4.
「ただいま…」
少女を背負い叔父に借りた家たどり着いた。
辺りでは警察か消防か、それとも救急かのサイレンがひっきりなしになっている。
「疲れた…」
まだ何もない部屋にタオルを敷き、少女をその上に寝かし、自身はそのままフローリングの上で横になる。
―ちょっと悪いことしたかもな…
叔父からこの部屋のカギを受け取る際、彼女の存在に気づかれると面倒くさいことになると思い、彼女を玄関のわきに隠して急いでいるからと鍵だけふんだくってきてしまった。
道中もオーバーサイズなコートが幸いして全裸だとはバレていないとは思うが…
「あれは不審者だったよな…」
翌日の不審者情報に自分が乗っていないことを祈ろう。
「荷ほどきもしないといけないのに…」
壁に掛けてある時計を確認するとまだ15時を回ったところだ、まだ今日という日は余裕がある…
そう言い訳をしながらいろいろあった今日の疲れをいやすため、しばしの眠りについた。
※
「ね…、お………った~」
体を揺さぶられ、意識が少し覚醒する。
「…ぇ、……か減った~」
「うん、なに…」
眠気に抗い、聞き取れなかった言葉を再び聞き返す。
「おなか減った~、ご飯~」
あ―はい、ご飯ね、眠気を振り払い時計を確認する、針は8を指しており外は暗い、おそらく20時だろ―
「うえぇ!?」
ばっと振り向くとそこには俺が拾ってきた?連れ込んだ?少女が座り込んでいた。
殺される!?
咄嗟に身構える…が少女は「ん?」っときょとんとしている。
「あ…れ?」
少女の表情には敵意は一切見られなかった。
「ご飯は?」
※
「どうも~」
ガチャッと扉を閉める。
引っ越したばかりで冷蔵庫もないため宅配ですぐ届くピザを取った。
それとほぼ同時か、ガラガラと洗面所の扉が開く。
「ご飯来た~?」
出てきたのはダサTを着た少女だった。
※
胸元に[漢!!]っとでかでかとプリントされているTシャツを着た少女が残り少ないアイスを惜しむように食べている。
こんなTシャツ買った記憶がないが知らぬ間に買ったのだろう。
自分で着れば痛々しい勘違い野郎だが、少女が着るとギャップなのかシュールさなのかかわいく見えるのがふしぎなものだ。
「で、だ」
少女がアイスを食べ終えるのを待ち、話を切り出す。
「まず君の名前は?」
うーん…?っと首をかしげ、ハッと気づいたように指を天井に向ける。
「天井…は違うだろうし……」
指先が示しているのは…照明器具、つまりは―
「明かり、あかり?」
っぱっと少女の顔が明るくなる、どうやら正解だったようだ。
「それで?あかりはどこから、何をしに地球に来たの?」
今日見た宇宙船のようなものを思い出す、状況的にあれに乗って来たのがあかりと判断するのが正解だろう。
再びあかりがう~んっと考え込む。
「わかんない、空から来た」
「え?じゃあ名前以外で何か覚えていることは?」
まさかと思いながらも質問する、が、その返答はそのまさかだった。
「わかんない、何も覚えてないの」
少し申し訳なさそうなあかりの態度的に嘘は言っていないだろう、つまり彼女は
「記憶喪失、記憶がない、ってこと?」
小さくてかわいい奴みたいな質問に彼女はこくりとうなずく。
「マジか…」
頭が痛くなる。
つまりあかりはかろうじて覚えていた名前と、空から、おそらく宇宙から来たということしか覚えていないのだ。
「警察...はやめておいたほうがいいよな」
そもそも一度墜落現場から逃げたという前科がある。
「ふぁ~」
うーんと今後について考えながら唸っているとあかりが小さな口をあけ、かわいらしいあくびをしていた。
そんな明かりを見ているとこちらにもあくびが移ってくる。
「あまり考えても仕方がないし、今日は寝るか」
時計を見ると22時、いつもならば寝るにはまだ早い時間ではあるが、いろいろな疲れもあってか眠気が襲ってくる。
ベッド...はまだないし、布団...はどこかにあるはずだ。
眠気が襲ってくる中、部屋の押し入れなどを探すと敷布団と掛け布団が見つかった。
ただし一組。
一人暮らしと伝えていたから本来では問題ないが...
