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学園のアイドルに告白したらOKされたが、彼女は魔王で僕は従者になりました  作者: ナックルボーラー
1章 

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第11話 赤の国ルージュ

「それじゃあ早速街の視察に出かけようか」


「了解。それにしても真奈ちゃん。街の視察って言っても、国全体を回るのかな?」


「出来れば赤の国全土を一気に案内してあげたいけど、この国の面積は人間界で言うオーストラリア大陸ぐらいあるから、日暮れまでに廻るのは不可能だね」


 真奈が統治する国の面積が人間界の大陸一つなことに驚嘆する颯太。

 正確な時刻は分からないが、昼を超えているのは確か。

 真奈曰夕暮れまでには帰還する予定らしく、残された時間は3~4時間程度。

  

「だから今日は東地区の一部だけ廻るつもりだよ。残りの部分は、機会があれば案内してあげるよ」


「そんな機会があればいいんだけどさ……。けど、その東地区ってのはどういうこと?」


「赤の国は魔王城がある中央地区(セントラルエリア)を中心に、 東地区イーストエリア西地区(ウエストエリア)北地区ノースエリア南地区(サウスエリア)の4つの区画に分かれているんだ。東地区は比較的治安が良いから、街を楽しむ分にはいいかと思ってね。あと、個人的な用もあるしね」


 颯太の身の安全を考えてくれていることに感謝する颯太を他所に真奈は城の門番と話している。

 実のところ、颯太達はまだ出発しておらず、今は城内の玄関ホールにいる。

 颯太を地下から地上まで案内した使用人のベルは別の仕事に向かったため不在。

 ホロウやキョウなどの従者たちもいないから、颯太と真奈は二人きりで街に出向くらしい。真奈が使用人と話している間待機する颯太はふと思う。


「よくよく考えれば、男女二人が一緒に歩いて、談笑して、買い食いをする。これって所謂街デートじゃないか? いやいや。あくまで真奈ちゃんは仕事として街に降りるんだからそんな不純な考えは彼女に対して失礼だよな……。けど、それでも嬉しいな」


 真奈が実際の所どう思っているのかは分からないが、学校では颯太と真奈は恋人である。

 しかし、恋人であってもこれまでデートらしき事をしてこなかった。

 今回反魔王勢力の騒動に巻き込まれ命の危険に晒されているが、真奈と束の間のデートをできることに少しばかり感謝する颯太。

 

 そうこうしていると真奈が戻ってきて。


「門番の人に扉を開けてもらえるようにお願いしたから、そろそろ出発しようか」


 真奈が言い終わると同時に巨人でも軽々通過できるほどの巨大な両開きの扉は壮大な音を鳴らして開かれる。

 扉が全開して生暖かい外気を浴びながら颯太たちは魔王城の外へと出る。

  

 真奈を先頭に玄関から直進に整備された石畳の通路を歩く颯太だが、魔王城の上層部にあるバルコニーからでは気づかなかった事実に目を見開く。


「ちょっと待って! 城内からじゃ気づかなかったけど、もしかして、魔王城って丘の上にあったの!? てか、地面時点で滅茶苦茶高くない!?」


 颯太の驚愕は標高200メートルに響く。

 颯太が昨日バルコニーから見下ろした街は魔王城だけの高さのみではなく、丘の高さを加味しての高さだったようで、魔王城は丘の上に建造されていた。


「魔王城がこんな高い所にあったなんて……。てか、なんでこんな高い丘の上に城なんか建てたんだ?」


「知らないよ。魔王城は初代魔王である私の祖先が建てさせたみたいだけど、どんな意図でこんな立地を選んだのか……」


 真奈も色々と思うようで肩を竦めて呆れるが、


「こんな高い所なんて思わなかったけど、ここからどうやって降りるんだ?」


 崖から顔を覗かせて眼下の街を見下ろす颯太。

 真奈は颯太の疑問に答える。


「街に降りる通常の方法は基本的に2つ。1つは丘の絶壁に設置された長蛇の螺旋階段を自力で下る。これは階段が長い所為で降り切るのに時間がかかるんだよね」


「まあ、こんだけ高いとなるとね……他のもう一つは?」


「2つ目は、あそこにあるゴンドラを使うだね」


 真奈が指差すのは、丘の崖付近に建造される小屋で、小屋と隣接してゴンドラの発着場があった。

 

