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学園のアイドルに告白したらOKされたが、彼女は魔王で僕は従者になりました  作者: ナックルボーラー
1章 

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第23話 密偵者

 魔王の逆鱗による惨状と化す地上より数メートル地下にある通路。

 元々は数世紀前に避難路として開通された通り道だが、大人数を収容でき外的から鉄壁に守る魔撃シェルターが完成したことで今は誰も通らない。


 そんな場所を綽々と歩く人影。

 長年使われていないため整備が行き届いておらず、松明などの光源がないため暗い道だが、その人物は暗闇を見えてるかの様に脱出のために進む。


「はぁ……あの女、最後の最後で余計な壁を作ってくれたっすよ。炎のドームとか、中が全然見えなかったじゃないすか。まあ、それでも粗方の実力は計れはしたけどすね」


 その者は城に使える使用人の服、所謂メイド服を着こなしながら、地上で一国の王と反逆者の戦いを傍観していた。

 だが、途中で魔王マナルデリシアが逃亡を防ぐために全包囲の炎のドームを発生させた為、最後まで中を観察することはできなかった。

 しかし、感じる魔力の動きからおおよその戦いは達観できたことで目的は達成した。


「それにしても、本当に面倒な仕事だったすよ。まさか1年も城で働かされるなんて。あいつらときたら、ウチの特性を忘れたんすかね。真面目に働くのはウチの性分じゃないってのに。じゃんけんで負けたウチが悪いんすけど……」


 女性は木を隠すなら森の中と不本意ながらに着ていたメイド服を脱ぎ捨て、肌着一枚となりながらここにいない者達へ愚痴をこぼす。

 

「それにしても、本当に使えない奴らだったすね。折角ウチが先導してあげたのに、全くの成果も出せずに犬死になんて。流石は、運良く上流として生まれだけの勘違い甚だしい雑魚ってとこすか。元より期待してなかったら別にいいすけど」


 女性––––––––否、魔王城の新人メイドのベルは欠伸をしながら今頃死んでるであろう者に侮蔑を口にする。

 此度の襲撃事件の首謀者は爵位を有する名家出身アスタ・アミレッドであるが、黒幕はこのベルだったのだ。

 魔王城に潜んだベルがアスタ達に情報を与え、彼らを動かしていた。

 目的は自分たちの障害になるであろう敵を見定めるため。


「紅蓮の魔皇を引き出す為の捨て石にはなったすから、一応は誉めとくすよ。早く帰ってだらだらしたい……」


 ベルは足を止めた。

 ベル以外誰もいないはずの地下通路。

 暗闇で一寸先も見辛いが、魔族は暗闇でも多少の視界は開ける。更に研ぎ澄まされた魔力探知と気配探知により、誰かが接近していることに気が付く。


 ベルが足を止めたことで追って来ていた者が姿を現す。


「独り言を聞かせてもらいました。まさか私の方が当たりだったとは……」


 暗闇から現れたのは黒装束に身を包む少女。

 目元以外人物像は確認できないが、少女は短刀を構えてベルの前に立つ。


「誰すか、あんた?」


「私に名乗る名はありません。使用人ベル。貴方が魔王様に不利益となる情報をばら撒き、此度の内乱を先導した真犯人でしたか。抵抗せずに投降を推奨します」


 暗闇でも短刀の鈍い光が奔る。

 突如現れた謎の少女であったが、1年以上魔王城に潜入していたからか正体を察することができた。


「そういえば聞いたことがあるすね。魔王直属の諜報部隊『黒羽隊』。なるほど、ここ最近視線を感じてたすけど、流石の隠密性すね。けど、わざわざ姿を現すなんて、それはどうかと思うすよ?」


「我々の任務は魔王城に潜む密偵者の解明と捕縛。貴方が裏切り者だと知ったならあとは捕まえ尋問に処すだけです」


 魔王直属の諜報部隊である『黒羽隊』。

 構成人数は不明であるが、主君の命を受ければあらゆる情報を得る為に尽力し、更に隊員は全員武闘派である為戦闘面でも頼りになる存在。

 先代魔王エルドラシェルの代から設立された集団。

 

「それにしても、これでも気を付けてたんすけどね。一つ聞くすけど、どうして犯人がウチだって分かったんすか?」


 ベルは自身に降り掛かる面倒ない揉め事を避ける為に細心の注意を払い情報を抜き取っていた。故に何故バレてしまったのか興味があった。


「いえ。貴方の秘密裏な行動には感服します。正直なところ、誰が犯人かまでは特定できませんでした。ですから、僅かでも怪しいと思われた魔王城に使える52名に私同様に監視がついてました」


 つまりの所、脳筋な人海戦術らしい。

 自身の失態はなかったとはいえ、敵の短絡な行動に呆れるベル。

 

「まあ、いいすよ。それで? まさかウチを捕まえれるなんて思ってないすよね?」


「任務である以上は完遂するが黒羽隊の使命です。それが貴族の権力争いに巻き込まれ、家族を失い路頭に迷っていた私を救ってくれた先代と先代の理想を受け継ぐ今の魔王様への忠義!」


