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学園のアイドルに告白したらOKされたが、彼女は魔王で僕は従者になりました  作者: ナックルボーラー
1章 

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第15話 窮地

 街の各地で爆音が響く惨状の中、颯太は孤児院の子供と管理人のレティと共に、魔撃シェルターなる避難所へ移動していた。

 街中には襲撃者たちが蔓延っているため、大通りを通らず、裏通りを通じて目的に向かっている。


「レティさん、避難所までは後どれくらいで着きますか?」


「直線距離でならもう少しですが、敵の配置や瓦礫などの障害物を考えれば、慎重に動くしかありませんのでまだかかります。ソウタ様は大丈夫でしょうか?」


「僕は大丈夫です。ですが……」


 歯切れが悪くなる颯太。

 無理もない。

 颯太は人間界でも比較的平和な日本で生まれ育った一般人で戦争なんて未体験。

 凄惨な状況に徐々に精神を擦り減していくが、最も精神を擦り減らすのは、自身に降りかかる戦争に対しての恐怖や不安ではなく、子供達の怯えた姿だった。

 

 孤児院の子供の中には戦争で家族を失った戦災孤児もいると聞いている。

 まるで家族を失った恐怖(トラウマ)を呼び起こされた様に泣きじゃくり、それが伝播してか他の子供達も震えていた。

 

 子供達を怯えさせる争いに怒りを感じるも、何もできない無力な自分にも嫌気を感じていた。

 

 しかし、真奈にも言われたが、颯太は戦う力を持たない一般人。

 でしゃばったところで、命を無駄にするのが目に見えている。

 無力さに打ちひしがれながらも、僅かでも子供達の恐怖を和らがせる為に、颯太は怯える子供の頭を撫で。


「怖がらなくても大丈夫。今、君たちの王様が頑張っているんだ。だから、僕たちは絶対に生き延びて、王様にお礼を言わなきゃね」


 争いを好まない真奈が民を守るために頑張っているのだから、少しでもその助けになれればと、颯太は子供達に呼びかけた。


 真奈の人望か、魔王の冠かは分からないが、今ので多少子供達の恐怖心が和らいだのか、子供達は強く頷いた。

 

「ありがとうございます、ソウタ様。じゃあ皆! 目的地までもう少しだから頑張って! けどその前に、一旦逸れた子がいないか確認して!」


 レティからすれば休符の様に間を取るべくしての確認だったが、子供の中の少女が周囲を見渡し。


「ねぇ……ルーがいないよ?」


「はぁあ!?」


 確認を促したからと言って子供が逸れていると予想していなかったのか、レティが驚きで裏がって声が上がる。


「レティさん、そのルーって子はどんな子なんですか?」


 颯太も呆然と子供たちを見渡すが、颯太は子供の数や顔は覚えていないため誰がいないのかは分からなかった。

 

「ルーは6歳程度の羊種の獣人の女の子です。年齢の割にはしっかりしている子ですが、動きに関しては鈍い所があります。避難する大衆の波に呑まれてしまったのかもしれません」


 動きが速い大人連中は各々大事なものを抱えて走り、途中で颯太達の集団を通過した。その時にルーという少女は道を誤ってしまったのではとレティは推測する。


「こうしてはおられません。私はルーを捜索しに行きます。申し訳ございませんが、ソウタ様は子供たちと一緒に魔撃シェルターへ避難してくださいますか?」


「それってつまり、レティさんは来た道を引き返してルーちゃんを探しに行くってことですか? 危ないですよ!」


 気持ちが先走りしているのか走りだそうとするレティの腕を掴み引き留める颯太。

 だがレティは強張った表情で颯太を睨み。


「確かに危険かもしれません。ですが、なら猶更子供を戦火の中取り残しておけるわけがありません! お願いですソウタさん、一刻を争うのです!」


 瞬間、近い場所でも遠い場所でも爆撃が降り注ぐ。

 その爆音に颯太の心臓は締め付けられる。この瞬間も独り残されるルーはどれほど心細いか。このまま時間が過ぎれば命も危うい可能性もある。

 初めて体験する戦時に硬直する颯太の腕を振り解くレティ。

 子供たちをこの場ではレティに次ぐ最年長の颯太に託してレティはルーの捜索に駆けようとした時、颯太の視界に入るは子供たちの泣き顔だった。

 