「あれに乗れれば疲れずに下山することが出来るんだけど、見た感じ、こっち側にゴンドラはないみたいだね」


 遠目で確証はないが、真奈の言う通り発着場にゴンドラはなく、全て出払っているのかもしれない。

 

「一台でも戻ってくれればいいけど、どれくらいで戻ってくるのか、待つ時間も惜しいしもどかしいところだね」


「体力が惰弱な僕からすれば階段を使うのは疲れるから、ゴンドラが戻って来るまで待つ方が––––––––」


「だから私は、3つ目の選択肢を選ぶね」


 颯太がゴンドラの使用を提案しようとするが、遮った真奈は颯太の首根っこを掴んだ。

 へ?と唖然とする颯太を、真奈は数歩引きずり、そして––––––––颯太を崖へと放り投げた。


「––––––––––––––––はい?」


 颯太の思考は停止する。

 が、1秒後、自身に起きた出来事を理解して颯太は絶叫する。


「は!? うそ!? へ! マジ!? ぎゃあああああああ!」


 重力に背中を引っ張られ急落下する颯太。

 手足をジタバタさせるも当然飛べるわけでもなく、重力には逆らえない。

 

 当然だが、人間の颯太では標高約200メートルから地上に落下すれば確実に死ぬ。

 絶叫を上げながら落下する颯太であったが、耳を掻く風切り音の中、彼女の声が聞こえる。


「落ち着いて颯ちゃん。大丈夫。私がいるからさ」


 真奈も続いて飛び降りていたのか、先に落下していた颯太に追いつく。

 真奈は恐怖に涙する颯太を空中で抱き抱える。


「真奈ちゃんこれからどうするの!? このままじゃ僕達、一緒に地面に落下するんだけど!?」


「だから大丈夫だって。それよりも、口を閉じておいてね。一気に来る衝撃で舌を噛むからご注意を!」


 颯太を冷静に静止させる真奈は目を瞑る。

 次に見開かれた瞬間、颯太はグワっと腹部が引き上げられる衝撃を感じた。

 そして、バサッ、バサッと羽ばたき音が聞こえる。

 突然落下する感覚が消えたことに驚く颯太は思わず真奈に釣られて瞑っていた目を恐る恐ると開く。

 すると、まだ遠い地上が目に入る。

 

「空に浮いて……いや、飛んでいる!?」


 今だに遠い地上。

 だが、地上には近づかず、空中で停滞していた。

 颯太は目を真奈に向けると、彼女の背中に先程までなかった蝙蝠を彷彿させる羽が展開されていた。


「真奈ちゃん、その羽は?」


「私の種族である魔人族には悪魔の翼があってね、平常時は邪魔だから閉まってるけど、いざと言う時にはこんな感じで展開するんだ。てか、最初の紹介の時に一度見せてるけど?」


 思い返せば昨日に颯太は真奈が翼を展開させてる場面を目の当たりにしている。

 颯太の中では無い状態がデフォルトため為忘れていた。


「だとしても、説明なく紐なしバンジーは心臓にマジで悪いから二度としないでくれると助かるよ……」


「ごめんごめん。ほら、そろそろ地上に着くよ」


 会話している内に低速なまま地上に近づいていた。

 ふわりと最後に軽く落下の衝撃を相殺してから、颯太達の足は魔界の地に付く。

 