 短刀を構え少女は突貫する。

 通路は幅約2メートル、狭い空間では小回りが効く短刀が有利。

 ベルが反撃に転じる前に身柄を拘束する。

 ベルと距離が迫る中、少女はあることに気づく。


「なぜ、私を見ていない……?」


 ベルの視線が少女とは別の方を見ていた。

 正確に言うなら少女の後方を見てほくそ笑んでいた。


「なんだ、あんたも来てたんすか」 


 少女は思わず横目で背後を見る。

 少女の後方にいた第三者。

 その者を見た時、少女は驚愕する。


「なぜ、あなた様が!?」


 少女が目を疑ったかの様な叫びをあげると同時に、彼女の視界は反転する。


「は––––––––え?」


 突如消失する下半身の感覚、天地が裏返る視界。

 宙を舞う視界の中で少女が見たのは、血飛沫が上がる己の下半身。

 そして気づく。

 捉えていたベルから視線を外した刹那。何者かによってベルは寸断されていた。

 

「まおう……さ、ま……もうしわけ……」


 胴体を切断されれば頑丈な魔族でも普通に死ぬ。

 ベルを監視していた少女は暗闇の地下通路にて絶命した。

 

「あーっ、最後の最後で面倒すね、まったく。来て早々悪いすけど、後始末は頼むすよ。死体処理含め記憶操作もあんたの得意分野すよね?」


「––––––––––––––––––––––––!」


「あ? なんで殺したか、すか? いやいや、相手さん、ウチを標的に襲ってきてたじゃないすか? なら、殺しても正当防衛すよ」


 少女の胴体を切断して付着した返り血を払うベルは正当防衛だと主張する。

 だが現れた第三者は尚もベルを睨み、ベルは溜息を吐く。


「なに甘いことを言ってるんすか、まったく。裏切り者でも身内だった相手さんだから情でも湧いたんすか?」


 ベルが詰めると第三者は言葉を詰まらす。

 

「それにしても色々と解せないすね。あんたすよね、あの人間の彼に変な小細工を掛けたのは?」


「––––––––––––––––」


「なに惚けたこと言ってるんすか、気づかないとでも思ったんすか? 認識阻害の魔法。街で幼子と駆ける場面を眺めてたすけど、誰も彼に気づかなかった。けど、この類の魔法は使い手よりも魔力が高い場合効果が薄まるのが定石すから、結局あのお坊ちゃんには気付かれたすが」


 ベルが言う彼とは颯太を指しており、幼子はルーのこと。

 颯太がルーを見つけてからアスタに遭遇するまでの間、颯太は絶対気付かれそうな場面でも見逃されていた。それは、この第三者の仕業だったらしい。


「あの時にウチの目を盗んで彼に認識を阻害する魔法でもかけたんでしょう。彼は一応部外者だから巻き込みたく無いっていう情でも沸いたかもですが、ウチは面倒だから不問にしておくすよ。結果、あの女の力を引き出す要因になったすからね」

 

 ベルは懐を漁り始める。


「ほら。あいつから預かった今回の報酬すよ、受け取るんすね」


 ベルが取り出したのは少量の液体が入った小瓶。

 その小瓶をベルは第三者へと放り投げる。


「––––––––!」


 第三者は突然投げられた小瓶を焦りながら慎重にキャッチする。

 後生大事にするかの様に胸で抱える仕草にベルは首を傾げ。


「本当にご苦労さんすね。“そんなもの“のためにこんな面倒な仕事をするなんて、って、ごめんごめんす。ウチにとってくだらない物でも、あんたさんには大事な物だったすね。アイツから聞いたあんたの身の上話には同情するすよ」


 ベルは此処での仕事を全て完了したのか、第三者から踵を返し。


「それじゃあ、今後の仕事も期待しておくすよ。まあ、あんた的には別にウチらの仲間になったわけじゃなくて、今は相互利益が成立しているだけすが」


 立ち去ろうとしたベルだったが、その足は止まり、顔だけを僅かに振り返らせ。


「あんたの目的が達成された時、最終的にどっちに付くかはあんたの自由すけど、一つ警告しておくすよ」


 ベルは第三者に向けて地盤が崩落しかねない程、真奈にも匹敵、それ以上の強大な魔力を放ち告げる。


「もしあっち側に付くなら覚悟しておくんすね。今代の【紅蓮の魔皇】には正直、少々期待外れすから。あの程度の実力なら、近い将来、ウチらの誰かに淘汰され滅びる。ウチら【七大皇魔セブンス・ディ・レイン】の手によってね」


 第三者はベルの背後に立つ巨大な獣の様な何かを見て戦慄する。

 逃げることも出来ない圧力に第三者は死を覚悟するが、ベルはクスリと笑い。


「慎重男の所為で今はウチらは動かないすよ。けど近いうち、ウチらは各々の野望を叶えるために必ず動く。それまでぬるま湯な安寧を楽しむことすね」


 その言葉を残してベル––––––––否、【黄玉の魔皇】ネリエラ・スローダ・ベリフェリアは煙の様に巨大な獣と共に姿を消した。


 

 

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