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学園のアイドルに告白したらOKされたが、彼女は魔王で僕は従者になりました  作者: ナックルボーラー
1章 

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第19話 永劫の誓い《エンゲージメントリンク》

 瀕死の颯太を抱えて一時的に戦線を離脱した真奈は戦闘の余波が届かない場所にある住宅に入る。

 住人は先ほど避難したのか生活感を残した部屋に対して、緊急とはいえ無断侵入することに心中謝罪しながら、部屋の隅にあるベッドに颯太を寝かす。


 真奈は改めて颯太の容体を診察する。

 真奈も医療に精通してはないが、今の颯太が未だに息をしているのか不思議な程の危篤状態だと言うのは分かる。

 

 本当に颯太は普通の人間なのか疑問は残るが、運が良かったと済まして良いかは定かではないが、颯太が生きていることに今は少し安堵する。

 

 だが、いつ息絶えても不思議ではない瀬戸際。

 この状態になってから既に数分が経過している。

 肺を焼かれて苦しそうに呼吸する颯太を前に真奈は唇を噛む。


「馬鹿だよ、颯ちゃんは。弱いくせに、カッコつけちゃってさ」


 真奈は颯太の無謀な行動に怒っていた。


 各担当場所の制圧を完了した真奈と従者たちは一旦合流したのだが、その時、別の場所で高い魔力の反応を察知して全員で向かった。

 その道中で孤児のルーと遭遇。

 保護した時のルーは取り乱してる所為か説明が支離滅裂だったため、ヨルの記憶鑑賞でルーを記憶を読み取り、分かれた後の颯太の行動を知ることが出来た。 

 

 避難中にルーが集団から逸れ、颯太が彼女を探して火中に戻った。

 その後、最悪なことに此度の襲撃事件の首謀者であるアスタ・アミレッドに発見され、颯太はルーを守る為に必死に抵抗した。

 

 ルーが離れた後の事は分からないが、時間稼ぎの為に抵抗していたのは分かる。

 

 だが結果としては、生死を彷徨うことになった。


 煮えたぎる怒りの感情が胸中に広がる。

 その薪は何なのかは分からないが、真奈は思いの丈を吐露する。


「なんで! なんでこんな無謀なことをしたのかな!? 颯ちゃんは私たちみたいに力も、魔力も、戦う術なんか持ってない弱い存在なのに、こんなの命を無駄にするだけなのに! 運良くルーちゃんが助かりはしたけど……颯ちゃんがこんなになる必要はないはずなのに……」


 最初は勢い任せに大声で叫ぶ真奈だが徐々に声量は弱まり、真奈の足はよろよろと後退する。

 そして部屋の壁に背中を滑らして屈む真奈は自身の顔を震える手で覆い。


「私……最低だ。颯ちゃんは、こんな事を言われるべきじゃないって分かってる。本当はルーちゃんを守った事に盛大に賞賛すべきはずなのに、だけど……言わずにはいられないよ」


 真奈は自己嫌悪に陥っていた。

 本来は颯太は称賛されるべきだと心の中では思っている。

 弱い者が他者の為に動くなと言う事は決してない。

 弱いながらも考え、血を流しながら、恐怖に抗いながら、ただ1人の幼児を守る為に懸命に抗った彼を真奈は尊敬している。

 それでも、真奈は颯太が傷つく事は良しとは思いたくなかった。


「颯ちゃんは只の人間で、相手はこの国でも有数の名家出身の魔族。勝てるはずがないのに、逃げても誰も責めなかった、こんな事をしても貴方には何もないはずなのに……」


 立ち上がり、颯太の元に歩み寄る真奈の瞳から涙が滴り落ちる。

 

「本当に貴方は昔から変わらないね。あの日、初めて貴方を見つけた時からそうだった」


 真奈が颯太と出会ったのは高校から、としているが、実際は更に昔に出逢っていた。

 颯太が告白してくれた際の反応から颯太もあの頃の事を覚えている様子だったが、実はそれよりも前に真奈は颯太と出逢っていた。正確に言えば、遠目から一方的に颯太を眺めていた、だが。


「自分がどうなろうと他人を思いやり、周囲から何を思われても、自分が正しいと思った事を全うする。どんなに見返りが無くても、後悔しない様に……。そうだ。そんな貴方だからこそ、私は惹かれた。仮初でも、貴方の思いに応えたいと思ったんだ」


 火傷で爛れた手を握る真奈は痛々しく感じながら瞑想を始める。

 それは本当の意味で決心する為の最後の心構えをする様に。


「颯ちゃん。私は貴方に対しての本音を言った事はないし、正直、自分でも胸に燻る思いに対して決定はできない。だけど、颯ちゃんをここで失いたくない気持ちだけは信じて欲しい。それで颯ちゃんに一生恨まれたとしても」


 真奈は初恋を未だに知らない。

 告白前から颯太のことを見てはいたが、それは決して恋愛感情ではない。

 告白を受け入れたのも、興味本位が大部分であった。

 だがそれは、颯太をこの場で見殺しにする程に非情な心ではないと言うのは自信を持って言える。


「颯ちゃん。私の魂を、貴方に与えるよ」


 徐々に弱まり始めている颯太の命の灯火。

 保って残り数分。真奈は颯太を救う術を行使する。


 魔法は様々な恩恵を現世に施す御業であるが、魔族に体を癒す魔法は扱えない。

 それは才能云々ではなく、種族の特性の問題であった。

 魔族が体内で貯蔵できる魔力の性質は破壊と呪殺に特化しており、対義である回復などの類は宿敵の天使達が得意としている。

 なら魔族が大怪我を負った時だが、その際は技術による治療行為か人間を遥かに超える魔族の自然治癒力を頼るしかない。

 

