呼吸はしており死んではいない、先ほどの衝撃で気を失ったのだろう。
はぁ~っと大きくため息をする、襲われていたとはいえ死なれては後味が悪い。
「お…い、こっち……だ」
緊張から解放され、少し落ち着いたころ、遠くから声が聞こえた。
どうやら自分以外にも爆発音を聞きつけ集まって来たのだ……
「まずくないか?」
改めて辺りを確認する、謎の宇宙船、全裸にコート1枚の気絶した少女。
そして薄着の不審者のような自分。
どう考えても捕まるのは俺だ。
「まずい、どうすれば…」
こうなるとまともな判断が出来なくなるのは人類共通だろう、その結果俺がとったのは…




