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学園のアイドルに告白したらOKされたが、彼女は魔王で僕は従者になりました  作者: ナックルボーラー
1章 

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第9話 地下室

 淫魔且つ痴女のヨルに襲われる一波乱が過ぎ、颯太はまともに気を緩めることなく軽くシャワーで汗を流して湯上がりする。


「それにしても……本当の本当に散々だったな。今後はヨルさんには注意しないと。じゃないと危険だ、主に貞操が」


 入浴前は制服を着ていた颯太だが、入浴中に誰かが用意したのかジャージらしき服と着てくださいというマッサージが竹籠に置かれていて、それを着る。

 あまり火照ってない体で大浴場を出た颯太を待っていたのは、外で待機していたキョウとベルだけでなく、ヨルの魔の手から颯太を救った真奈もいた。


「遅いよ颯ちゃん。彼女を待たせるなんて随分豪胆だね。浮気未遂もしたのに」


「いやいやいや、あれは浮気なんかじゃないから、強姦未遂の被害者だから、僕」


「ふ〜ん? 実際のところ、満更じゃなかったんじゃないの?」


「…………ぜんぜん、そんなこと思ってませんけど?」


 冗談ではない嫌疑をかけられるが、心の隅では図星だったのか言い淀んで返答する颯太。颯太も一応は雄なのだ。

 半目で疑う真奈だが、苦笑を溢して腰に手を当て。


「まあいいよ。ヨルの奇行は今に始まったことじゃないし、野犬に吠えられたみたいなものだからね。それにしてもキョウ。貴方、相変わらず睡眠魔法に弱いよね」


 途中で話を転換させてキョウに移り、キョウも颯太が風呂上がりを待っていたみたいだが、その様子はどこか朧げだった。


「……悪かったナ。くそ、あのビッチガ。今度あったらゲンコツを……ふわぁ〜」


 ヨルは外で待機していたキョウに睡眠魔法を施したと言っていたが本当だったようで、キョウは寝起きなのか大きな欠伸をする。

 

「そう言えば、ベルさんもヨルさんの被害に遭ったんですよね? お互いに災難でしたね」


 颯太たちから若干離れた場所で粛々と待機していたベルに声をかける颯太。

 だが当のベルは首を傾げ


「災難……とはなんですか?」


「え? 違いましたか? ヨルさんが男湯に侵入するのに邪魔だったからって、キョウと一緒に眠らしたって言ってましたが」


「いえ、突然キョウ様が眠りにつきましたが、別に……」


 信用はないがヨルがそう言ったのだからそうなのだろうと思っていた颯太だったが、ベルの反応は希薄だった。

 首を捻るベルであったが、手鎚を打ち。


「あ〜そう言えばそうでした〜。いやー先ほどまで眠らされてから記憶は混濁してました、ははははっ」


 何故か棒読みで語るベル。


「そうだったっけ? 私が大浴場に入る前と出る前は普通に起きてなかった?」


「何をおっしゃいますか。それは魔王様の勘違いですよ、ははははっ」


 流す様な棒読みのベルだが、仮に嘘だったとして追及して得られるものはないとそれ以上は聞かなかった。

 

「まあ、色々とアクシデントはあったけど、これから先は私が颯ちゃんに付くよ。ベル、あとキョウ。ここまでありがと。貴方たちは自分の仕事に戻っていいよ」


「真奈ちゃんが付くって。え? ってことは、今からは真奈ちゃんと行動を一緒にするってこと?」


「そうだよ。言っても、暫く颯ちゃんが滞在する部屋に案内するだけだけどね」


「だとしても。真奈ちゃんは魔王の業務で忙しいんじゃ……。僕なんかに時間を割いてもいいのかな?」


 真奈は颯太と同い年だが一国を治める長。多忙でないはずがない。


「ご心配ありがと。だけど、今日の分の仕事はあらかた片付いたし、重要性が薄い仕事はホロウがしてくれてるから時間の方は大丈夫だから」


「そうだったんだ。それなら、頼らせてもらうかな」


 真奈がそう言うなら気負うことなく甘えようと颯太は思う。

 ここで待ったをかけたのが、意外にもキョウだった。


「待ちなよマーちゃん……。ソータのあんないなラ、キョウがすル……ふわぁ〜」


 まだ睡眠魔法の後遺症が残っているのか再び大きな欠伸をするキョウ。

 真奈は呆れた様に腰に手を当て。


「そんな状態でまともに案内は出来ないでしょ。あと、締め切りが今日の仕事があったはずだけど、それは順調なのかな?」


「うぅ……そうだっタ、まだだっタ」


 やっぱりと真奈は嘆息する。


「締め切りは明日まで延ばしてあげるから、部屋に戻って仮眠でもして体調を万全にするんだよ。ベル、仕事に戻って良いって言ったけど、キョウを自室まで運んであげてくれないかな?」


