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学園のアイドルに告白したらOKされたが、彼女は魔王で僕は従者になりました  作者: ナックルボーラー
1章 

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第13話 戦災孤児

 強盗達を撃退し、身柄を留置所に運ぶためにサザンは真奈たちと分かれ、再び二人きりとなった颯太と真奈。

 

「色々トラブルはあったけど、そろそろ東地区に向かおうか。じゃないと、帰りが遅くなるからね」


 買い食いや服の購入、強盗との遭遇などを経て、当初の目的地である赤の国の東地区へと向かう。

 

「それにしても楽しみだな東地区に行くの。観光名所とかあるのかな? 時間に余裕があれば寄ってみたいかも」


「颯ちゃん。一応、視察って名目で行くんだから観光なんてできないよ。とある施設と街の一部を見たら直ぐに帰るからね」


 今回の颯太が真奈に同行したのは、元々真奈は魔王の業務の一環である街の視察であり、公務であるから遊びなどできる暇はない。

 分かってはいたが、魔界の観光名所を一つでも見たかった颯太は少し肩を落とす。

 しょげる颯太の肩を真奈は優しく叩き。


「仕方ないな。なら、襲撃犯や元締めの黒幕とかを退治した後、何処か連れて行ってあげるから、今日は我慢してね」


「本当に真奈ちゃん!?」


「うん。ま、その後は直ぐに記憶は消すけど」


 上げて落とす所業に更に颯太の気分は落ち込む。

 今度は颯太がいじけるが、真奈はガン無視して辺りを見渡す。

 

「うーん。この道には通らないのかな? 別に禁走区域じゃないから待ってれば通りかかると思ってたんだけど」


 何かを探している様子の真奈。

 いじけるフリをしていた颯太は真奈に尋ねる。


「キョロキョロと何を探してるのかな真奈ちゃん?」


「えっとね。タクシー」


 タクシー?と颯太の頭に思い浮かんだのは人間界の道路を走る機械の乗り物。

 お金を払えば目的地まで運んでくれる生業の者に戸惑う颯太を他所に真奈は遠目で発見する。


「タクシーって言っても、人間界みたいな車の乗り物じゃなくて……お、噂をすれば通ったね。あれに乗ろうか」


 真奈は街道を荷台を引き連れて走る小型竜を発見して大きく手を挙げる。

 小型竜は二人の前で停車する。

 荷台を連れた小型竜が真奈の言うタクシーらしい。


 小型竜が独自で走っているわけではなく、御者台には運転手である御者が乗っており、御者は目深く被った帽子を指で上げ。


「どちらまで?」


 声も表情も不愛想な御者が目的地を訊ねて来て、真奈は荷台に荷物を置きながら、


「東地区にあるスユキまでお願い」


「あいよ」


 御者は尚も不愛想に返事する。

 御者は真奈の正体に気づいてない様子だが、不愛想を振りまいていた客が一国の長である魔王だと分かれば、驚きで腰を抜かすのだろうか。

 そんなつまらない考えをする颯太はも、真奈に続いて荷台に乗り込む。


「それじゃあ出発しまーす」


 気の抜けた掛け声で手綱を打った小型竜のタクシーは動き出す。

 

