第7話 魔族は化け物
学園のアイドルな彼女は魔王様、平凡…8話目
第7話 魔族は化け物
食堂でキョウが加わり3人で大浴場に向かうこととなった颯太一向。
食堂は2階で大浴場は1階にあるのだが、2階から1階と言葉で言うなら短い距離と思われるが、広々として高々な魔王城でそれは通常は数倍の労力が使われる。
つまり、時間もかかるわけで、大浴場に向かう道中で会話が広がる。
「それにしても本当に意外だな。キョウもホロウさんと同じ魔王の従者だなんて。もしかして、魔王の従者ってホロウさんやキョウ以外にもいるのかな?」
従者の定義は分からないが、2人いるなら他にもいても不思議ではないと颯太が尋ね、キョウは頷き。
「いるゾ。キョウとホロウを除いてあと3人いル」
「へえ? その人たちはどんな人なのかな?」
「そうだな〜。アホ犬、ビッチ、サボり女ダ」
「…………はい?」
「ダ・カ・ラ! アホ犬、ビッチ、サボり女ダ」
沈黙の空気が流れる。
キョウは残りの従者3人のことを教えているのだろうが、全然紹介になってない。
唖然としている颯太に助け舟ならぬ、お助けベルがしっかりとした説明をする。
「私も全員を拝見したことはありませんが、聞いた話では魔王様の従者は全員で6人おり。
一人目は先ほどお会いになった憑依騎士のホロウ様。
二人目は目の前におられる、猫又のキョウ様。
三人目は木の葉天狗のサザン様。恐らく、アホ犬と呼ばれた方です。
四人目は淫魔のヨル様。ビッチと呼ばれた方です。
五人目は吸血鬼のセルネ様。恐らく、サボり女と呼ばれた方で。
最後に六人目ですが、魔導士のジック様…………そういえばキョウ様。ジック様のことを忘れておりますね」
「ア? ダレだ、ジックって? キョウ、そんなヤツ知らんゾ。新入りカ?」
「…………そういえば、何故私はこの様な名を知っているのでしょうか? 最近、誰かから聞いた様な気はするんですが……」
「なに意味わかんねえこと言ってるんダ。いいだろ、もう。早く行かねえと風呂が混むゾ」
興味ないとバッサリ断ち切ったキョウは歩足を合わせず一人先に進む。
何処か上機嫌に歩くキョウ先頭に大浴場に向かう颯太達だが、前方から誰かが歩いて来る。
豪華な装飾が施された貴族の服を着る美丈夫な男性。
威圧するように目を吊り上げ、怒気を籠らす眼光。
服装からして上流階級と思われる男性は、表情を強張らせ。
「くそがっ、虫唾が奔る穏健主義が、また俺様からの上申を断りやがって! やはり、あの下等な劣等者がこの国のトップなどあってはならねえ。あの作戦の前倒しするべきだな」
苛立ちを胸中に抑えることが出来なかったのか、誰かへの不満を零す男性。
触れれば厄介な目に遭うのは確実の男性が近づいて来て、緊張が高まる颯太。
気配を薄めるように息を止めて、男性と横切る。
何事もなかったと胸を撫でおろす颯太であったが、男性が通り過ぎてから数歩後。
「オイ貴様ら。このアミレッド家の次期当主であるアスタ様が通ったのに挨拶も無しか。礼儀も知らぬ下賤が、殺されてえのか」
怒気や殺気をばら撒く男性。
颯太は息を止めたことで挨拶は出来なかったが軽く会釈した。