「承知しました。では魔王様も先の案内、よろしくお願いします」


 寝ぼけ気味のキョウを背負うベルに見送られながら真奈の案内のもと、颯太が事件解決まで宿泊する部屋へと向かう。

 道中はまだ長い様で、恋人関係の二人だが会話が出来ずに無言の時間が流れる。


 ここは一応は彼氏として話題を絞り出し、思い浮かんだ内容を一考せずに切り出す。


「それにしても本当にヨルさんには困ったよ。危うく真奈ちゃんに顔向けできない痴態に遭う寸前だったからさ。そう言えば、一つ疑問があるんだけど、どうして真奈ちゃんは男湯に堂々と入って来れたのかな? もしヨルさんがいなければ、真奈ちゃんは男湯を侵入したのぞき−−−−」


 颯太が言い終わる前に颯太の顔横を風が通過する。

 直後に颯太の後方の壁に破壊音と一緒に拳の痕がめり込んでいた。


「颯ちゃんは、私を節操なしの変態にでも祭り上げたいのかな?」


「心の底からごめんなさい」


 据わった目の真奈に圧倒されて颯太は即座に謝罪する。

 颯太も分かりきっていたが、真奈はそんな不埒者ではない。

 無言の空気に耐えきれずに考えが浅いまま話題を振ったことを反省する颯太に、真奈は何故自分が確証があって男湯に侵入したのかを語る。


「ヨルは魔界でも性欲がトップクラスの種族淫魔(サキュバス)で、気に入った男は節操なく食う肉食系だからね。颯ちゃんたちを大浴場に見送ったあと、勘と言うか、嫌な予感がしてね。慌てて大浴場に向かったら、何故かいるキョウが眠ってたから、予感的中って入ったわけ」


 ヨルは魔王の従者であるならある程度ヨルの性格は熟知しているのだろう。

 そして当たって欲しくない方向で的中して不埒者を制裁したのだ。


「真奈ちゃんの嫌な予感のおかげで、僕の貞操は守られたってわけだね」


「そうだよ。だから感謝してよね。魔王城の異性トラブル記録を絶賛更新中な痴女から守ってあげたんだから」


 元を辿ればヨルの存在を忘れていた真奈も騒動の一端はあるのだが、この際はどうでもいい。


「……守ってくれたのはありがたかったけどさ。その割には、被害者なはずの僕に軽蔑な目を向けていたよね?」


 颯太は忘れない。

 真奈が大浴場を出る直前の、さながら浮気現場を目撃した彼女様な冷酷な目。

 厳密に言えば颯太は被害者なのだから向けられる謂れはないはずだが、真奈は気まずそうに目を逸らし。


「そ、それは……あ、あれだよ! そ、颯ちゃんも悪い気はしないでしょ!? 彼女に嫉妬されるなんて、彼氏冥利に尽きると言うか!」


「良いわけない」


 慌てて取り繕う真奈を一蹴する颯太。

 颯太がジーッと半目で見続けると真奈は観念してしゅんと肩を落とす。


「ごめん颯ちゃん……。私自身もなんであんな目を向けたのか分からないんだよね。ちょっとムシャクシャしたと言うか、八つ当たりだったかも。だけど勘違いしないでね。別に颯ちゃんを嫌いになったわけじゃないから」


 真奈自身も自分の行動原理が分からないようだが、颯太も別に強く言うつもりはなく。


「別にいいよ、もう。僕が悪くないってことだけでも分かってもらえるなら。実際、真奈ちゃんのおかげであの肉食系のヨルさんから童貞を守ることができたんだしね」


「颯ちゃん颯ちゃん。許してくれたことはありがたいんだけどさ。さっきから流してたけど、貞操だったり童貞だったりって、それを言われた私はどんな反応をすればいいのかな?」


 同性相手に語るノリでツイ口にしていたことに颯太は改めて軽率だと後悔する。

 仮にも彼女である真奈に童貞だと暴露するなど破廉恥にも程があった。

 