 ガタゴトと街道は整備されていて凹凸が少ないにも関わらず、予想外にも揺れる乗り心地は最悪の極みだった。

 駆ける風と進みゆく街の風景で酔いを抑える颯太だが、一つ疑問を投げる。


「思ったんだけど真奈ちゃん。確か赤の国の国土はオーストラリア大陸程らしいけど、そんな広い土地の東側に向かうのってかなり時間がかかるんじゃ……?」


 真奈曰く、赤の国の面積はオーストラリア大陸程の広さで、仮に中心から東に向かうとなれば移動手段にもよるが、陸路であれば時間を労すだろう。

 目的地が何処になるのかは知らないが、そんな距離を夕暮れまでに戻れるのだろうか。

 颯太の疑問に時折口に指を当てる真奈だが、


「その答えを私が口にする前に……荷台の取っ手を掴んでて。そろそろ、来るから!」


 真奈が荷台に備え付けれた取っ手を掴んだのに釣られ、颯太も思わず取っ手を掴む。その瞬間、急激なGが前方から迫る。


「な、なんだこりゃああ!」


 体が吹き跳びそうになる程の強烈なG。

 颯太は必至に取っ手を掴むが、握力が持ちそうになかった。

 放しそうになるが、真奈が颯太を握り飛ばされるのを防ぐ。


 突発的な衝撃だが、その理由は明白で、先ほどまで精々50キロ程度だった小型竜の走行速度が300キロにも到達していた。


「真奈ちゃん、なんなのこれ!?」


「小型竜はかなりの俊足でね、人を乗せた荷台を引っ張っていても、個体によるけど時速300キロは超えて、最速記録は500キロも出す陸の走り屋なんだ」


「ごひゃ……いやいやいや! そんなスピードを街中で走れば絶対事故起こすじゃん!」


「それに関しては多分大丈夫。周りを見て」


 迫る風の中で必死に目を開け周囲を見渡す颯太が確認できたもの。


「道が広い、しかも直線で、通行人がいない?」


 現在走る陸路は横幅が広く、人の往来がない。走るのは他の小型竜のみ。

 

「この道は街と街を繋ぐ運路でね。この道は基本的に人の往来は禁止。曲がり道も少なく、そのおかげで小型竜たちは気兼ねなく全力で走ることが出来るんだ」


「つまり、小型竜においての高速道路ってことか……これならあまり時間をかけずに目的地に行けるってわけか」


「そういうこと…………まあ、今回は大分外れだったけどね」


 そういう真奈の表情は若干青ざめていた。目尻にも涙が溜まり、上の空だ。

 覚えのある症状と体を蝕む振動である帰結をする。

 

「……もしかして真奈ちゃん、酔ってる?」


 颯太の問いに真奈は頷きはしなかったが、必死な笑顔を浮かばせ。


「颯ちゃん。私が粗相をした時は……できればあんまり幻滅しないでくれると嬉しいな……」


「え、あ、うん……頑張ろうね、お互いに」


 実の所、颯太も中々にヤバく、振動と肌で感じたことがない速度に最後まで耐えきれることが出来るのか、ただただ、祈るのみだった。


 数十分後、二人は耐え切り目的地である東地区へと到着した。

 

「うぅ、車酔いはするし、料金の相場が値上がりしたなんて報告受けてないのに、いつもの倍の料金って、完全にぼったくられるし、本当に最悪だよ……」


 荷台を降りた真奈が蹲るのは、車酔いによるものなのか、予想よりも高い交通費に嘆いているのか、その両方かもしれない。


「どうする真奈ちゃん。その感じだと移動するのも辛いだろうし、何処かで休んだ方がいいんじゃ」


「そうするべきなんだけど、時間も惜しいし行こうか、此処から目的地まではそう遠くないしね」


「そもそも、最後まで乗っていけばいいのに、なんで途中で降りたのかな?」


小型竜旅客車(リザードタクシー)は街の全域は走れなくて、私たちが行こうとしている場所は走行を禁止している地域でね、だから途中で降りるしかなかったんだ。あと…………マジでそろそろ決壊しそうだったから早く降りたかったってのもあるかも」


 颯太達が乗車した小型竜の荷台は確かに激しく揺れたが、乗り物に強い颯太でも何とか耐え切る事は出来た。

 意外にも真奈は乗り物が苦手なのかもしれない。

 少し揺れない地面に腰掛け、呼吸を整えたことで多少顔色が良くなった真奈は服が入った紙袋を抱えて立ち会がり。


「それじゃあ、そろそろ出発しようか、早く子供たちにも会いたいしね」


「ん? 子供……たち?」


 真奈が口にした子供たちという単語に首を傾げる颯太であったが、背後から声が掛かる。


「やっぱり、通り過ぎた小型竜の荷台に見覚えのある横顔が見えたと思えば……マナルデリシア様、いえ、魔王様ではありませんか、お久しぶりです!」


 颯太の背後から突如声が掛かり、颯太と真奈は背後の人物へと目を向ける。

 颯太より少し後ろに立っていた保母を思わせるエプロン姿の女性。

 女性は真奈に対して穏やかな笑みを浮かばせお辞儀する。

 どうやら、最後まで御者には気づかれなかったが、真奈の正体に女性は気づいているようで、真奈も女性の事を知っているのか、笑顔で返し。


「お久しぶりですレティさん! 今から施設に行こうかとしてましたが、こんな所で会えるなんて。子供たち共々、お元気でしたでしょうか? ごめんなさい、ずっと来れてなくて……」