 真奈から離れた颯太は己の足が地面に着いても、震えてか覚束ない。

 暫くは歩けそうにはなかったが、一回深呼吸と目の前に広がる城下町の光景に颯太の心は高揚する。


「これが、魔界の街!?」


 初めて目の当たりにする魔界の街並みを人間界で例えるなら中世の様なレンガや石造りで出来た建造物が並んでいた。

 街道は石畳で舗装されており、エルフ、オーガ、リザードマン、ナーガなど、千差万別な魔族たちや小型竜(リザード)が荷台を引く乗り物が往来している。

 

 そんな街道には数多くの露天が所狭しと並び、宛ら祭りの様に活気が立っている。


「これだけの賑わいって、今日は何かイベントごとでもあるのかな?」


「これが普段の光景だよ。五月蝿いぐらいに賑わっているけど、皆、楽しそうでしょ?」


 フードで素顔を隠す真奈だが、僅かに覗かれた表情から誇らしげな笑みがみえた。

 真奈はこの国の王。陰鬱な雰囲気よりも騒々しくも明るいこの雰囲気が好きなようだ。


「まずは颯ちゃんの腹ごしらえから先だね。露店には色んな食べ物があるから、好きな物を選んでいいよ。お金は私が出すから」


 一応彼女でもある真奈にお金を出させるのは忍びない颯太だが、颯太は魔界の通貨を持ち合わせてないためそこは仕方ないこと。

 少し歩いて様々な食べ物屋台を眺める颯太だが、


「うーん。唆られる物が多すぎて何を食べればいいのか迷うな……。オススメはあるかな?」


「面白くない回答だと全部がオススメだけど、私の気分で選んでいいかな? 肉系なんだけど」


「全然いいよ。真奈ちゃんが食べたいものなら僕も食べてみたいかな」


「分かった。私が適当に買ってくるから、颯ちゃんは近くのベンチで待ってて」


 買い出しは真奈に任せて、颯太は食事をする席取りと役割分担。

 少し歩いた所に広場があり、広場の隅に休憩できるベンチが設置されていた。

 颯太はそこで真奈の買い出しを待ちながら、通り過ぎる魔族たちを眺める。


「……通り過ぎてく人たちの何人かが僕を不思議そうに横目で見てくけど、確かにこの格好は怪しいよね」


 現在の颯太の服装は目深く素顔が隠れるフード付きのローブで怪しさ満点。

 

「魔族でも服装観念は人間と変わりないし、下手すれば僕、通報されるんじゃないか?」


 魔界にも警察の様な組織があるかは知らないが、人間界なら通報されても不思議ではない自身の服装に不安を持つ颯太。

 せめてフードを下ろせばいいのだが、颯太は人間であることを隠して街にいるため無闇に取ることはできない。

 

「せめて真奈ちゃんが帰って来てくれれば、フードの2人ってことで疑念視が分割に……って、全然問題解決してないな––––––––ん?」


 真奈の帰りを待つ最中暇すぎて独り言を呟いていた颯太であったが、何か視線を感じて建物の屋根に目線を向ける。

 

「ん? 気のせいか、なんか、変な視線を感じたような……」


 先ほどから通行人からの怪訝な視線は向けられていたが、颯太が感じた視線は皮膚を針で突かれた様なものだった。

 だが、建物の上や路地裏への入口など怪しい部分に目を向けても影はなかった。

  

「魔界に来てから変に気を張ってるから、少し感覚が可笑しくなったのかな? それとも……いやいや、まさか。こんな街中で大胆な行動するわけないよね」


 一瞬、先日自身を襲った者たちからの殺気かと勘繰ったが、大人数の魔族が往来する広場で襲撃するなどあり得ないと自ら否定する。


「お待たせ颯ちゃん。色々買って来たから分けながら一緒に食べようか」


 そうしていると真奈が両手で抱え込むほどの量の食べ物を買って来た。

 好きな物を選んでと渡された主に肉メインの食べ物たちの中から颯太は適当に受け取る。

 受け取ったのは人間界で言えばケバブらしき食べ物だが、颯太は昨日の風呂の件を思い出して疑問を口にする。


「見た目は人間界で見る物と殆ど同じだね。お風呂の時から思ってたけど、もしかして魔界って人間界の物を模倣したりしているのかな?」


「模倣ってよりも、リスペクトを持って学んでいるってところだね。街並みは直ぐにはどうにかならないけど、食事に関しては人間界に出向いた魔族が学んだことで、ここ数百年で一気に向上したみたいだよ」