「それにしても、そうか。颯ちゃんは童貞だったんだね。だとしたら正直な話、ヨルに襲われて本当は満更じゃなかったりしてね? 人間界の男性、特に思春期の高校生には淫魔(サキュバス)は理想の賜物だって聞いたことがあるしね」


 ふふーんと揶揄う様にはにかむ真奈だが、颯太はぎくりと突かれ、冷や汗を流して顔を流し。


「べ……別に、そんなこと……思ってないよ!」


 颯太は語気を強めて否定する。

 だが、その前の逡巡や視線を逸らしたのが良くなかった。

 言葉で否定しても、心では否定しきれてない反応は肯定を意味する。


「……へえー? 揶揄うつもりで言ったんだけど、本当に満更じゃなかったんだ」


 真奈の瞳からハイサイトが消失して蔑んだ目となる。

 真奈曰く、あくまで冗談で言ったつもりなんだろうが、颯太の本心を突いていたようで、颯太は冷静に否定するのが最適解だったのだが墓穴を掘った。

 

「そうだよね〜。ヨルは魔界屈指のエロ種族の淫魔だもんね〜。私と違って経験豊富だし、大人の色気ムンムンで、しかも行為に積極的な肉食系だもんね〜。どうせ私は、経験がない処女なうえにガードが固いから、いっそ、ヨルに頼んで大人の階段でも登ってみれば〜」


 面倒な拗ね方をする真奈に颯太は必死に弁明と首を横に激しく振る。


「いやいやいやいや! そんなつもりは毛頭ないから! あんな淫魔(ビッチ)よりも真奈ちゃんの方が何千倍、何万倍もいいから! いや、本当、マジで! 神様、仏様に誓うよ!」


 ツーン、と口を尖らして拗ねる真奈。拗ねる真奈を颯太は初めて見た。

 言っていてなんだが、魔王相手に神や仏に誓われても困るだろう。

 真奈の機嫌が治るように必死に謝罪する颯太を尻目に、颯太の前を数歩先に進む真奈は振り返り。


「…………颯ちゃんのムッツリエロ、バーカ」


 ベーと舌を出した真奈は鼻を鳴らし、颯太を置いて1人歩き出す。

 そんな彼女を茫然と眺めていた颯太は全身を震わす高揚が駆け巡り。


(か−−−−−−可愛ぇえええええええええ!)


 童顔な顔立ちだが普段は大人びた真奈の子供っぽい反応に颯太は歓喜に震える。

 魔王である真奈を天使だと勘違いしてしまうほど。

 颯太の心の中に今の真奈の拗ねた表情は永久保存されるであろう。


「って、ちょっと待ってよ、真奈ちゃん! 置いてかないで!」


 真奈の背中が遠くなる事で我に返った颯太は真奈を追いかけるのだった。


 その後、気まずい空気が流れる中、颯太は真奈の案内の許、魔王城内を歩き、長い石畳の螺旋階段から地下へと降る。

 燭台とシャンデリアで明るかった廊下の明るさが一転して、淡い蝋燭の明るさのみの薄暗い階段を一歩一歩歩くごとに湿った空気が増す。

 そして最後の階段を降りて木の扉を開いた先に見えた道は、息苦しい石造の通路。その通路を数歩歩くと真奈は一つの部屋の前に立ち止まり。


「入って」


 真奈に入室を促され、颯太は部屋へと入る。

 入った部屋は6畳程度の一室。

 部屋の隅には新品のベットが置かれ、更に新品の机と椅子。この部屋を照らすのは机の上に置かれた燭台と壁に設置されたトーチの灯火。


「事が解決するまでは、颯ちゃんには暫くここに住んでもらうからね」


 部屋を観察していた颯太に真奈は告げる。

 はい?と颯太は飲み込めなかったようで首を傾げた。

 囚人が収容される独房の様な部屋に住めと颯太に真奈が言った。

 その言葉を脳が処理した時、颯太が取った行動は、


「ごめんなさい!」


「え、なにが!?」


 颯太の渾身の土下座に驚愕する真奈。

 颯太は額を石畳に擦り付け。


「真奈ちゃんがそこまで怒っていたなんて全然気づきませんでした! 色々と心当たりがあるけど、直近で思い当たるのはあの態度! もしそうなら、心から謝罪しますので、どうか機嫌を直してください! だから後生です! こんな誰も寄り付けない息苦しい地下室に僕を置いてかないでください!」