 此れまで誰に対しても砕けた口調だったのに対して、この女性に対しては敬語を使う。この女性は何者なのかと訝しむ颯太。

 女性は気にしていないと首を横に振り。


「全然構いません。魔王様のご活躍は此処からでも耳に入っております。あと、私の事はレティとお呼びください。今の貴方様は王女ではなく魔王なのです。下々である私には堂々としてください」


「ごめんなさい、レティさ、レティ。小さい頃はよくお父さんが私をレティの所に預けたりして、沢山お世話になったから抜けなくて……。よく怒られてたし」


「追々考えると当時の私は何とも末恐ろしいことをしていたのでしょうか。社会勉強だと施設に預けてくださった次代の王候補に対して叱りつけるなど……ご命令であれば、私の首は躊躇いもなく貴女様に捧げる所存でございます」


「しないよ! 発想が怖い! 怒られたのだって、悪ガキだった私がガキっぽい悪戯を子供たちと一緒にしてたからで、ちょちょちょストップ! レティストップ! 首にナイフを当てないで、私全然望んでないから!」


 取り出したナイフを首に当てて自決しようとする女性を慌てて宥める真奈。

 制止する真奈に向け、女性は優しく微笑み、そのナイフを自らの頬を突く。

 突いたナイフの刃先はゴムの様に曲がる。


「ふふ、冗談です。これは子供たちと買い物に来て購入したおままごと用の包丁です」


「心臓に悪いよ! もう……」


 怒り、呆れ、女性に翻弄される真奈は蚊帳の外だった颯太と目が合う。


「そういえば颯ちゃんに紹介しないとね。彼女はこの地区にある孤児院エーデルワイス院を管理してくれる院長でレティって言うんだ」


 レティがペコリと頭を下げると颯太も返しにお辞儀する。

 今度は颯太に真奈の手が差され。


「そんでレティ。彼はソウタって言って、彼の正体なんだけど……」


「人間、ですよね」


 真奈が説明する前に看破され驚く颯太。

 衣服屋の店主であるバールバにも颯太の種族が人間だと気づかれたが、なぜだろうか。


「やっぱり、人間だって分かるもんなんですね?」


「そうですね。その人が纏う雰囲気とでもいいますか、何処となく人間と魔族では漂わせる空気が違うと言いますか……どことなく、あの方に似ているような気がしたので、勘、ですね」


「あの方?」


 それは誰の事を言ってるのかと疑問に思う颯太であるが、レティと呼ばれる女性と真奈は何やらアイコンタクトを取る。

 それによりこの話題はあまりしないとレティは思ったのか、一回顔を俯かせる。

 颯太も空気から追及するべきではないと読み、それよりも前から思う疑問を投げる。


「えっと、レティさん。一つ聞きたいのですが……。僕が人間だと思って、人間(ぼく)に敵意とか嫌悪感とか抱かないんですか?」


 颯太の脳裏を過ったのは、先日のアスタが向けた殺気、侮蔑など形容しがたいどす黒い感情。

 魔王城では魔王の庇護下であるため、周囲は良くしてくれるが、一般の魔族からして人間はどういった存在なのか、それが聞きたかった。

 颯太の不安を汲み取ってか、レティは優しく微笑み。


「確かに魔族の中には人間を劣等種だと差別する者が多いのも事実です。ですが、全員が全員ではないことはご理解ください。少なくとも私は、人間が大好きです。人間は私たち魔族にはない、誇れる強さをお持ちですから」


 騙す気が欠片も感じれない物腰柔らかく礼をするレティ。

 

「どういった事情で魔界を訪れたのかお聞きしません。ですが、人間界と魔界は別の次元に存在する遠い地。その縁は奇跡そのもの。私レティは、ソウタ様のご来訪を心の底より歓迎いたします」


 全霊の歓迎を受け颯太は少し魔族に対しての恐怖感が拭えたかもしれない。

 真奈たち以外の魔族、街の住人にも人間に好意を向けてくれる者もいる。それだけで颯太は嬉しかった。

 

「それにしてもレティ。貴方さっき、子供たちと買い物に来て購入したって言ってたけど、買った物を手にしてるって事は、さっきまで子供たちと一緒に居たんじゃ――――――――」


