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学園のアイドルに告白したらOKされたが、彼女は魔王で僕は従者になりました  作者: ナックルボーラー
1章 

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第6話 猫娘

 真奈の部屋を後にした颯太はベルの案内の許、魔王城内を歩いていた。

 歩き始めて数分後、


「……はぁ、はぁ……ま、魔王城って、滅茶苦茶広いんですね。もう、足がガクガクなんですが」


「まだ歩き始めて20分程ですよ。この程度でお疲れになるとは、普段運動を怠けているのではないですか?」


 汗だくに加え、少し肩で息をし始めた颯太に突き刺さるベルからの嫌味。

 十数分の歩行といえば大したことがないように思えるが、人並み程度の体力はあると自負する颯太は自身がただ歩くだけで疲弊する要因を恨めしく言う。


「大浴場は1階、真奈ちゃんの部屋は5階だって言われた時はそこまで歩かないかと多寡をくくってましたが、魔王城の廊下も階段も、普通に比べてデカすぎるんですよ!」

 

 魔王城は全8階建てで出発場所の真奈の部屋は5階で大浴場は1階。

 人間界基準で言えば地面から約15メートル程度の高さ、時間も余程牛歩のようにゆっくり歩かない限り20分もかからないだろう。

 だがここは魔界、身長差があまりない人間みたいに作るわけにはいかず、魔族の中には人間の数倍もの巨体な巨人族も存在する。

 その者達が往来できるように設計しなければいけない。所謂ユニバーサルデザインといえる。

 そのため、1階ごとの天井も普通の何倍も高く、人間基準の10階建て相当だろう。

 その分廊下も長く、颯太が通う学校の端から端を3往復できる程に広大。

 高さと長さを合わせると1階降りるだけでも相当な苦労が降りかかることになる。


「このままだと1階に辿り着く頃には日を跨いでしまいます。客人に対して不躾だと重々承知して言いますが、愚痴を零す前に急ぎますよ」


「わ、分かりました。はぁ……こんなことなら普段から体力を付けとけば良かったよ」


 とほほ、と諦めて己の体力に悲嘆しながら長い道を進む颯太。

 その道中で、颯太は小さな声を聴く。


「本当に、なんでウチがこんな面倒な仕事をしないといけないんすか。はぁ……ジャンケンで負けたことが悔やまれるすよ。てか、アイツらはウチの特性を忘れてるんじゃないすかね、真面目に働くって蕁麻疹ダダ漏れすよ……」


 長い螺旋階段を降りる最中に聞こえた誰かの声。

 だが、この場にいるのは颯太とベルのみ。

 颯太でないのなら、必然的にベルになるが。


「あ、あのベルさん、どうかされたんですか?」


「はい? 私がなにか?」


 臆面もない表情で返される。

 耳に届いた口調などがベルとは合致せず、気のせいだったと自分を納得させる颯太。

 裕に10階分はあったであろう螺旋階段を下りきり、2階にたどり着いた颯太たち。

 ぜぇ、ぜぇと息切れをする颯太に呆れた様子のベルは颯太に提案する。


「一度休憩をした方が宜しいかもしれませんね。この階に食堂がありますので案内がてら水分補給をしましょう」


「食堂? 城の中に食堂があるんですか?」


「無ければ城内で働く者達は何処で食事をするのですか……」


 それもそうか、と颯太は当然の事を返されて恥ずかしくなる。

 階段を降りきり、今度は長い廊下を歩き始める2人。

 暫く歩いた先に辿り着いたのは、室内の喧騒が漏れる大扉の前。


「ここが食堂ですか?」


「そうです。保護対象の颯太様が通うか定かではありませんが、覚えておいて損はないでしょう」


 国の最高権力たる魔王の庇護対象で更に魔王のお膝元でもある城内でも颯太の安全は保証されないと言っていた。

 その為、魔王城の使用人とはいえ不特定多数が集まる食堂を颯太が使用できるかは分からないが、魔界の食堂が気になる颯太はベルの後に続き食堂へ入る。


「少し奇想天外な食堂を想像してましたが、意外にも内装は普通ですね」


 魔王城の食堂の内装は食事をする場所と言うべきか清潔で禍々しい雰囲気は一切ないシンプルな造りで、気になる部分を無理やりあげるなら広さが体育館2つ程あるぐらいだった。