 

 真奈がご立腹の報復として颯太をここに住まわせているのではと勘繰った颯太だが、真奈は突然の土下座に引きながら否定する。


「そ、颯ちゃん? 私、別に怒ってるから颯ちゃんが滞在する部屋をここにしたわけじゃないからね? あと、先刻(さっき)の事はもう怒ってないから、そもそもあまり怒ってもなかったし」


「え、ならどうしてここに?」


「私も出来ればここを使わせるつもりはなかったよ。なんせここは、昔罪を犯した魔族を収監するための監獄として使われていたからね」


「使われていたって……今は?」


「数十年前に別の場所に監獄を新設したから、現在はもぬけの殻、つまり誰もいない」


 確かに颯太たち以外の音は聞こえない。

 

「ま、まあ、無人だとしても、元々が監獄として使われていた場所に住むのはちょっとな……」


 人はいないはずなのに、怨念みたいな呻き声が聞こえそうで怖がる颯太。

 

「だから出来れば使わせるつもりはなかったって言ったよね。上層、つまりは魔王城内にある客室みたいな部屋は、タイミングが悪い事に満室。空いていたのがこの部屋だけだったんだ。心ばかりではあるけど、寝具は藁だったのに、急遽ベットや机を用意して貰ったんだからね」


 古びた石壁とは対照的に家具が新品なのにはそれが理由だった。

 

「まあ、僕は一時的な保護ってわけで永住するわけじゃないからね。どれくらい住む事になるのかは分からないけど、雨風は凌げるなら我慢するよ」


「柔軟な受入でありがたいよ。客室が空けば移せる様に手配するから、暫くは我慢してね。替えの蝋燭やマッチは(ここ)に置いておくから」


 真奈はそう言って懐から取り出した蝋燭やマッチを机に置く。


「私は自室に戻るけど、颯ちゃんは下手に外に出れば危ないから部屋で過ごしてね」


「うーん、ならだいぶ暇になるけど、ここには娯楽がないから手持ち無沙汰になるな……」


「確かにこんな殺風景な所じゃ暇を持て余すし退屈だよね。おいおい手配しておくよ。もう暫くすれば城内の食堂が解放されるから、使用人を案内兼護衛に寄越すね」


「分かった。それまで適当にスマホでも触っておくよ……って、そう言えば僕の荷物ってどこにあるのかな?」


 襲撃前の颯太は学校帰りで学校鞄を持参していた。

 思い返せば颯太の私物は何もないのだが、颯太が尋ねると真奈は思い出したして気まずそうに目を逸らし。


「…………大至急、公園に行ってくるね!」


 公園に鞄を放置していたらしく、真奈は慌てて部屋を飛び出す。

 反応から颯太の鞄は襲撃現場に放置して来たらしい。

 一人部屋に残された颯太は本格的に暇となり、やる事がないためベットに仰向けで横になる。

 石の天井をボーッと眺める颯太は今日遭遇した出来事を思い返す。


「それにしても、今日の内に色々ありすぎて頭がパンク寸前だよ。まさか、空想上の生物だと思っていた魔族が存在して、僕が住む世界とは別に違う世界があった。心が躍る事がばかりだったけど……」


 幼少の頃から憧れていた存在と世界が実在して歓喜する颯太であったが、同時に違う懸念も抱えていた。


「魔族は人間を超える力を持っていた……僕ぐらいなら、簡単に殺せる程の力が……。あと、人を躊躇いもなく殺せる程の倫理観、明日は我が身の安全は保証されないとは昨日まで思いもよらなかったよ」


 颯太は治療はされたが切断された右腕を撫でながら不安そうに呟く。

 

「けど……真奈ちゃんを始め、ホロウさんに、キョウ、ベルさん、あと……ヨルさんも? 良い人はいる。他の魔族とも仲良く……できれば、いいな」


 颯太は重くなる瞼に抗い願いを語る。

 

「まあ……今回の件が終わったら、僕の記憶が消されるんだけど…………それまでは、この非日常を……たのし、む……」


 学校が終わってから謎の人物に襲撃され、真奈に助けられ、治療され、魔族と魔界のことを教えられ、魔王城を案内され、大浴場で貞操の危機に遭う。

 颯太がこれまで過ごして来たどの一日よりも濃い出来事を経験して、疲れが溜まっていたらしく、颯太は睡魔に誘われて系が切れた様に落ちるのだった。

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