「あぁあ! ここにいた! レティさん! いきなり走っていくなんて酷いよ!」


 真奈の言葉を遮り、レティを呼ぶ子供の声。

 三人が子供の声が聞こえた方角に目を向けると、最初に入ったのは子供ではなく……怒れる強面店主だった。


「オイ、管理人さんよ! なに会計も済んでないウチの商品を持って行きやがるんだ! てか、子供を置いて大胆に万引きとはいい度胸しているな!」


 強面店主の怒声にレティは自身が持つ玩具の包丁に目を向け、瞬時に青ざめる。


「そういえば……これの会計……まだ終わってなかった!」


「「はぁあ!?」」


 レティの衝撃発言に驚愕する颯太と真奈。

 その後は商品を盗まれて立腹だった強面店主もレティの必死の謝罪と弁明でわざとではないと許したのか、料金を払えば気前良く手を振って店へと戻って行った。


「うぅ……魔王様にお恥ずかしい所を見せてしまいました……」


「はは、相変わらずレティは抜けているよね、たまに」


「本当だよ。いきなり走って行って、俺たちめちゃくちゃ気まずかったんだからな」


 真奈と子供の一人に言われ面目ないと肩をしゅんとさせるレティ。

 レティの万引き行為は笑い話に終わり、レティの後に来た子供たちが真奈の方へと顔を向け。


「それにしても驚いだよ、マナ姉ちゃんじゃん! 久しぶり!」


「本当だ! マナお姉ちゃんだ! どうして此処にいるの!? もしかして遊びに来てくれたの!?」


 全員が一斉に真奈へと群がり始め、全員が満面の笑顔を浮かべていた。


「久しぶりだねみんな。ごめんね、最近は公務で忙しくて中々顔を見せられなくて……元気そうだね」


「「「「「「うん! 元気だよ!」」」」」」


 子供たちの重なった甲高い声がキーンと耳に響く。


「ねえねえマナお姉ちゃん! 私ね、この前の院のテストで100点取ったんだよ!」


「俺なんてかけっこで8回連続で1位取ってるんだぜ! すごいだろ!」


「ぼ、ぼくは身長が5センチ伸びたんだ……」


「そうなんだ、みんな十人十色で偉いね! よしよし!」


 子供たちの近況報告を真奈は屈んで子供たちの頭を撫でる。

 撫でられるのが心地よいのか、目を細めて嬉しそうにする子供たちの表情を見て、颯太も思わず口元が緩む。

 

「元気な子供たちですね」


「そう見えるなら管理者である私は本望です。笑顔は万能薬。本来良い意味ではい孤児院内でも、あの子たちの笑顔で明るく照らされています」


 思わず零れた颯太の感想にレティがレティが反応する。

 二人は真奈を中心とした子供たちの輪から数歩離れた場所で並んで立っていた。

 颯太はレティが口にした言葉一つに訊ねる。


「そういえば、レティさんの紹介の時もレティさんは孤児院の管理している院長だって言ってましたが……つまり、あの子たちは」


「はい。あの笑顔を浮かばせている子供たちですが、皆、様々な事情で親や兄弟を亡くし身寄りが無い孤児です。私が管理するエーデルワイス院はそんな子達を預かり、魔界で生き抜くための、処世術、護身術、魔術、座学を学ばせているのです」


「様々な理由ってのは……?」


 孤児院の意味は大体予想はできた。そして、心の何処かで理由は勘づいているが、子供たちの家族が亡くなる要因を訊ねる颯太。

 問われたレティは少し口元を紡がせる。

 口にするのも憚れる思いだったのだろうが、少し悲しそうな眼で答える。


「理由は多々ありますが、割合で語るなら……戦争が最も子供たちの縁を切り外してますね」



 戦争。

 短い言葉だったが、颯太の心に重くのしかかる程に衝撃が強かった。


「戦争って……魔界にも戦争があるんですか」


「えぇ、勿論。ここ近年は大国間で和平条約を締結されたおかげで表立っての紛争は無いですが、水面下で勃発する他国との諍いや、国内でも派閥争いや貴族同士の領土の奪い合いなどの内乱で毎年多くの犠牲となる民がおります」


 颯太が住む現代の日本は平和だが、祖父世代まで遡れば世界規模で戦争が起きていた。その悲劇は教科書やテレビでしか知らないから何処か他人行儀に捉えていた。

 だが、目の前にいる十数人の子供たちは、その戦争の被害者であると知り、颯太は脂汗が滲み出る。


「つまり、あの子たちは、戦争で家族や家を亡くして行く宛がなくて流れついた悲しい過去を持つ子供たちってことか……。けど、そんなことを思わせない程に明るいですね。家族を失って悲しさとかないんですか?」