「食堂が空いているのは朝6時から8時、昼は11時から14時、夜は17時から20時までの間でしたらいつ食事を取っても良いとされています」


 現時刻は壁掛けの時計を見ると17時になったばかりで食堂は開いたばかりらしい。まだ始まったばかりな所為か声は大きいが人数は人口密度的に1割もいってないだろう。


 ベルは配膳場所と思われるカウンターに手を差し。


「配膳は基本的にセルフとなっていますので、早速お水を一杯いただきましょう。私も喋り疲れて喉が渇いてしまいましたのでご相伴に預からせていただきます」


 そう言ってベルが壁側に設置されるウォーターサーバーに向かおうとした時だった。


「んだとテメェ! もう一度言いやがれや!」


「ああ、何度でも言ってやるからその詰まった耳をほじくってよく聞きやがれ! ウスノロのテメェは目障りで邪魔なんだよ。テメェがいると隊の統率が乱れてしょうがねえ。転属希望か辞表出すかしやがれってんだ!」


「誰がウスノロだ!? テメェも人のこと言えねえだろが! 大した成果出したことがないくせによ!」


 会話の喧騒だったのが喧嘩の怒号が食堂内に響く。

 原因は分からないが、大柄な魔族の男性達が言い争いをしていた。

 全員の視線が集まる中、男性の片方がテーブルに立てかけていた棍棒を取り出し。


「俺はいつか魔王様に認められて従者になることが目標なんだ! 俺をウスノロと言うなら俺を殺してみろ!」


「テメェが魔王様の従者? 面白話をしてるんだろうご、全然笑えねえ話だな! それがありえねえってこと、文字通り身の程を教えてやるよ!」


 売り言葉に買い言葉ともう一人の男性も槍を取り出し一触即発の雰囲気。


「このままだと食事処でグロ描写が撒き散ることになりますよ! 誰か止めないんですか!?」


「止める? 何故そんな面倒な……失礼。不本意ながら私めは非力でか弱い女子ですので、あんな野蛮な男衆を止めるなど……」


 水が入ったコップを両手に戻ってきたベルがシクシクとか弱いアピールする中、遂に喧嘩が勃発しようかとした時だった。


「オイオイ。こんな所でケンカはするなよナ。こちとら連勤空けで疲れてるんだから、しずかにメシ食わせてくれよナ」


 男達の喧嘩の仲裁に入ったのは男達の脇腹程度、男達が2メートル近い為150センチにも満たない小柄な女性だった。

 

「ああ? 邪魔すんじゃねえよガキが! 怪我したくなければどっか行きやがれ!」


「ここはガキが来る場所じゃねえんだよ! おままごとは城下町のガキとしとくだなチビが!」


「ガキ……チビ? フーン?」


 男達は横目程度で把握した女性の特徴で暴言を吐く。

 男達は目の前の相手しか目に入ってないのだろうが、周囲の野次馬達が青ざめ。


「お、おい! お前ら、その方が誰なのか気づいてないのか!? 早く謝れ! じゃないと、マジで痛い目に遭うぞ!」


 野次馬の一人が男達に促すと男達の目線は今度こそはっきり女性へと向けられる。

 そして、女性の正体に気づいた男達の顔面は蒼白となり。


「あ、あなた様は!?」


「ちがっ! あ、あれは場のノリと言いますか!? 気持ちが昂って口走っただけで」


 爆発寸前だった男達の勢いは冷めきり、二周りも小さい女性に萎縮し始める。

 