 一つが口サイズの大きな肉が4つ串についた焼き鳥らしき物を頬張りながら真奈が颯太の疑問に答える。

 真奈に続いて颯太もケバブらしき食べ物を頬張る。

 素直に美味しいと感嘆が溢れるほどの味だった。

 昔、家族で出かけた先にあった屋台で売られていたケバブと同じ味だったから、やはりこれはケバブらしい。


「なんか、魔族って人間よりも高次元な存在だと思ってたから、人間から学んでくれるものもあるなんて驚いたよ」


「確かに魔族は人間よりも力や魔法とかで一個体としては優性かもだけど、こと発想力や向上心は人間の方が優れているからね。学べる所はどんな人からでも学ばないと進歩できないよ」


 頬張った肉に塗られていたソースが付いた唇を拭った真奈はくすりと笑い。


「まあ、こんな考えをこの国の人達が持つ様になったのは先代の、私の父からなんだけどね」


 真奈の父、つまり先代魔王は2年前に崩御したと真奈から聞いている。

 会った事がないから先代魔王の人物像は掴めないが、人間を下等生物だと見下す魔族が多くいる中で、人間への友好は感じられた。


「そう言えば、魔王城の大浴場もお父さんの趣味なんだっけ?」


「そうだよ。驚いたでしょ? これが魔界のお風呂なのかーって」


「正直、メチャクチャ思った。僕の魔界感が秒速で崩壊したね」


 他愛の無い会話が続き、露店で買った食べ物を摂取し腹が膨れた颯太。

 颯太の食事が済んだ事で真奈は次の目的地へと立ち上がる。


「今日の視察先は東地区だけど、その前に私用で寄り道させてもらうけどいいかな?」


「僕は構わないよ。無理言って連れて来て貰ってるし。それで、どこ行くのかな?」


「服屋」


 ん?と予想外の目的地を言われ首を傾げる颯太であったが、真奈は説明することはなく歩き出し、颯太も後を追う。

 歩くこと数分、真奈が立ち止まったのはショーウィンドウから店内が確認できる衣服屋だった。ここが目的地らしく真奈は店内へと入る。


 カランカランとドラベルが薄暗い店内へと響き、カウンターに座る店員が入店客に気づく。


「いらっしゃい……あら? 久しい顔ね。マナちゃん、いや、魔王様と呼ぶべきかしら?」


 入店直ぐに目深なフードの真奈の正体を看破した女性口調のエルフの男性。

 

「久しぶりだねバールバ。最後に此処に来れたのは、魔王就任する前だったね。てか、流石に早すぎない私だって気づくの?」


「貴方は小さい頃からの常連だからね。それに、そんな杜撰な変装じゃ、相当な阿呆じゃない限り誰もが気づくわよ。まったく、相変わらず抜けてる娘ね」


 どうやら真奈の変装は殆ど意味はなしてないようだった。

 

(そう言えば、街中でも僕とは違う視線を住人が真奈ちゃんに向けてたっけ? あれ、気づいているけど真奈ちゃんの尊厳の為に気付いてないフリをしていたのか)


