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学園のアイドルに告白したらOKされたが、彼女は魔王で僕は従者になりました  作者: ナックルボーラー
1章 

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第12話 灰狼の剣士

 服屋で真奈のパジャマや颯太の普段着などの服を購入後、店を出た颯太と真奈の二人。

 オーダーメイドのパジャマが入った紙袋を抱える真奈は拗ねていた。

 

 原因は真奈自ら特注した服が子供っぽいと颯太にバカにされたからだ。

 正確には、颯太の口からでは無いが、愛想笑いなどの態度から読み取られたのだった。


「ごめんて真奈ちゃん。えっと……その服、可愛かったよ?」


「ふん。そんな上辺だけの褒め言葉いらないよ。どうせ、幼児趣味ですよーだ」


 ぷくーと頬を膨らます真奈。

 子供らしい反応を愛おしく感じるが、真奈を怒らせているのだからこのまま放置は居た堪れない。

 どうにかして機嫌を取ろうと頭の中で画策する颯太だが、最悪な助け舟が渡る。


「きゃああああああ! 誰か助けてッ! 強盗よ! 店のお金が盗まれたわ!」


 颯太達の後方で、ガシャアン!とガラスが割れる音と同時に女性の絶叫が街道に響く。

 慌てて振り返る颯太と真奈。

 100メートル離れた後方で3人組の男が金庫を抱えて二人と逆方向に走っていく姿を捉えた。

 走っていく3人組の男が女性が叫んだ強盗だろう。


「強盗って、そんな輩、魔界にもいるんだね!?」


「犯罪者の有無はどの世界でも共通だよ。けど、白昼堂々と強盗するなんて無駄な度胸はあるね! 颯ちゃんごめん! 荷物持っていて!」


 有無を聞かずに真奈は紙袋を颯太に押し付け構える。


「相手も運が悪かったね。まさか、正体を隠した魔王が近くを徘徊しているとは思ってないだろうに」


 まだ正体を隠せていると思っている真奈。

 だが逃げる男達にはそれは関係ないのだろう。

 真奈の身体能力がどれほどかは知らないが、真奈の自信から、彼女が本気を出せばこの距離でも確保出来るのだろう。

 真奈が気合いを入れて飛び出そうとした瞬間、真奈の目と体から力が抜ける。


「真奈ちゃん、どうして動きを止めたのかな? このままじゃ、アイツらに逃げ切られるけど」


 頼みの綱の真奈が追いかけるのを中断した事に困惑する颯太。

 颯太の脚力では既に150メートル離された距離を追いつくのは不可能。


 真奈は何故追うのを止めのか。

 それは、彼女だけは感じ取ったからだった。


「大丈夫だよ颯ちゃん。アイツらは時期に捕まる。なんせ、彼女が駆けつけたからね」


 真奈だけ感じ取った何か。

 真奈が彼女と呼ぶ存在に訝しむ颯太の頭上を疾風が駆け抜けた。


 違う。疾風が頭上を通過した時、一瞬謎の影が颯太を覆った。

 颯太達の頭上を通過したのはただの風ではない、人型の何か。

 振り返る颯太がかろうじて目視できたそれは、建物で挟まれた街道を縦横無尽に駆け抜けて行く。

 そんな光景を目の当たりにして颯太は思わず呟く。


「…………天狗?」


 飛び交う姿は日本に古くから伝承される妖怪そのもの。

 

