メイド、騙される
「……はい、これで全ての手続きは完了です。フェリシアさん、ランクアップおめでとうございます!」
今日は、フェリシアの初昇格を祝うためにギルドを訪れていた。
「おぉ〜! やっと……やっとFランクやぁ!」
手渡されたばかりの、ほんの少し輝きを増したカードを見つめて、フェリシアは子供のように大喜びしている。
「そういえば」と、受付嬢さんがペンを置きながら私たちを交互に見た。「お二人はパーティーを組まないんですか? 正式にパーティー登録をすれば、今後受けられる依頼の幅もぐっと広がりますよ」
(あぁ、そっか……。今、私は一人じゃないんだ。パーティーを組むっていう選択肢、すっかり忘れてた)
「ええやん、それ! ぜひやろうや、ルナちゃん!」
フェリシアの弾むような声に背中を押され、私は静かに頷いた。
「……そうですね。じゃあ、お願いします」
「ありがとうございます。では、こちらの契約書にサインをお願いしますね」
受付嬢さんが手際よく取り出した契約書に、私はさらさらと名前を記した。
「最後に、パーティー名はどうされますか?」
(確かに……。何がいいかな?)
腕組みをして唸る私を横目に、フェリシアが十秒ほど考え込み……やがて、パッと何かが閃いたような顔をして声を上げた。
「あ! 『シエル・エトワール』とか、どうやろ?」
「……じゃあ、それで」
(意外と、真面目な名前を考えるもんなんだな……。珍しい。正直、意味まではよくわからないけど)
もっと「チーム・ガチ強」みたいな変な名前を言われるかと身構えていたけれど、響きは悪くない。私は他の案も思いつかなかったので、フェリシアの出した案にそのまま賛成した。
「承知いたしました。パーティー『シエル・エトワール』、登録完了です。……なお、ランクはC+からのスタートとなりますね。では早速、こちらの依頼についてですが……」
「え? ちょっと待ってください、私、依頼を受けるなんて一言も言ってないですよ」
食い気味に返した私に、受付嬢さんは小首を傾げて「えぇ?」とわざとらしく声を上げた。
「何をおっしゃってるんですか。ほら、こちらの契約書の規約欄……『ご登録後、一件の指定依頼を完遂すること』と明記されていますよ」
指差された場所をよく見てみると、米粒のような小さな文字で、確かにそう書かれている。
(……あぁ、そういうこと。やってくれたわね、ギルド)
新設パーティーへの「お試し」という名の強制労働。私が内心で舌打ちをしている間に、受付嬢さんは淀みなく説明を続けた。