使用人のベルもだ。彼女も使用人らしく軽く会釈はしていた。
だが、キョウは全く興味がないとばかりに後頭部に両手をあてて過ぎ去っていた。
挨拶無しは失礼なのは承知するが、恐らくそれだけではなかった。
無礼な振る舞いに対してもあるだろうが、彼は誰かに溜まった鬱憤への八つ当たりを晴らしてると思えた。
不機嫌そうに睨む男性に颯太が委縮しているのに対して、キョウは、ぶっきらぼうな表情を浮かばせ。
「あぁ? オマエ、誰だヨ」
男の不機嫌度が更に高まる。
上流階級と思われる男性に対しての不遜な態度に、男性は今にもキョウを殺しかねないほどの怒りを表す。
先の襲撃の恐怖を思い出した颯太が後ずさった時、男性は強く舌打ちをする。
「流石、教養のなってない獣人だな。貴様の顔、覚えがあるぞ。名前は知らんが、あの出来損ないの魔王の従者だったな。こんな礼儀作法も知らぬ、低知能な獣人を従者に選ぶなど、魔王の度量もたかが知れてる」
魔王、つまりは真奈のことを言っているのだろう。
従者は所謂魔王の右腕的存在。従者の質が魔王の箔に直結していると言っても過言ではない。
だが、仮にも一国の長である魔王に対しての彼の不敬な言動。
まるで、真奈を魔王として認めてないかの様に思える。
真奈を馬鹿にされて癪に障る颯太であるが、キョウがプルプル震えているのに気づく。
「キョウ……もしかして」
「オイオイ大丈夫だゼ、ソータヨ。キョウもマーちゃんの従者で、れっきとした大人ダ。あいての悪口にイチイチきれねえヨ」
キョウの額に浮かぶ青筋が噴火寸前なのだと物語っている。
キョウも魔王の従者なのだから理性で何とか堪えているようだ。
キョウが何も言い返さないことを良いことに男性は鼻を鳴らし。
「知能が低い畜生に何を説いても無意味だろうから、今回は俺様の寛大さに感謝するんだな、穢れ血を引く魔王のじゅ――――――――!」
「――――――――え?」
男性が最後の煽りを言い終わる時、男性の瞠目した目が颯太を捉えた。
「ガハッ!」
突如、男性は颯太の喉を掴み、そのままの勢いで壁へと張り付けにする。
背中に走る激痛に、喉への圧迫による窒息、握力による骨の軋み。
「な……に、を」
声を颯太が絞り出すも、男性はゴミを見るかのような冷徹な眼で睨み。
「貴様から感じる虫唾が奔る気配。さては、人間だな? 何故人間がここにいやがるんだ!」
空気を震わす怒声をあげ、男性の殺気は最高潮に高まる。
「かっ……た、確かに……僕は人間です。それ、が、どうしたんですか……」
颯太が決死に答えると男性の握力は更に強まる。
「貴様、まさかタウラに生け捕りを命じた人間じゃねえよな。アイツ、ヘマしやがったな」
何を言ってるのか、そんな疑問すらも颯太は呼吸困難な現状で口に出来なかった。
人間は首の骨を折られれば簡単に死ぬ。
死にかける颯太などお構いなしの男性は躊躇いもなく更に力を強める。
「なんにせよ、人間風情が魔界に足を踏み込むなど目障りこの上ない。この場で俺様が貴様を殺して――――――――!」
颯太は男性に首を折られ殺されるのを想像した時だった。
ドガァアアアアアアアアン!