 瞬く間に常人なら走っての追跡を諦める距離にいた男達の前方に先回りした謎の人物。

 動きを止めた事でやっと遠目であるが人物像を確認できた。

 灰色の髪に犬耳、臀部から灰色の尻尾、おそらく犬の獣人。

 服装は死人の服である白装束を彷彿させる白一色の袴と羽織。腰に2本の日本刀を差していた。


 音もなく先回りして現れた獣人に男達は驚き逃走の足を止め。


「な、何者だテメェは!? 邪魔だ退きやがれ!」


 現れた獣人に怒鳴る3人組の中で一番長身の男性。


「俺たちがここらじゃ札付きの悪で有名だと知ってか知らねえが、邪魔するならぶっ殺すぞ!」


 懐からナイフを取り出す筋肉質な男性。

 最後の小物感が一番ある中肉中背の男が獣人の姿を見て表情を強張らせる。


「お、おい! 灰色の髪に白色の服、そんで2本の剣って言えば……やばいぞ、おい! こいつ、もしかしたら”狼剣”のサザンかもしれねえ!」


 中肉中背の男は獣人の素性を知ってか後ずさる。

 だが、他メンバーは存じなかったようで鼻で笑い。


「狼剣だが老犬だが知らねえが、剣士が怖くて悪さが出来るか! 今までどおり、俺たちの邪魔する奴には痛い目遭わせるだけだ!」


「そうだ! 俺たちの前に立ったこと、死んで後悔するんだな!」


「おい待てお前ら!」


 一種の前触れを張って獣人に襲いかかる2人と制止する中肉中背の男。

 獣人は嘆息を零して腰に差す刀の柄に手をそっと添える。


「阿保が。君ら如き雑魚が、ボクに触れる事さえ出来るわけがないだろ」


 刹那の出来事だった。

 威勢を張り上げ襲いかかる2人と制止しようとした1人は瞬きの間に宙を舞い、獣人は刀を斬り上げた体勢となっていた。

 宙を舞った3人は石床に落下するとピクリとも動かなくなった。


「いつの間に刀を抜いたんだ……? てか、もしかして殺した……?」


 颯太は獣人の動きを捉える事は出来なかったが、それよりも倒れて微動だにしない男達の安否に背中がゾクリとする。

 倒れる男達を尻目に獣人は男達の手から離れた金庫を拾い上げ。


「ん。これはキミのだろ? 返すよ」


 金庫を取り返そうとしてか、男達を追っていた金庫を奪われた女店主に獣人は素っ気なく返却する。


「あ、ありがとうございます! ありがとうございます! このお金は店の売上も入ってますが、なによりも夫の病気の治療費も入ってまして、このまま奪われたりしてればと考えると……本当に感謝します!」


 女店主は有り余る感謝の込めて幾度も礼をする。


「あっそ」


 心底興味ないとばかりの返答だが、女店主は終始獣人に感謝しながら金庫を抱えて店に戻って行った。

 獣人が1人になったタイミングで傍観していた真奈が獣人に声をかける。


「強盗犯確保ご苦労様。お手柄だったね、サザン」


 真奈に声をかけられた獣人の犬耳はピクリと反応する。


「魔王か。視界の隅に入ってはいたけど、本当にキミだったとはね。何? 人が仕事している間にのんびりお散歩かい?」


「嫌味風に言わないでくれないかな? 私だってちゃんと仕事しているし。今は少し時間が空いたらから街の視察をしていただけ。それにしても、彼らは殺したのかな?」


 否定した直後にさらりと尋ねる真奈に颯太は少し引く。

 やはり、生殺の価値観が違うのだろうか。


「こんな小悪党如き殺す価値もないよ。峰打ちだから今は気を失っているだけさ、時期に目を覚す」


 よくよく観察すれば男達は白目を剥いたまま若干痙攣している。

 獣人の言う通り、男達は気を失っているだけらしい。

 相手が犯罪者だとしても簡単に殺されるのは忍びなく思っていた颯太は内心でホッとする。

 死者ゼロで事件解決した事で心に余裕ができたのか、颯太は改めて獣人を見る。


(確か今、真奈ちゃんはこの人のことをサザン、って呼んだよね?)