「ま、待ってくださいレティさん!」


 殆ど脊髄反射の様に再びレティを呼び止める颯太。

 

「ッ! なんですかソウタ様! 一刻を争うと言ってるじゃないですか!?」


 心に余裕がないレティも流石に温和はなく怒りを露にする。

 レティの気持ちも痛いほど分かる。

 レティにとってルーも大事な子供、家族だ。見殺しにはできない。

 だけど、

 

「なら僕が、レティさんの代わりにルーちゃんを探しに行きます。ですから、レティさんはこの子達を連れて避難所へ向かってください」


 は?と颯太の予想しない提案に唖然とするレティ。


「な、なにをおっしゃるのですかソウタ様。先ほど貴方もおっしゃった通り、この戦火の中で引き返すのは危険極まりないもの。そんな所に人間の貴方が引き返して、命の保証はありません!」


 昨日まで身近な物ではないと高を括っていた颯太には戦場を生き抜く力も経験もない。レティの言う通り、殆ど自殺行為に近いのだが。


「その通りです。僕如きが引き返しても命の保証はありません。ですが、僕はこの街を知らない所為で土地勘もない、十数人もいる子供たちを統率出来る信頼感(リーダーシップ)もない、万事の時守れる力もない……そんな僕が子供たちを安心させることは出来ません」


 焦りで見落としていた事実にレティも気づいた様で目を見開く。

 

「別に命の重さを天秤に掛けたわけじゃありません。けど、ルーちゃん一人なら何とかなるかもしれない。お願いです。弱い僕ですが、自分に出来ることをしたいんです! だから僕にルーちゃんを任せてください!」


 危険を承知で申し立てる颯太。

 迷うレティだが時間がない今判断を迫られる。

 沢山の思考が犇めくが、断腸の思いで呑みこみ。


「……貴方様は魔王様のお連れで客人です。何かあれば魔王様へ合わせる顔がありません」


「………………」


「ですからお願いします。かならず、必ず! 無事にルーと共に戻ってきてください」


 断られると思っていた颯太はレティからの託された言葉に目を熱くし。


「ありがとうございます。必ずルーちゃんだけでも連れて来ますので!」


「ですから、ソウタ様も含めて無事をお願いします……。私も子供たちを送り届けた後に引き返しますので、合流地点はここ。私が居なければひたすらに東方向に向かってください」


 颯太は頷き返すと、レティは子供の何人かの頭を撫で。


「さあ、早く避難しますよ。必ずお兄ちゃんがルーを連れて来るから、私たちは、私たちの無事を考えましょう」


 更に爆撃音が響く中、レティが子供たちを連れて避難を開始する。

 避難して行く中、子供の一人が颯太を振り返り。


「お願いねおにいちゃん! ルーちゃんを必ず連れて来てね!」


 その子供だけでなく、他の子供たちも言葉には出さなかったが、同じ気持ちの視線を向けて来る。 

 子供の涙ながらのお願いに胸の内から熱い思いが込み上げ。


「もちろん! 僕に任せろ!」


 親指を立てて颯太は誓う。

 そして颯太はレティや子供たちとは逆方向に走りだすのだった。

 


 レティと子供たちと分かれた颯太は爆撃で灯る戦火の街中を必死で走る。

 