「予備ぐらい置いといてくれよ...」
まだ見ていない押し入れも確認したがどこにもない。
さすがに1月の夜に掛け布団なしで寝るのは自殺行為だ。
仕方ないか...
一組の布団を敷き、その横にタオルを敷く。
幸い掛布団は少し大きめだったこともあり、ギリギリではあるが何とかなるだろう。
うとうととしているあかりを布団に寝かせ、自身はタオルの上に横になる。
掛け布団は...あかりの方に多めにかけた結果、少しはみ出してしまったがまあ1日ぐらいなら大丈夫だろう。
底冷えで少し寝付きにくかったが、疲労のほうが勝り、いつの間にか意識は闇に落ちていた。
目を覚ますと見知らぬため物の中で眠っていた。
あたりを確認するとこの星の様式のベットだろうか?の上で眠っていたようだ。
「うーん」
隣から唸り声が聞こえとっさにベットから飛び出す。
「さむ...」
室内だというのに凍えるような寒さだった。
ベットに目を向けるとそこにいたのは宇宙船で私の裸を...宇宙船で出会った男だった。
「うそでしょ...」
私はこの男と寝たのか...
慌てて体を確認するがどこも汚された様子はなくホッとする。
だがこの服はなんだ、この星の文字がでかでかと書かれているシャツだ、シンプルにダサい。
ダサいシャツを脱ぎ、戦術スキンで衣装を切り替えーられた。
ついつい使ってしまったが、墜落時に故障したはずだったのだが...まあ治ったのであればいい。
私はこの星に潜入する前の調査で少女に人気と言われているらしい服、地雷系というものに切り替えた。
「さて...」
と改めて寝ている男を確認する。
この男が何を考えて私をこの場所に連れ込んだかはわからないが、恐らく敵意はないだろう。
だがこの場所にいて状況が改善することもない。
私は男に背を向けこの建物を後にした。
建物を出て10分ほどだろうか、私は今回の作戦の目的地近くに到着した。
目的地は森の中にあるが、道中は砂利で整備されており、ところどころにゲートが設けられている。
定まった様式があることからここはこの星の宗教施設だろうか。
可能な限り音を殺して歩くが砂利を踏みしめる音が夜闇に響く。
「セキュリティは万全ということか」
5分ほど歩き目的地が見えてきた。
本宮と呼ばれる場所だ。
マップを確認する限りでは横道から直接アクセスできそうではあるが...
どう見ても罠だ、決戦兵器という最重要武装を保管するにはずさんすぎる。
であればどうするのか、もちろん決まっている。
念のためにあたりを確認する...が人は誰もいない、夜更かしな鳥類だろうか?がこちらをじっと見ているだけだ。
誰も見ていないことを確認し、左側の腰当たりの何もない空間を意識する。
そこに手を入れると水に手を入れるような感覚、そして引き抜くと何もなかった空間から刀が出現する。
その刀を振りかざし、正面の門を―
『なるほど、位相転移コンテナ技術ですか~(。-∀-) 』
「だれだ!」
意識外からの声に振り返る、が誰もいない。
『こっちですよ~(^ω^) 』
再び門の方を振り向くとそこには銀髪に赤いメッシュを入れた少女が立っていた。
「クソ!」
刀を一振りし後方に退く、当たったはずの刀には何の跡もなく、手応えも無かった。
『ぐえ~やられた~( x _ x ) 』
「...は?」
彼女はやられたふり?をしてその場に倒れこんだ。
『く、私を倒そうが第2第3の私が~( º﹃º ) 」
その時ブンっという音が後方から聞こえた。
「なっ...」
振り向くと彼女の言葉通り、さらに2人の彼女がそこには立っていた。
『そんなものはしまって、少しお話しましょ(⌒∇⌒)』
後ろから私に抱き着きながら耳元でささやく。
相変わらずその体に手応え、というか実態艦はなかったが刀を収める。
『わかっていただけて良かったです(^^) 、お、もう一人お客さんが来ましたね(#⌒∇⌒#) あなたの連れ...ではなさそうですが、どういう関係ですかね(^ - ^) ?』
私がここに来るまでに歩いてきた道を確認すると、そこには私の横で寝ていた男が歩いてきていた。
後ろでもぞもぞとしている違和感で目が覚める。
寒さで眠りが浅くなっていたというのもあるだろうか。
ばさっという音と共にあかりが起き上がる気配がし、しばらくすると布団から飛びのいていった。
窓ガラスの反射を利用して状態を確認していると、バサバサと自分の体を確認した後、漢Tシャツを脱ぎ捨て、裸になる。
咄嗟に目を閉じるとうっすらとした光が部屋に満ち、バサッという音がした。
恐る恐る目を開けると地雷系に身を包んだあかりが窓ガラスに反射していた。
少しの間こちらを見つめていたようだったが、あかりはそのまま部屋を出ていき、家を出て行った。
ガシャンー
扉が閉まった音を確認し体を起こす。
「え、どゆこと?」
あかりの様子は記憶を取り戻している様子でもあった。
が、もし記憶を失ったままどこかに行ってしまえば大変なことになる。
「心配だから...一応...」
パパっと着替え、コートを羽織る。
あかりを追いかけるため家を出たが...