廊下を鳴動させる轟音と揺るがす振動。
それの発信源は間近で、颯太を掴む男性の握力は緩み、浮いていた颯太は地面に落ちる。
狭まった器官が正常に戻り、入り込む空気が酸欠寸前の颯太には至福に思えた。
あと数秒遅れてたら、首の骨折や窒息で確実に死んでいた。
そんな危機的状況を救ったのは、キョウだった。
「……どこかのいけ好かないクソ野郎だと思ってたガ、思い出したヨ。アスタ・アミレッド。名家アミレッドのボンボンカ。マーちゃんに因縁をつけるつまんねえ顔だったから忘れてたヨ」
壁の近くに立つキョウの真横には巨大な壁穴が広がっていた。
先ほどの轟音は、キョウの想像しがたい怪力によるものなのか。
「オイ、クソボンボン野郎。キョウヘの悪口はおとなだからガマンしてやるガ、なにキョウのソータに手を出してやがるんだ、ごらっ。そのムカつく面をボコボコに腫れ上がらずゾ」
キョウから溢れる憤懣に颯太も思わず震え上がる。
キョウとアスタと呼ばれる男性の両者から放たれる殺気が空間を侵食する。
折角解放されて呼吸できる颯太だが、思わず呼吸をするのも忘れる程の緊迫感。
これが、人間ではない亜人、魔族同士の本気の殺気のぶつけ合いなのか。
互いにまだ距離がある。
だが、動いたのは同時だった。
「オリャアアアアア!」
キョウがその細腕を床に叩きつけると、割った衝撃は土石流の様に石畳を砕きながらアスタへと迫る。
一方アスタも、掌の火球を生成して、それを握り潰すと、爆炎となった炎を放つ。
土石流と爆炎の衝突。
廊下に迸る閃光と爆音。
吹き荒れる暴風に煽られた颯太は壁へと叩きつけられる。
黒煙が覆う廊下で対峙するキョウとアスタ。
睨むキョウにアスタは侮蔑が含まれる真顔を向け。
「へえ、褒めてやるよ。かなり手加減したとはいえ、俺の爆炎を防ぐとはな」
「ぬかセ! それはコッチのセリフだってんだヨ! オマエ、マジでボコボコにするゾ!」
がなるキョウにアスタは追撃の炎を掌に点火させる。
二人のいがみ合いはどちらかが倒れるまで終わらないのか、颯太がそう不安に思った時。
「お待ちくださいアスタ様」
キョウとアスタの間に割って入るベル。
先ほどの力の衝突による被害は無傷だったようで、汚れが一つもないメイド服のベルにアスタは眉間に皺を寄せ。
「あぁ? なんだ貴様。使用人風情が俺に指図など無礼だ――――――――」
「まだお食事の時間には早いかと。ですが、実は熟しました。明日のランチにメインディッシュをよろしければ」
颯太とキョウに聞こえない声量でベルがアスタに何かを伝えていた。
ベルの言葉を聞き、アスタは驚いたように目を開き。
「貴様…………まさか」
アスタは何かを察したのか、不機嫌だった表情から一転して口端を吊り上げ鼻を鳴らし。
「そうか。メインディッシュが近いなら腹の足しにもならん奴を相手する必要もないな。命拾いしたな、出来損ないの魔王の腰巾着」
「オイ!逃がさねえぞゴラッ!」
背中を向け立ち去るアスタをキョウは追いかけようとするが、ベルに羽交い絞めにされ。
「キョウ様。これ以上暴れれば魔王様から大目玉をくらいますよ。落ち着いてください」
「知るかッ! アイツはソータに手を出したんだ、せめて一発ぐらい殴らせロ!」
暴れるキョウが落ち着くのはもう暫くかかった。
殴る相手の姿が完全に見えなくなり、相手がいなくなった虚無からキョウの握られた拳は一撃壁に打ち込まれるも、そのあとは落ち着きを取り戻した。
「アイツ、今度会ったらタダじゃおかねえゾ。ギタギタにしてミンチ肉にしてやるゼ」
物騒なことを呟くキョウに颯太は歩み寄り。
「ありがとう、キョウ。キョウのおかげで何とか助かったよ」
「別に礼はいらねえヨ。それにしても、災難だったな、ソータ」
不満げな表情だったキョウも颯太の顔を見て照れくさそうにそっぽ向く。