「ルーちゃん! 何処にいるかな!? いるなら返事をして!」


 戦場の真ん中で大声を張り上げるのはリスクが大きすぎるが、目視で見つけるのも限界がある。

 敵に発見されないように身を潜めながら探すが数分の間に発見はできていない。

 経過する時間は僅かでも、戦火で昇る気温が颯太の焦りを加速させる。

 五感全てを慣れてなくても必死に研ぎ澄ませ子供一人を探す颯太の耳に、微かな啜り泣きが入る。


「う、うぅ……怖いよぉ……誰か、誰か助けて」


 子供の声も聞こえ颯太は聞こえた方へと走る。

 目的のルーなのか、違くても泣いている子供なら見過ごせない颯太は瓦礫の影に隠れる子供を発見した。

 切れる息で颯太は蹲る子供に声をかける。


「君が……ルーちゃん、なのかな?」


 子供の特徴は身長は幼稚園生程度で頭部に羊の捻じれ角が生える幼子。

 特徴は一致する。颯太の声に気づいた幼子は颯太の顔を見て、ひぃい!と怖がる素振りを見せるが、


「あ、あれ……たしか、マナおねえちゃんと一緒にいた人、だよね?」


「そうだよ。君がルーちゃんで間違いないかな?」


「う、うん……ルーだよ」


 幼子改めルーが肯定した事で安堵の息を零す颯太。

 まず第一目標のルーを発見するが達成され一安心。

 だが、完全油断を切らすことは出来ない。

 ここからはルーを連れてレティと合流若しくは魔撃シェルターへの避難。

 

「僕は魔王様の友達でソウタって言うんだ。逸れた君を探してたんだ。皆心配してるから行こうか。怪我とかはしてないよね?」


「うん。ルーはケガはしてないよ。ごめんなさい……ルーがドジなせいで迷惑かけて……」


「ハハッ。迷惑なんかじゃないさ。仕方ないよ、こんなこと誰も予想なんかできないんだからさ。ルーちゃんが無事ならそれが一番さ」


 蹲るルーの手を優しく掴み立ち上がらす颯太。

 見た限りではルーには埃などの汚れはあるが、怪我らしい怪我は見受けられない。

 