「すぅー、どこに行った?」
幸い、大通りに出たところ、反対側車線を歩くあかりの姿が見えた。
信号待ちをしている最中、あかりが角を曲がってしまい姿を見失う。
あの方向は神社?
信号が青に変わると同時に小走りで追いかけ...追いかけ...
「はぁ、はぁ」
体力不足を実感していた。
デスクワーカーだったのもあるがここまで体力が落ち込むものなのか...
小走りはやめ、急ぎ足程度のスピードで彼女を追いかける。
2,3分だろうか、彼女に遅れて角を曲がるとすぐに神社の鳥居が目に入る。
深夜ということもあり宮内の照明はすでに落ちていたが、月明かりが道を照らしていた。
「夜の神社って独特な雰囲気で少し怖いよな...」
『わかります、なんか雰囲気ありますよね~( T д T ) 』
「ほんとに...どわ!!」
暗闇の中、急に後方から銀髪赤メッシュの和服美少女が声をかけてきた。
相変わらずいつの間にかARグラスの電源がオンになっていた。
…こっちのほうが怖い気がしてきたな...
「急に話しかけるのやめてくれよ...こんな暗闇で...」
歩みを止め、心臓を抑えながら小言を投げかける。
『いやいや、こっちのセリフですよ~(。-∀-)こんな夜中に二人も宮内を歩いてるんでびっくりしてスリープモードが解除されたじゃないですか~ (#^ω^) 』
「つまり寝ているところを起こされて怒ってると...」
つぐもは『その通り( ・ω・)つ』っと こちらを指さした。
「悪いとは思うが別にこの時間に通っても問題ないだろ...その報復で驚かさないでくれ...」
そういいながら再び歩みを進める。
少し立ち止まったせいかあかりの姿は見えなくなっていた。
『彼女を追いかけてるのですか(・∀・)?』
そういったつぐもの顔は何かを探っているようにも見えた。
「まあいろいろあってね、彼女とも話してるの?」
その質問につぐもは少し考えるそぶりをして答える。
『ええ、とても楽しく話していますよ (- □ -) 』
言葉と表情が一致していないんだが...
「まあそれならいいけど、で、彼女はどこに?」
『もうすぐ見えますよ~では~(≧▽≦)ノシ』 っと言い残し、つぐもはどこかに消えていった。
「相変わらずなにをかんがえているんだか...」
AIのことは少しはわかっているつもりだったが、思い過ごしだったのだろう。
そこから100mほど進んだところだろうか、つぐもの言った通りあかり...となぜか3人に分かれているつぐもが見えてきた。
あかりの手には刀のようなものが握られていたが、つぐもが後ろから抱き着き何かを言うと刀をしまったようだ。
何かあったのかと思いながら歩いていると、あかりもこちらに気づいたようで、つぐもがこちらに来いというかのように、手招きするので小走りで二人のもとに向かう。
二人のもとに着くと改めてつぐもがこちらをジーっと見つめて、あかりに話しかける。
『彼は本当に普通の人間なんですね~(- □ -) 』
「何度もそう言っているでしょ、彼と私は何の関係もないわ」
『ふーん(* ̄- ̄)』というつぐもはどこか納得していない様子だったが...
「これどういう状況?」
俺が絞り出せた言葉はこれだけだった。
「あのー...俺は役不足じゃないですかね?」
深夜の神社、さらに一般人は入れない本殿内で宇宙人、AI、そして俺という一般人の3人?2人と1体?が集まっている。
かなり多様性に富んだ組み合わせだが、その中に混ざる一般人はどう考えても役不足だろう、せめて政治家や社長...