 住人の微笑ましい気遣いに口を綻ばす颯太とは別に、正体を隠せていたと自信満々だった真奈はその事実を突きつけられ羞恥に顔を真っ赤にしている。


「それで。今日はどのようなご用かしら魔王様。ご多忙な貴方が何もなく来店なんてないわよね?」


恥ずかしさを隠すためにフードを摘む真奈。


「べ、別にそんな畏まって呼ぶ必要ないから……。昔馴染みなんだし、いつもの呼び方でいいよ」


「あらそう? なら、遠慮なくいつも通りで呼ばせてもううわね、マナちゃん。それで、今日はどういった用かしら?」


服屋(ここ)に来たんだから用事は一つでしょ。服を買いに来たんだよ服を。少し前に部下経由で服を注文していたんだけど、仕上がってるかな?」


「そう言えば、そんな注文があったわね。仕立て自体は大分前に終わっていたからすっかり忘れていたわ。注文通りにバッチリ出来上がってるから取って来るわ」


「分かった。あ、そうだ、バールバ。少し店内の服も物色していいかな?」


「勿論構わないわ。けど珍しいわね? 普段はオーダーメイドしか買わないのに」


「私のじゃないよ。男性用はあっちでいいんだよね?」


「ええそうよ………男性用?」


 バールバと呼ばれるエルフの男性が目を点にして聞き返すと、此処で初めて颯太の存在に気づく。


「あら? マナちゃんに気を取られて失念していたわね。貴方、マナちゃんのお連れかしら? けど何かしら……貴方から感じられる雰囲気、魔族とは違う……。まさか、貴方、人間かしら?」


 やはり魔族は相手の雰囲気で察するのか簡単に颯太の種族を言い当てた。

 バールバから殺気や嫌悪が感じられないから颯太はフードを下ろし。


「は、はい。颯太と言います。種族は、仰る通り人間です。よろしくお願いします、バールバさん」


「こちらこそよろしくねソウタちゃん。そう、やっぱり貴方人間だったのね。先代様といい、貴女といい、人間を侍らすのがお好きな親子ね」


 先代も?颯太はその言葉に疑問を持つが、真奈は顰めっ面を浮かばせ。


「侍らすとか、下品な言い方しないでくれるかな」


 ぷい、と拗ねたように顔を逸らす真奈。

 その表情を颯太へと向け。


「それじゃあ、颯ちゃん。バールバが私が注文した服を持って来る前に、滞在中の服を買って置きたいから、こっちに来てくれるかな」


 真奈は店内の紳士服コーナーへと颯太を手招きする。

 え、と驚く颯太。その間にバールバが服を取りに店の奥へと入る。


「こっちに来てって、え、僕が着る服も買うつもりなのかな?」


「そうだよ。緊急事態とはいえ、急遽魔界に連れて来た所為で着る服が全然ないでしょ。どれくらい滞在する事になるかは分からないけど、買っておいて損はないからね」


「確かにそうだけど、僕にはお金が……」


「今回の件は私が理不尽に巻き込んだ事だし、気にしないでいいよ」


 食べ物に続き服も真奈が立て替えると提案され、替えの服を持たない颯太はそれを断る事ができなかった。

 真奈は多く並べられる服を適当に物色しながら颯太に説明する。


「バールバはただ服を売るだけじゃなくて、自らデザインして生地を縫う裁縫士でもあって、ここに置いてある服は全部バールバの手作りなんだ。しかも、完成された服はどれも一級品で、見た目は勿論、耐久度にも優れていて、軽い炎なら燃える事はない程丈夫なんだ」