 女性の特徴は身長は150センチも達してない小柄な体躯。

 髪型は茶髪のくせっ毛。小柄な体躯に合わないフード付きのパーカーを羽織っている。

 ここまでなら普通の人間の説明だが、ここは魔界で普通の人間はいない。

 女性の特徴を更に伝えるなら、頭部には猫の耳、臀部には二又に分かれた猫の尻尾が生えている。宛ら、日本や中国に伝来される猫又の獣人だった。


 男達に暴言を吐かれた女性は自身の首をパキパキと鳴らし。


「場のノリカ。そうか。気持ちは分からなくないからキョウへの悪口は今回は見逃しやるからそんなに怯えなくていいゾ。キョウは大人だからナ」


 女性に恐れ慄いていた男達はホッと胸を撫で下ろすが、しかし女性は続ける。


「けどナ。キョウの目の前でケンカはしないことだナ。なんせ––––––––キョウも混ざりたくなるからヨ!」


 女性は跳躍すると彼女の目線は男達と同じ高さとなり、その華奢な拳が握られる。


「「は?」」


「ウリャッア!」


 放たれる拳打は横薙ぎに振るわれ2人の男を纏めて殴り飛ばすのだった。


「「ぎゃあああああああああああ!!」」


 二回りも小柄な女性に一撃で殴り飛ばされた男達は十数メートル離れた地点まで転がり気絶している。人を殴り飛ばすなど創作の表現で常人ではありえない。

 だがここは魔界。ありえないがありえる世界だった。


 男達の粛清を終えた女性はテーブルに置かれたパンを掴み。


「たくヨ。つまんねえヤツらだナ。ケンカするならもう少し歯ごたえあれヨ。弱すぎてストレスの発散にもならないゾ。これじゃあ逆にたまっちまうゼ」


 殴り飛ばした相手の愚痴を零しながら何事もなかった様に食事に戻る女性。

 