 真奈にサザンと呼ばれた獣人。

 服装や目立つ特徴は前述で語った通りだが、近くで見て顔立ちは中性的な端麗で瞳は薄黄色。性別は胸の膨らみから女性だと分かる。

 颯太とサザンは目が合った。


「魔王。そいつは? 見た感じ、人間みたいだけど」


 当然だが、颯太とサザンは初対面でサザンに颯太の情報は来てない様子。

 真奈は颯太のことを紹介しようとするが、それよりも早くサザンは己の顎に手を当てて首を傾げる。


「魔王。キミは奴隷制度にあれだけ反対していたのに、人間を奴隷として連れ歩くようになったのか? まあ、魔界では生きた人間は高い金額で取引されるらしいから、ペットとして連れ歩くのは箔がつくかもね」


「人聞きの悪い事言わないでくれるかな!? せめて魔界に迷い込んだ人間を保護したって言ってほしいんだけど!」


(今さらっと人間をペット扱いしたんだけどこの人!?)


 颯太が己の身に不安を感じるのを他所に真奈は颯太が魔界にいる事情をサザンに説明する。


「なるほどね。幾つか魔王嫌いな集団の奴らを留置所に勾留してるけど、末端すぎて情報を持たないから真相に辿り着く糸口はないね」


「そう。それは残念。尋問でもして情報を吐いてくれれば楽だったのに、こればかりは仕方ないか」


 情報を得られない事に肩を竦める真奈。

 サザンは颯太に目を向ける。

 見定める様な視線に萎縮する颯太は姿勢を正し。


「は、初めまして! えっと、確かサザンさん、ですよね。颯太です。短い間ではありますが、よろしくお願いします」


「よろしくって言われても、キミに興味ないからするつもりはないよ」


 冷たくあしらわれたことを内心涙ぐむ颯太をサザンは観察するように見つめ。

 数秒の沈黙が過ぎた後、ゆっくりとサザンの口は開かれ。


「それにしてもキミ――――――――弱いね」


「え?」


「サザン!?」


 突如焦り声の真奈が叫んだ。

 唐突な真奈の叫びに颯太は身を跳ねさせる。

 何故か真奈に睨まれるサザンは溜息を吐き。


「安心しろ魔王。本当に斬るつもりはない。少し試しただけさ」


「だとしても冗談が過ぎるよ! 何を考えてるのまったく!」


 怒り心頭に睨む真奈と無表情のサザン。

 現状が読めない颯太はハテナマークを大量に浮かばせ。


「僕は今、なにかされそうになったのかな……?」


 颯太だけ分からず当惑しているとサザンが説明する。


「ボクは今、キミを5回斬ろうと殺気を放った。だがキミはそれに全く気づかなかっただけ。つまり、ボクはやろうと思えば、この場でキミの息の根を止める事ができたってわけさ」


 ぞわっ、と颯太の全身の穴が空いた様な悪寒が駆け巡った。

 

「まあ、仮に殺気に気づいたとしても、見た限り鈍臭そうなキミでは、避けるどころか黙視することもできなかっただろうね」


 先ほどの強盗を撃退した時の抜刀の速さ。

 サザンの高速な剣捌きは颯太の目視で捉える事は出来なかった。

 あれを目の当たりにして、更に颯太の身体能力を照らし合わせると何も言い返す事が出来なかった。

 サザンは小さく息を吐き。


「他者からの殺気にも気づかない鈍感さ。自分の身を守る事もできない無力さ。君がこの先生き延びれる未来が見えないね。変な奴らに目をつけられて、御愁傷様だよ」


 サザンは今度は殺気を放ってない。

 だが、サザンが口にする憐みの言葉が重く颯太の心にのしかかる。

 それだけ人間である颯太と魔族との間には超えることの出来ない差がある。


「まあ、キミがどうなろうと知った事じゃないけどね。精々、運良く生き伸びる事を祈ることだ。それじゃあ」


「サザン待って」


 転がる男達を軽々と持ち上げて立ち去ろうするサザンに真奈は小声で何かを口にする。 

 颯太には聞こえず、サザンには聞こえたその言葉にサザンは顰め面をする。


「魔王。キミは過ぎたお人好しだと思ってたけど、意外にも残酷な考えを持ってるとは驚いたよ。その選択が吉とでるか凶と出るか。その選択に後悔なきよう」


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