 ハンガーに掛けられた服を一着手に取った真奈は、その服を颯太の体に遠目で照らし合わせる。


「こんな説明しても分からないだろうから、私が颯ちゃんに似合いそうな服をピックアップするけどいいかな?」


「諸々お言葉に甘える事になるけど頼むよ。僕、正直服に関してセンスに自信がないからさ」


 OKと真奈はハンガーラックに掛けられる中から数着取り出し、颯太へと渡す。

 颯太はそれを持って試着室に入り、最初に着た服に満悦する。


「これは何ともシンプルと言うか、派手じゃなくて実に僕好みなチョイスだよ」


 颯太が試着した服は、上は灰色のTシャツに黒のアウター、下も黒のジーンズと街中では一人はいる格好で派手さを好まない颯太にはピッタリな服だった。


「その服は見た目はシンプルだけど、動き易さや耐久性に優れているから、多少の緊急性には対応できると思うから、オススメだよ」


「本当にそうみたいだ。ありがとう真奈ちゃん、これでお願いするよ」


「お褒め頂きありがとう。1着だけだと寂しいから、後数着は予備があった方がいいから、同系統の服を選んでおくね」


 服代は真奈が払うとはいえ、少しデートっぽいイベントに内心浮かれる颯太。

 真奈が颯太の服を選び終えた頃に、バックヤードに引っ込んでいたバールバが大袋を抱えて戻って来た。


「お待たせ二人とも。注文していた商品を持って来たから、マナちゃん、確認をお願い」


 バールバは大袋を真奈に渡し中身の確認を促す。その間にバールバは真奈が抱える颯太の服を見て。


「あら、それにしても沢山買ってくれるのね。なら少しはオマケしてあげないとね」


「それは悪いからいいよ。バールバにはいつも私の無茶な注文にも完璧に再現してくれるから助かるよ。流石、自称赤の国(ルージュ)一の服飾人だね」


「あら? 褒めている様で貶してくれるわねお嬢ちゃん」


 睨むバールバに茶目っけに舌を出す真奈。勿論、互いに本気で嫌悪感は出してない。

 バールバは微笑を浮かばせ。


「私たち、非戦闘の魔族にとって、貴女のお父様、先代の魔王様には大変救われたわ。あんな時代が続いていたら……今頃私たちは上流階級を肥えさせる為の餌になっていたから」


「私はその時代に生まれていた訳じゃないけど、そう言って貰えるなら、お父さんも浮かばれるよ」


 真奈の父である先代魔王が慕われていた言葉に嬉しそうに歯に噛む真奈だが、何処か不安な陰がみえたのは颯太の気のせいだろうか。

 

「話が変わるけどマナちゃん。今回こうやって直接街に降りて来たって事は、噂の街視察よね? つまり、あの子達の誰かの所に行くつもりかしら?」


 真奈が極秘だと言っていたが、噂になるぐらい真奈の街視察は民衆に広まっているらしい。これまでも同じ様な変装で出向いていたのならそうなるかと颯太は苦笑する。

 だが、バールバが口にした“あの子達”とは誰の事を指しているのか、颯太はそこは疑問に思った。


「今日は東地区にある施設を見に行こうかと思ってるけど、折角だからあの子達の分にも買って行きたいんだけど、バールバが選んでくれないかな?」


「了解したわ。其方も安くしておくから、沢山持って行って頂戴」


 ありがとう、と真奈からの感謝の言葉を背に受けバールバは店内の隅へと向かう。

 バールバが何やら服を選んでいる間に、真奈は渡されていた大袋の中をゴソゴソと漁る。そして中に入っていた服を一着取り出した。


「さーて。ちゃんと注文通りに出来ているかなら〜」


 ご機嫌そうに真奈は新品を表す服を包む透明フィルムを破いて服を広げた。


「おぉお! うんうん! 注文通りだね! 流石、自称赤の国一の服飾人。良い仕事しているね!」


「何度も自称って言わなくていいから」


 バールバからの冷ややかなツッコミを無視して真奈は目を輝かせて服を見ている。

 その服を見た颯太の表情は凍りつく。

 真奈が手にする服、モコモコした綿が複数も付けられていて、淡い水色の水玉模様が描かれたピンク色の服。

 そのデザインは幼稚園生か小学生の低学年が好んで着る様な色気皆無なパジャマ。

 昔、颯太の妹が幼稚園生の頃に着ていた服に類似する服だが、サイズは大人用だった。


「ま、真奈ちゃん……そ、それは?」


 颯太が恐る恐る尋ねると真奈は満悦な笑みを浮かばせ。


「これはね、前にクラスの子が見せてくれた雑誌に掲載されてたパジャマでね。注文しようかと思ったんだけど、私のサイズに合ったのが無くてね。どうしても欲しかったからバールバに依頼したんだ。イヤー! バールバ、本当に良い出来だよ!」