「ルーちゃん、ここに留まってたら危険だから急いで避難所に行こうか。動けるかな?」


 うん、と少し不安げに頷くルー。

 味方と合流できたのは良いが、それが頼りない颯太だから先行きを心配しているのだろうか。

 それでも子供のルーを守れるの自分だけだと颯太はルーの腕を引っ張り。


「それじゃあ急ぐよ、ルーちゃん」


 颯太はルーと共にレティとの合流地点へと走りだす。

 子供のルーと颯太の歩幅と歩調が合わず、颯太からすれば小走りだが、ルーに無理をさせるわけにはいかないと焦る気持ちを押さえながらで可能な限りに急ぐ。

 正直道順は不安だが、うろ覚えながらに進み、着々と見覚えのある景色へと開かれる。


「ルーちゃん、今のペースで大丈夫かな? 無理してない?」


「うん、ルーは大丈夫だよ。ありがとう、お兄ちゃん」


 ルーも少しずつ余裕を持ち始めたのか、颯太の手を握る力が少し強まる。

 合流までもう少しだが、颯太の耳に誰かの足音が聞こえる。


「嘘!? ヤバい! このままじゃ見つかる!」


 避難民なら歩調はズレていてドタバタとしているはずだが、複数で安定した足音から近づく人物は構成員と予想。

 周囲を見渡すが隠れられる路地裏もない。だが、子供なら隠れられる木箱が転がっていた。


「僕は良い。せめてもルーちゃんだけでも!」


 颯太は急いでルーを抱えて、ルーを転がる木箱へと入れる。


「え、お兄ちゃんどうして!?」


「もし敵に見つかっても絶対に声を出さないように! 僕が囮になってこの場から離すから、その隙にルーちゃんは一人で逃げてね!」


「それはダメだよ! お兄ちゃんも一緒に――――――――!」


「ごめん!」


 颯太はルーの制止を聞かずに木箱の蓋を閉め、木箱から視線を逸らさせる為に数歩離れる。

 近づく足音と喋り声。会話からやはり近づく人物は此度の襲撃者の構成員だった。


「逃げ遅れた奴らがいるはずだ! 探せ! 探して殺し、少しでも功績をあげるぞ!」


 血眼になって避難民を探す襲撃者である魔人たち。数は6名。

 各々が武器を携える魔人たちを颯太も目視できた。つまり、相手から颯太を見つけられるのは可能だった。囮になると買って出たとはいえ、恐怖で震える颯太。

 だが、自分がどうなってもルーを逃がすとこのまま逃げ出すことはせず覚悟を決める。


「あ?」


 そして遂に魔人の一人と目が合った。

 心臓が飛び出しそうになり全身から冷や汗が出る颯太は大声をあげて敵を引き付けようとしたが、


「ちっ! ここにもいねえか! オイ、あっちを探すぞ! あっちは爆撃の被害は少ない、そっちにいる可能性があるからな!」


 颯太と目が合った魔人が躍起になって移動を開始する。

 颯太との距離は大体10メートルぐらいだが、この距離で見落とすことがあるだろうか。

 ドタバタと離れていく魔人たち。閑散となるが、颯太は暫し立ち尽くす。


「…………目の前にいても気づかれないって、僕ってそこまで影薄かったのか?」


 発見されず僥倖なはずなのに、それはそれで心に針が刺さる颯太であった。

 木箱に隠したルーを出し、ルーから数言小言を言われながら再び避難を開始。

 

 移動する颯太であったが、再び困難が待ち受ける。


「マジか……。僕が知ってる道はここなはずなのに、瓦礫で塞がれてるなんて」


 ルーを探し始めた時に通った道だが、屋根の瓦礫で通行止めになっていた。

 

「ヤバいなこれじゃ……。ごめんだけどルーちゃん。僕はこの街の道に詳しくないから、ルーちゃんに頼ってもいいかな?」


「うん! ルーに任せて!」


 先ほど身を挺して自分を守ろうとしてくれた颯太に全幅の信頼を置いたのか、会った当初とは笑顔を浮かべてくれるルー。だが、


「……って言いたいんだけど、ルーもこの街に来たのは最近で、あまりくわしくないんだ。ごめんね」


「全然いいよルーちゃん。変な気を使わせてごめん。けど、来たばかりってことは元々は別の街に住んで立ってこと?」


「……うん。もともとはこの街よりも小さい村に住んでてね。だけど、その村はえらいさんたちのあらそいで無くなったんだ。その時にルーのパパもママも、おにいちゃんも……」


 この襲撃事件でルーは過去の悲惨な記憶を思い出したのか涙を浮かばす。

 レティも言っていたが、レティが管理する孤児院で保護している子供たちの殆どは自分たちに関わりがない争いで身寄りのなくなった。

 ルーも最近まで家族に愛されながら過ごせていたのに、理不尽に全てを奪われ、そしてまた悲しさと恐怖を突き付けられている。

 

 今の颯太にはルーの心を晴れやかにする術を持っていない。

 それなら、今の颯太にすべきことはルーを守り切ることだけ。

 

「ルーちゃん。人間の僕じゃ頼りないかもだけど、何があっても君のことは絶対に僕が守り切る。約束だ」


 ルーの頭を撫でて心の底からこの幼子を守り切ると誓う颯太。

 ルーは嬉しそうに頷く。

 颯太は右斜め後ろにあった通れる道を発見。


「あっちなら迂回路になって道が通じているかもしれない。行くよルーちゃん」


「うん、お兄ちゃん!」


 通る道が迂回路となり目的地へと辿り着くことを祈り進む颯太とルーであったが、進むこと5分後、颯太が選んだ道が鬼門へと通じていたと後悔するのだった。


 辿り着いたのは身を隠すことができない複数の分かれ道がある円陣の広場。

 どの道を通ればいいんだと迷う颯太であったが、颯太がどの道を選ぶことはできなかった。


「ほう。情報通り貴様もこの街にいたのだな? だが、魔王と逸れたか? この世界に存在するのも憚られる、劣等種が」


 聞き覚えのある声で侮蔑を投げられ、颯太の鼓動が急加速する。

 爆撃で空は黒煙に包まれるが、その黒煙の間に浮かぶ人影。

 浮遊するその人物は、背中に悪魔の翼を展開させ、文字通り颯太を見下す。

 その人物を見たとき颯太は、恐怖で僅かに委縮するが、理不尽に罪もない住人や子供たちを襲った、恐らく此度の襲撃事件の主犯格である男を睨み。


「お前だったのか、こんな馬鹿げたことをしたのは……アスタ・アミレッド!」


 

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