「あーあっ、ひさびさに暴れたいゼ。こんなことならアホ犬でもしばきに行くカ––––––––」


 モグモグとパンを頬張る女性と颯太の目が合った。

 颯太は視線が合ったとビクッするが、見つめ合うこと数秒。


「ぶふぅうううううう!」


 女性は頬張っていたパンクズを盛大に吹き出す。

 何事だ、と驚く颯太を咳き込む女性は睨み。


「な––––––––なんでソータが魔界(こんな所)にいやがるんダぁああ!?」


 少し遠い距離だったが女性は一回の跳躍で颯太との距離を詰めた。

 鼻息が感じるほどに顔を近づけられ、颯太は困惑する。


「見間違いじゃねえ……マジでソータダ。オイ! なんでソータがここにいル! オマエはニンゲンだから人間界にいるはずだロ!? なんだ、迷い込んだのカ!?」


 怒涛の詰め寄りに颯太は戸惑う。

 周囲の魔族達は「え、人間?」と別の意味で騒めくが、目の前の女性はお構いなしだった。


「え、えっと……すみません。あなたは僕と何処かで会ったことがありましたか? 失礼だとは思いますが、覚えてなくて」


 女性は颯太の事を知っているかの様な反応だが、颯太は女性のことを全然知らなかった。

 颯太は人の顔を覚えるのが得意な方ではないが、掠りもしないのは珍しい。

 自分だけ忘れていたら申し訳ないと颯太は失礼ながら尋ねると、女性は我に返った様に残念そうに苦笑する。


「そう……だったナ。オマエは、覚えてないんだったナ。いや、覚えているわけがないって言った方が正しいカ」


 女性は颯太に聞こえない声量で呟くが、颯太はその女性が悲しそうな顔をしていることが気がかりとなり。


「あ、あの、本当に僕だけが覚えてなかったなら大変失礼だと思いますし、僕たちって本当は知り合いなんじゃ……」


 颯太が済まなそうに尋ねると女性はあっけらかんとした笑みを浮かべ。


「んにゃ。悪イ。キョウの勘違いだったみたいだワ。オマエとキョウは別に知り合いなんかじゃねえヨ」


「いや、本当に勘違いなんですか? 僕の名前をしっかり当ててましたし」


(やろう)なら小さいことは気にするなっテ。はじめまして、キョウだ。よろしくナ」


 颯太の胸を軽く拳で突き誤魔化す自らをキョウと名乗る女性。

 他人の空に的な勘違いなのか腑に落ちないが、追及しても颯太はキョウを知らない所為で踏み出せずにいた。ゆえに一旦考えることを止め。


「はい。初めまして、キョウさん。僕の名前を知ってるみたいですが、改めて自己紹介します。立花颯太です。よろしくお願いします」


 初対面の相手な為、礼儀正しい言葉遣いで自己紹介する颯太であるが、キョウは不服そうに眉根を寄せ。


「別にキョウに”さん”を付けなくていいよ、あと敬語もナ。オマエに畏まられると背筋が痒くなるんだヨ」


 それを表現するかの様に身震いさせるキョウ。

 だが、颯太はそれは無理だと首を横に振り。


「い、いや。一応会って間もないですし、僕って、あまり親しくない相手に敬語なしは苦手なんですよね……」


 キョウが許可しても颯太の性格上、知って間もない相手に対して砕けた口調は厳しい。

 渋る颯太にキョウは呆れた様にため息を吐き。


「まだその下っぱ根性が治ってないのカ? 仕方なイ。キョウからソータに2つの選択肢を与えてやル」


 選択肢?と聞き返す颯太を尻目に、キョウは食堂の所々にある天井へ連なる柱の一本へと近づく。

 何をするんだ、と颯太が気になっていると、キョウは徐に石の柱を掴み。


「ふぅ––––––––フンッ!」


 キョウに掴まれた柱はミシミシと軋む音を鳴らして揺れ始め、遂には腐れた端材の様に砕け散る。

 ガラガラ!と落石する音と周囲の悲鳴が轟く食堂の中で、キョウは最後の忠告とばかりにニシっと笑い。


「さあ、ソータ。オマエはどっちがイイ? キョウに肋骨を握り潰されるのと、敬語をやめるの、は?」


「んー! よし! 分かった! これからは敬語も敬称もなしだ! 改めてよろしく、キョウ!」


「それでヨシ!」


 脅迫が成功して上機嫌に親指を立てるキョウ。

 キョウの機嫌が治り安心する颯太。

 目の前で人間なら有り得ない怪力を披露されて恐怖したのは勿論だが、今回初めて会ったはずなのに、キョウの脅しが冗談ではなく本気だと、何故か心の底から警鐘を鳴らされた感覚だった。

 

 互いに親睦?を深めた所で、キョウは改まって疑問を投げる。


「それにしてもヨ。なんでソータが魔界(こんな所)にいるんダ? 普通ならニンゲンのオマエが魔界(ここ)には来られないはずだゾ」


「それは……まあ、色々とあったと言うか」


「イヤ、イロイロあったのは分かるかラ、そのワケを話せっテ」


 至極真っ当に返され乾いた笑いを溢す颯太の助け舟として、ベルが割って入り。


「実はと言うと––––––––」


 人間の颯太が異世界である魔界に来ることになった経緯をベルがキョウに説明。

 聞き終えたキョウは、なるほどナ、と腕を組み納得する。


「ヨシ、分かっタ。それじゃア、さっさと行くカ」


「行くって、どこに?」


 スタスタと歩き出すキョウに颯太が尋ねると、キョウは当然の事かの様な真顔で振り返り。


「ソータを襲ったクソヤロウのところだヨ。ボコボコにしてやル」


「いやいやいやいや! いきなり話が飛躍しすぎだから! なんで相手をボコボコにする話になるわけ!? てか、僕を襲った犯人が何処にいるのか分かってるのかな!?」


「知らん!」


「何故に自信満々に!?」


 颯太の問いに堂々と一蹴するキョウ。

 無鉄砲な発言をするキョウだが彼女は己の拳の骨を鳴らし。


「キョウのソータを襲ったんだからナ。それ相応にぶん殴らなきゃ気がすませねえからヨ。売られたケンカは倍値で買い叩く、それがキョウの座右の銘ダ」


 いつ颯太がキョウの物になったのかなど、色々な点でツッコミどころが満載だが、自分の為に怒っている事に関しては感謝するべきだろう。


「キョウの心意気は素直に感謝するけど、情報がない現状だと何も出来ないんだよね……」


「なラ––––––––片っぱしから殴るだけダ!」


「なんで!?」


 キョウに諦めると言う言葉はないのか高らかに宣言をし颯太は驚愕する。

 そして、何故キョウはそんなことを言ったのか。


「怪しいヤツをぶん殴っていけば、いつかは犯人に辿り着くだろロ。キョウも相手を殴れル、犯人を捕まえれル。うぃんうぃんってやつだ」


「意味が少し違うし……メチャクチャな脳筋的発想だね……」


 無計画なキョウに心を削られる颯太。

 ここ迄静観していたベルが肩を竦めて割って入る。


「キョウ様。何も情報を得ずに無闇矢鱈と暴れれば魔王様の沽券に関わります。それは、《《従者たる貴方様》》がすべき行動ではないと思いますので、魔王様やホロウ様などの調査結果を待つべきです」