 天涯孤独となり孤児院で流れついた戦災孤児にも関わらず、子供たちから悲しみの様子はないことに安堵する部分もあるが、同時に魔族は家族愛がないのかと疑念を覚えてしまった。

 

「別にあの子達が非情ってわけではありません。魔族も人間と同じ家族への愛を持っています。失った悲しみは考えたくもない程に計り知れないでしょう」


「それってつまりは……我慢しているってことですか?」


「そうなりますね。中には悲しみを乗り越えた子供達もおりますが、入院して間も無い子は夜な夜な家族を思い出して泣き出す子もいます。言葉で言う程簡単ではありません。家族の死を乗り越えるのは……」


 悲惨さを語るレティの瞳は、他人行儀ではなく、まるで自分も同じ経験をしたとばかりの瞳をしていた。 

 その言葉と表情に戦争の残酷さを本や映像でしか知らない颯太でも胸を締め付けられた。


「戦災の被害者は年間でも1万人を超えます。その殆どが王の目にも届かぬ場所で起きた悲劇。それに胸を痛めながら、マナルデリシア様はまだ若い身にも関わらず、良くされてると思います。時間が空いた時に、今回の様に各地の孤児院や戦災地を回り物資の手配は勿論、民に明日への希望を与えているのですから」


 レティの視線は子供たちと戯れる真奈へと向けられる。

 

「5歳の頃に王妃様である母君を、そして、2年前に先代魔王である父君様を亡くされ、自らも傷心なさってるはずなのに……」


 父親である先代魔王が亡くなっているのは知っていた。だから真奈はその跡を継いで王への戴冠したと聞いている。

 だが、母親も早めに亡くなっていたのは初めて知った。


「つまり……真奈ちゃんには両親が」


「ときにソウタ様。ソウタ様から見て、魔王様はどう映られているでしょうか?」


「どう映っているとはって、僕から見て真奈ちゃ……魔王様の印象ってことですか?」

 

 聞き返す颯太にレティは頷く。

 重たい話になりかけた所からの話題の急展開に戸惑う颯太だが、子供たちと遊ぶ真奈を眺めて思ったことを口にする。


「真奈ちゃんは本当に凄いと思います。勉強ができて、運動もできて、人当たりも良くて、人望厚い、誰かも尊敬される高嶺の花。正直、僕なんかが彼女の傍にいる事自体が不相応なだと思います。僕なんて、何も自慢できる事がない平凡な人間ですから。だから、僕と変わらない歳で一国の王としての責務を果たしてるなんて……正直、まだ信じられません」


 言葉の綾で颯太は現実を受け止めている。

 だが、颯太が此れまで知る真奈の顔は、文武両道の優等生で、誰もが憧れる人望を持つ学園のアイドル。

 だがそれは表の顔で、本当の真奈は大国の頂点に立つ魔王。

 知ってからあまり時間が経ってなく、実際の魔王としての姿を見たのは少ないからなんとも言えないが、生半可な覚悟で魔王を名乗っておらず、その小さい背に圧し掛かる重圧は颯太では想像するのも烏滸がましいほどだろう。


「僕がこんな事を言うのは変なことですし、ずっと彼女の隣にいれません。けど、ふと欲張ってしまいます。これからもできることなら、彼女の隣にいさせてほしいって」


「……ソウタ様と魔王様との間で起きてる事情を聞きはしませんが、なぜ、そう思うのでしょうか?」


 レティは颯太が一時的な保護対象とは知らず、時間が経てば記憶を消されることは知らない。だが何となく察しているようだった。

 レティに問われた颯太は気恥ずかしそうに頬を指で搔きながら、子供たちに囲まれる笑顔な真奈を見て嬉しそうに微笑み。


「だって、あの人は、魔王だとか、学園のアイドルだとか言われる前に、一人の女の子ですから」


 颯太に映る今の真奈は、優等生を演じる学園のアイドルでも、国や民を統治する王でもなく、年相応に遊びを楽しむ一人の少女だった。


「人には他の人には知られてない顔も沢山あって、それぞれに抱えている物があると思います。けど、それらを全部ひっくるめて真奈ちゃんは真奈ちゃんなんです。僕が憧れる、大好きな」