 衝撃の事実に颯太は目を丸くする。

 真奈は服のモコモコを堪能する様に頬ずりしているから本当に嬉しいのだろう。

 

(喜んでいるところに指摘するのは無粋だからしないけどさ。真奈ちゃん。おそらく、クラスメイトの人が見せたかったページはそれじゃなかったんじゃないかな? 真奈ちゃんが見ていたページは、絶対に子供服だったと思うよ!)


 スタイル抜群の真奈と幼稚な子供服ではアンバランスだと心の中のツッコミ欲を抑える颯太。

 

「本当に、マナちゃんは他人の服を選ぶ時はセンスが良いのに、どうして私用の服になるとお子様趣味になるのかしら。前に注文した時はクマ耳が付いたフード付きパジャマで、その前はカエル。今回のだって、ウサ耳が付いてるしね」


 改めて服を観察すると、確かに真奈が抱えるパジャマにはウサ耳が付いたフードが備られていた。動物耳が更に幼稚感を加速させる。


「お、お子様趣味なんて言わないでよ! 可愛いじゃん! どうして誰も私のセンスを理解してくれないの!? 最近ホロウからも、『魔王様。魔王様の趣味にとやかく言いたくはありませんが、魔王として尊厳を失わないようにご配慮ください』って、とやかく言わないって言ってるけど、遠回しにボディブロー喰らわしてるからね!」


 此処にいないホロウに鬱憤を口にする涙目の真奈。

 

「颯ちゃんはどう思うかな!? 可愛いよね? 変じゃないよね!?」


 共感を得ようと必死に颯太へ詰め寄る真奈だったが、

 

「……カワイイ、と……思うよ?」


「どうして顔を逸らして言うかな?」


 彼女の趣味に全肯定したい颯太だったが、一品一品は絶品でも、混ぜてしまって台無しにするかの様な現実に思わず表情に出ていたようだ。

 頼みの綱の颯太からも共感が得られなかった真奈は項垂れ。


「うぅ……少し前まではみんなが可愛い可愛いって言ってたのに、あんまりだよ……」


 時の流れ、成長は残酷なのだと真奈に学んで欲しいと願う颯太であった。


「ハイハイ。いつまでもそこで泣かれると迷惑だから会計を済ませるわよ。マナちゃんの服が上下合わせて6点。ソウタちゃんの服が上下合わせて6点。あの子達の服が上下合わせて20点。合計32点で12万8000ビルだけど、オマケで端数良く12万ビルで良いわよ」


 シクシクと落ち込む真奈を尻目に、原因の一端であるバールバが淡々と会計を進める。真奈は懐から分厚い財布を取り出し、財布から札束を抜く。


「…………はい、12万ビル丁度。後、彼の服はこのまま着て行かすからタグは取っておいて」


「12万ビルのお預かりで毎度ありがとうございます。又のご贔屓とあの子達にもよろしく行っておいてね」


 颯太が試着してそのまま着ていた服のタグを挟みで切り、二人を見送るバールバ。

 

 買い物を済ませた颯太と真奈は購入した服が入った袋を各々抱えて退店。

 退店後暫く顔を俯かす真奈に颯太は取り繕うように半笑いを浮かばせ。


「え、えっと……あの……。あ、ありがとうね服。大事に着させてもらうから」


「…………………(ツーン)」


 颯太に己の趣味を否定されたと思ったのか、口を尖らし拗ねる真奈。

 

 颯太が知ってる彼女の顔は優等生な部分であったが、知れば知るほど、彼女も普通の女の子なんだと何処か微笑ましくは思ったが、魔界の空を仰ぎ思わず思う。


(真奈ちゃんって……案外面倒性格なんだな〜)

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