「ハァ? 何悠長なことをしてやがるんだかマーちゃんたちはヨ。ちまちま探すよりモ殴っていけば早いのニ」


 ここ迄来るとキョウはただ暴れたいだけではないのかと疑問に思う颯太。

 キョウの野蛮な発言に呆れるが、颯太は気掛かりがあった。


「あのベルさん。僕の聞き間違いでなければ、今、キョウの事を”従者たる貴方様”って言ってましたが……。それに、キョウもマーちゃんって言ってたけど、それって真奈ちゃんのことかな? 一国の長を馴れ馴れしく渾名で呼ぶなんて……」


 颯太が気になった点は2つ。

 1つ目は、この際キョウが敬語や敬称を嫌っているはずは置いておいて、ベルは確かにキョウに向けて”従者たる貴方様”と言った。貴方様が指すのは当然キョウのことで、従者とは。

 2つ目は、話の流れ的にキョウが呼称するマーちゃんとは真奈を指すのだろう。しかし、仮にも真奈は一国の長の立ち位置。そんな人物を友達感覚に渾名で呼ぶなど畏れ多いはず。

 

 1つ目で大体察するが、2つ目でキョウは真奈と近しい間柄だと言うことに確証が得た。


「も、もしかしてキョウって。ホロウさんと同じ、魔王の従者ってこと!?」


「そういえば言ってなかったナ。そうだゾ。何を隠そう、キョウは、魔王マナルデリシアことマーちゃんに仕えるスーパーウルトラハイパーデリシャスグレートビックバン猫なんだゾ。驚いたか、わーはははっ!」


 ドヤ顔はこうあるべきとばかりの顔と胸を反った紹介に颯太は違う意味で冷や汗を流す。

 キョウと出会って数分だがおおよそのキョウの性格は分かった。

 恐らくキョウは、所謂アホの子なのだろう。


「噂ですが、マナルデリシア様が魔王に就任してからの約1年半で始末書は300枚を超えたと聞いております」


 考えるのが苦手で、何度も殴ると豪語しているところから不安視していたが、予感が的中していたようでキョウの評価は芳しくなかった。

 悪い人ではないのだろうが、だからと言って優秀ではないのだろう。


「しかたない。マーちゃんが敵さんの手がかりを掴めるまでは待っててやるカ。それにしても、犯人が捕まるまでハ、ソータは魔王城(ここ)にいるんだよナ」


「一応はね。けど、事件が解決すれば記憶を消されて人間界に戻される約束をしてるんだ。だから、折角キョウと出会えたけど、短い付き合いになるかもしれないね」


「…………ソウカ」


 残念そうに笑うキョウ。

 キョウは気分を払うように首を振り。


「まあなんにせヨ。しばらく魔界にいるんだったら、折角だから楽しめよナ。そういえば、ソータは何しに食堂(ここ)に来たんダ? って、ここに来る目的はメシしかないカ。お腹空いてるのカ?」


「魔界の食事も気になってるから、折角だから食べてみたいけど、ただの水分補給だけ。真奈ちゃんの勧めでお風呂に向かってる道中だったんだ。途中で疲れてここに立ち寄ったってところ」


「そうだったのカ。魔王城の風呂は気持ちいいからな、思う存分くつろぐといいゾ」


 キョウに太鼓判を押され益々大浴場に期待を持つ颯太。

 キョウは、そうだ、と手鎚を打ち、ベルに顔を向ける。


「オイ、ベルって言ったカ? オマエはココまででいいゾ。この後はキョウがソータを風呂場まで連れていくからヨ」


 ベルに代わり案内役を買って出るキョウ。

 だがベルはなりませんと拒否する。


「魔王様直々のご命令ですから途中で引き渡すわけにはいきません。せめて、最後まで同行いたします」


「ウゲェ、オマエって石みたいにカタイ頭してるんだナ。ハァ……したかないカ。ナラさっさと行くゾ。今の時間は人がいなくて空いてるだろうからナ」


 何故か途中参加のキョウが先導し始める。

 魔王の従者という高い位故の横暴かそれともキョウの元々の性格が奔放なのか。

 この際考えるのを止め、キョウを加えて颯太達は再び目的地の魔王城一階にある大浴場へと向かうのだった。

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