「だけど、この世界には彼女の事が嫌いな連中がいるのを知りました。真奈ちゃんが魔王として何を目指しているのかは曖昧な部分でしか知りませんが、どんなに彼女が優秀だとしても心は疲れ切ってるかもしれない。憶測ですが、真奈ちゃんは弱みを周囲に漏らさず溜め込むタイプだと思いますから」


「だから、夢みたいな話ですが、出来ることなら僕と二人キリの時でも良い。魔王でも、学園のアイドルでもない、ただ一人の女の子で、少しでも心が休まってくれれば


 

 食べ物を美味しそうに頬張り。

 自分の趣味全開の服に一喜一憂して。

 もしかしたら乗り物が少し弱くて。

 子供たちと楽しく遊ぶ。

 人間界の学園生活では知る事が出来なかった様々な顔が見れて颯太は嬉しかった。

 そんな真奈をこれからもずっと見ていきたいが、今の颯太は知ってはならない世界での一時の夢。叶わぬことだった。


「ぼ、僕は何を言ってるんですからね! 印象を聞かれたのにキモイ自分語りなんかして、滅茶苦茶恥ずかしい事を言ってました! 魔王様に対して不相応なことを、ごめんなさい! 


 頭を抱えて己の発言を後悔している颯太をレティはクスクスと笑う。


「レ、レティさん……。自分でもどうしようもなく痛い発言をしたのは重々身に染みてますが、流石に笑われると傷つくと言いますか……」


「あぁ、申し訳ございません。別に馬鹿にして笑っているわけではございません。颯太様の言っていることが、あまりにもあの人が言っていた言葉に似ていた物で感服したんです。流石マナルデリシア様です。エルドラシェル様同様に面白い人間を連れてきましたね」


レティは颯太を誰かと重ねて懐かしむように更に微笑む。

気恥ずかしさに頬を紅潮させる颯太。


「あの方も言っておりました。『あの人には敵が多すぎる。平和を望む彼だけど、万人に受け入れられる理想はないのは身に染みて理解している。茨の道を進む彼の身も心も私が想像できない程に疲弊している。なら、せめて私の傍に居る時だけどは、魔王としての責務を忘れて、ただのエルドラシェルでいて欲しい。それが、あの人を愛する妻の役目だから』と」


 レティ曰く、颯太に似た人物の言葉を伝えられ圧巻する颯太だが、言葉の節々にあった言葉が引っかかる。


「エルドラシェルって確か……真奈ちゃんの一つ前の魔王で真奈ちゃんの……。ってことは、妻って、もしかして?」


 レティは明確な答えを告げなかったがその視線の先に真奈がおり、颯太は感じ取った。

 

「魔王様……マナルデリシア様も先代同様に見える敵、見えない敵が多くいます。私はマナルデリシア様が大好きです。あの人が大好きな人がもっと増えてくれることを私は祈っています」


 真奈の理想。その一端を垣間見た颯太。

 この先どうなるかは分からない。

 記憶を消されて人間としての日常に戻るのか、事件が解決されず一生を魔界で過ごすのか、それとも……。

 様々な思考が混濁するが、迷いなく言える言葉はある。


「安心してくださいレティさん。世界が真奈ちゃんを悪だと言っても、少なくとも僕は何万人分の味方でいますから」


「…………ぷっ。はははっ! 本当にソウタ様は面白い方ですね!」


 


 笑いながら会話する颯太とレティから少し離れた場所で、孤児院の子供たちと戯れる真奈だが、


「マナお姉ちゃん、お顔真っ赤だよ!? どうしたの、具合が悪いの!?」


「うわっ、本当だ! トマトみたいに顔が真っ赤っかだ! 俺、トマト嫌いなんだよな」


「う、うっさい! 別にそんなんじゃないから見ないでくれるかな! あと、君は好き嫌いしないように、大きくならないよ!」


 魔族は人間よりも聴力は優れているが、真奈は更に遠くの音を拾える。

 少し集中すれば離れた場所の2人の会話を聞き取れるため、気になり聞く耳を立てていたら、演技が得意だが自負していた真奈の顔が隠し切れない程に紅潮されていた。


「うぅ……颯ちゃんのバカ。へっぽこ彼氏のクセに……」


 恥ずかしそうに顔を押さえる真奈であったが、彼女の気配察知という警戒網に誰かが引っかかる。


「まさか!?」


 真奈が焦りの表情で空を仰いだ瞬間、大地と空気を震わす爆発音が鳴動する。

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