颯太は困った顔で後髪を搔き。
「こんな短い間に2回も命を狙われるとは思ってなかったけど、これが現実なんだろうね。人間で非力な僕は何も出来なかった。キョウがいなかったら今頃僕はどうなってたか……」
人間と魔族とでは種族としての肉体の構造が違いすぎる。
人間にとって全力でも魔族にとっては戯れ程度の力で圧倒される。
予想もしていたし、覚悟もしていた。
だが、実際に再度直面したことで颯太は魔族の恐ろしさを再認識する。
自嘲する颯太に神妙な表情のキョウは語る。
「そうダ。魔族ってのはソータが思っている以上に危ない奴らなんダ。つまりハ、化け物なんだヨ。キョウも含めてナ」
魔族は人間ではあり得ない力を有している。
人間は太古から超常のものを敬い、崇め、そして、恐れてきた。
力の矛先が向けられれば、誰もが恐怖して化け物だと認識する。
人間界でも比較的平和な日本で生まれ育ったのなら猶更不条理に思うだろう。
「確かに、魔族ってのは僕が思ってた以上に恐ろしくて、他人の命を塵芥と踏み躙るような残虐非道な人も沢山いると思うかもしれない。本当に、キョウが助けてくれなかったら、今頃僕は死んでたかもね」
颯太も重々理解している。しかし、
「だけど、少なくとも。僕はキョウの事を化け物だなんて思わないよ」
颯太はキョウの言葉全てを肯定はしなかった。したくなかった。
は?と唖然とするキョウに颯太は持論を語る。
「魔族だからって全員が怖いってわけじゃないだろ。真奈ちゃんやホロウさん、ベルさんに、キョウみたいに僕に優しくしてくれる魔族だっている。それに人間だって怖い人がいる。結局のところ、種族とかじゃなくてその人個人だと思うんだ」
腰を抜かしていた颯太は震える足で立ち上がり、精一杯の強がりで笑い。
「キョウは僕のことを救ってくれた。僕の為に怒ってくれた。そんなキョウを僕は、化け物だなんて非難はしたくないし思いたくもない。まだ出会ってほんの少しだけどさ――――――――」
颯太は真剣な眼でキョウに言う。
「なんでかな、僕は、キョウのことを友達なんだって思ってるんだ」
その言葉にキョウは目を見開き暫し沈黙する。
痛いこと言った!と内心羞恥する颯太であるが、キョウはぶふぅと吹き出し。
「ニャハハハハッ! まったく、相変わらずおもしろいヤツだナ、ソータは。昔と変わってねえナ。そのドが付くほどのお人よしが」
腹を抱えて笑うキョウに赤面する颯太だが、やはりキョウの言うのが気になる。
「そんなに笑わなくてもいいだろ! てか、相変わらずとか、昔と変わってないとか、本当はキョウは僕のことを昔から知ってたんじゃないの!?」
颯太は恥ずかしさを誤魔化す様に指摘するも、尻目の涙を指で拭うキョウは知らん顔をして。
「いいだろそんなことは別二。てか、ソータはマジで気をつけろヨ。普通なら自分とは違うヤツは嫌って離れるの二、オマエのそのお人よし、ちょっと優しくもらって嬉しくて尻尾振るイヌみたいだゾ」
一蹴されたうえにカウンターを浴びせるキョウは更にニシシと笑い。
「まあ、キョウは、そんなオマエ、悪くないけどナ」
キョウの衒いの無い笑顔にうっと顔を赤らめる颯太。
ガサツなキョウの笑顔に魅力を感じたことに悔しさを覚えている。
固まる颯太の背中を叩きキョウは木霊するほどの気持ちい音を鳴らす。
「痛っ!?」
「オラ、さっさと風呂に行くゾ。早く行かねえと、せっかくの貸し切りが台無しだからナ。というわけで、善は急げの、風呂まで競争ダ!」
「え、ちょっ!? どんだけ自由奔放なんだ、キョウは!?」
「………………はぁ」
勝手に競争を始めて突っ走るキョウの後を、遅れて驚いた颯太は追いかけ、心底呆れたご様子のベルも渋々ながら付いていき、一階の大浴場まで移動するのだった。