 だが、颯太の重症度では治療も自然治癒も期待はできない。


 なら颯太は助からないのか。


 否。真奈は一つとっておきを持っていた。


「初めてだから上手くいくか……いや、上手くいかせるんだ」


 覚悟を決めた真奈は己の指を血が滲み出る程の咬合力で噛む。

 指から滲み出た血は指腹を伝い、指先に到達した血は滴り落ち颯太の口へと垂らす。

 その次に真奈は颯太の体に付着する彼の血を指で擦り、その血を舐める。

 すると赤い魔法陣が真奈と颯太を覆う様に展開される、

 

 真奈はとある契約術を発動させ、颯太と契約を結ぶつもりだった。


 その契約は、サタルディーネ家の当主のみが代々継承され、各々が生涯一度キリしか結ぶことを許されない、術者と契約者の魂を繋げる禁忌の契約術。

 生涯一度キリという制約故に、全幅の信頼を寄せる相手のみの対象となるが、真奈には迷いはなかった。


「今が、その時だからね」


 次の段階で、真奈は再び颯太の血を指で擦り、自らの血と混ぜ、2人の左手薬指に魔術刻印を記す。

 何故左手薬指なのかは、古来から人型の魔族の左手薬指は体内の魔力貯蔵炉に直結していると伝えられ、最も魔力が強く循環している部位だとされている。

 更に、左手薬指に刻まれる魔術刻印は、宛ら永遠の愛を象徴する婚約指輪を彷彿していた。


 契約過程を全て終えた真奈は膝を付き詠唱を唱える。

 

「『我と汝、血の盟約を刻みて、誓いを此処に、汝、悠久に芳流する旅の活路の時を我に捧げるか、我は誓う、この体、この魂が滅却せし時が訪れるまで、汝へ永遠の友愛を––––––––【永劫の誓いエンゲージメント・リンク】』


 詠唱を告げ終えた瞬間、真奈と颯太の体は真紅の光を放つ。

 今度こそ最終過程と、真奈は颯太の頭を優しく起き上がらせ、颯太の唇に自身の唇を近づける。

 互いの唇が触れ合う寸前、真奈は瞬間的に過去に先代魔王である父の言葉を思い出す。


 それは、最愛の母である三陸応那が病死し、母の墓前で泣きじゃくる真奈に向けて父エルドラシェル・ラースド・サタルディーネの言葉。


『マナ。お前の人生はまだ長く続く。お母さんみたいに、これから沢山大切なモノを失うかもしれない。失う事に慣れろなんて残酷な事は言わないが、いつまでも泣いてたって死者は蘇らない。今は泣いていいが、いつかそれを乗り越えて、前を向くんだ』


 5歳児には酷な話であるが、エルドラシェルは自身の指を見て。


『応那は、俺との『永劫の誓いエンゲージメント・リンクを結ぶのを拒んだ。それは、決して俺を嫌いって理由ではなく、応那は言った『私は我儘をずっとしてきた。長くに渡る家の仕来りに異を唱え、後継者としての責務を全うすることはせず、最終的に父を、妹分達を見捨てた。だから私は、長く生きる資格はない。人間が生きれる時間だけ過ごせればいい』と。本当に馬鹿なやつだよ。俺が、お前にずっと生きていて欲しいって思ってたのによ』


 エルドラシェルは魔王としての威厳か常に毅然な振る舞いをしていた。

 だが、応那を亡くした辛さが応えているのか、この時真奈は初めて父の涙を見た。そして最後にエルドラシェルはいった。


『マナ。俺はアイツの気持ちを汲んで契約を結ばなかった。だが、お前にもいつか大切に想える人が必ず現れる。自分の人生を、全てを預けたいと想える程の奴がな。その者が現れた時、お前は『永劫の誓いエンゲージメント・リンク』を結べ。失った後に、後悔しないように、な』

 

 父は願っていた。

 父にとって母の様な、自分の全てを受け入れてくれる存在に出会う事を。

 

(お父さん、お母さん。出逢えたよ。私にも。私の全てを預けても良いって思える程の大切な人に)


 彼は決して強くない。才能に恵まれているわけでもない。

 それでも、他者の苦しみに共感して、他者の為に己を顧みず動き、他者が笑ってくれれば自分も笑える。

 自己犠牲と言えばそうだが、真奈は心底颯太を尊敬する。

 だからこそ、生涯一度しか扱えない最高峰の契約術を迷わず結べるのだ。


「颯ちゃん。貴方と出逢えたから、私自身の王道を見つけることができた。私と出逢ってくれて、ありがとう」


 心一杯の謝意を述べ、同時に真奈と颯太の唇はゆっくりと重なる。



 儀式の最終工程を終えた瞬間、宛ら2人を祝福する様に、淡い光が2人を包み込み、黒雲を穿つ様に光の柱が天を穿った。


 

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