[俺はついていきます!]
[すみません、やっぱり俺はー]
あぁ”!
軽く頭を振るい、いやな記憶を頭から振り払う。
『彼女を拾った時点でもう手遅れですよ(。-∀-)b 』
「まぁ、首突っ込んだのはこちらだけども...」
「で?こんな場所に敵を誘い込んで何のつもりだ?」
そんな調子のつぐのにさっさと要件を話せといったような態度であかりが話しかける。
『まぁまぁ、そんなに焦らないで~( ̄▽ ̄) ~』
そう言うつぐもにあかりは何か言いたいようだったが、ぐっとこらえていた。
そういえばあかり、記憶を取り戻したのか...いや、それはそうとして敵ってどいうこと?
宗教派閥とかか?っと思ったが、宇宙人だし関係ないだろう。
「あかり、つぐもとはー」
『おまたせしました~、こちらにどうぞ~(⌒∇⌒) 』
口を開き質問しようとしたタイミングだった。
つぐもがそういうと、ミシミシという音を立て、畳の1枚がせりあがっていく。
そしてそこから現れたのは地下に続く階段だった。
「これは...!」
あかりは何かに気が付いたようだったが俺はなにもピンとこない、恐らく二人にだけ通じる何かがあるのだろう。
『じゃあ、わたしはここまでなので、下に降りたらまっすぐ進んでくださいね~(≧▽≦) ノシ 』
その言葉を聞いて聞かずか、あかりはさっさと下に降りていく。
「つぐもは来ないんだな」
『ここから先は私が行く必要ありませんので~( ̄ v  ̄) 』
「なんか含みがある言い方だな...」
と思いながらも、どうせ進まなければ話は進まないだろうと割り切り、階段を下り始める。
階段を降りる際中、一度振り返るとつぐもはこちらを見守って?監視して?おり、振り返ると手を振って『(⌒∇⌒) ノシ』くれた。
2階分ほどだろうか?階段を降り切ると神社の地下とは思えない、赤色灯に照らされる整備された通路が出迎えてくれた。
赤色灯ということもあり、潜水艦や艦船の通路のようにも思える。
「こんな場所があったなんて...」
っと感心していると先の方にあかりが歩いているのが見え、それを追うように通路を歩き始めた。
しばらく進むとあかりが立ち止まっているのが見えた。
少し急ぎ足で彼女のもとに向かうと、どうやら進めるのはここまで、行き止まりのようだった。
そこは今までの赤色灯の通路と異なり、少し寒いぐらいに冷房が効いた、モニターやサーバーが置かれているサーバールーム...というよりはCIC、作戦指揮所のような場所だった。
「あのー、あかり...さん?状況教えていただけませんか?」
こちらの質問に目線をあわせー
「......ふっ」
一瞥されてしまった。
どうやらこのあかりは記憶を失う前の、俺に敵意を持っているあかりのようだ。
そんな彼女と二人きりなのは気まずいなと思いながら、なんとなくあたりを見回してみるが、モニターにサーバーがあるだけであり、モニターに表示される情報はよくわからないものもあれば、webニュースのサイトを巡回しているモニター、各地のテレビ番組が表示されているモニターなど様々だった。
そんな感じであたりを見回していると、ガコン、っという音を立て、奥にあった扉が開く。
『いやー、よく来てくれたね』
扉の奥からは声が聞こえ、誰かが出てくるのかと少し身構える。
それはあかりも同じようだ。
…があいた扉の先には誰もいない。
『いつか来るとは思っていたけど、まさかこんな夜中に来るとは思っていなかったよ』
ペター
あれ?っと思ったのもつかの間、扉の足元からペタっという何かが歩く音が聞こえた。
ペタペタペター
その声と足音は徐々にこちらに近づいてくる。
サーバーやデスクの死角に入り、その姿は見えない。
『基本日中しか起きてなくってね、さっきまで寝てたんだよ』
そしてそれは俺たちの目の間に現れ、その正体は俺とあかりの予想を大きく裏切るものだった。
『どうも、宮森つぐも、の中の人、もとい中の鳥だ』
「ニワトリ?」
目の前に現れたのは神社で買われている鶏、ニワトリだった。




