第二話 兄にはちゃんと伝えているはずですが?
さて、世間一般では俺は女と扱われている。
とはいえ、正しい性別を知っているものは当然いる。
俺の親世代の一部は知っているし、当然ながら国王や王妃も知っている。
……知っているので俺が婚約破棄を言い出したとしても文句ないだろう。
むしろなんとか婚約解消をさせようとあのバカ王子を言い含めているぐらいだ。
とはいえ、同世代は知らないものが多い。
例外は……俺の家族だ。
両親も俺の事情と、俺の病弱さを心配している。
そして、妹達も俺のことを理解している。
理解しているはずなのだが……。
「お前はお茶会の一つ、開けないのか?」
「お母様がお茶会はしておりますが?」
「そうじゃない。お前は時期王妃の自覚はあるのか?」
いやねえよ?
そう言いたくなるが黙る。
確かに時期王妃と言われているが……それはあくまでも表向きだ。
そもそも、あのバカ王子が無理矢理に婚約者にしたようなものだ。
「申し訳ありません。
お兄様。あいにくと体が弱く、お茶会などに出るほどの体力もなく……。
お母様やお医者様も無理をするなとおっしゃっています」
これは事実だ。
表向き、王太子の婚約者だ。
お茶会ぐらい参加するべきと言う意見もあるだろうが……。
あいにくと性別を誤魔化すことで延命する魔術。
それを使うことで寿命を延ばしているぐらいだ。
無理矢理、寿命を延ばしているので健康とは言えないぐらいだ。
これでも緩和しているほうだが……。
少なくとも無理をしない方が良いというのは事実だ。
だが、
「それでも、王太子の婚約者だ。
お前には王太子と婚約できるということを思っている?」
迷惑だと思っている。
何が楽しくて男と婚約して喜ばないといけないのだ。
そう俺は内心で溜め息をつく。
「お兄様。お父様とのお話はきちんと聞いていますか?」
俺はそう問いかけるが、
「父上はお前に甘いんだ。
お前は王太子妃になるという自覚を持て! 国母になるという気概をもて」
「不可能なことを言われても困りますが……」
あいにくと俺の体調が良くなり成人できたとしても……。
おそらくあのバカ王子……つか、相手が誰だとしても母になることは不可能だろう。
つか、元気になったとしたらあの王子の婚約者はぜったいに断りたい。
どうせ未来があるならば……脳裏に浮かぶはリリスの姿。
いや。なんでリリス……?
「おい! 聞いているのか! アリス」
「あ、失礼。ちょっと立ちくらみを」
実際の所、上の空だっただけなのだがそう言って誤魔化す。
「ふん。お前はそう言って病弱さを自分の不真面目の言い訳に使っている。
だからいつまで経っても体調が良くならないんだ」
「はぁ」
まあ。実際に上の空だったのは事実なのでそこは反省しておこうと思う。
とはいえ、
「そういうお兄様は、公爵家後継者として些か自意識過剰では?」
そう忠告をしたのだが……全く聞こえていない様子である。
「とにかく、今度、お茶会を参加するように準備を整えておいた」
「は?」
ちょっとまて?
その言葉に声を上げるが、
「ロナルド様がお声をかけた招待客が来る。
ロナルド様の婚約者としてちゃんと顔を出せ。
このままだと、ロナルド様の婚約者は別の女性になるかも知れないんだぞ」
むしろそちらのほうが嬉しいのだが?
というか、
「そのような話は聞いていませんが?
このことはお父様やお母様。
それに国王様達はご存じなんですか?」
「ロナルド様はご存じだ。
問題は無い」
ありまくりである。
下手にあのバカ王子と親しい。
そう判断されて仕舞えば……婚約解消後が面倒になる。
そう思っているのだが兄は全く聞き入れない。
……本当に兄は俺の性別を忘れているのでは? そう思ってしまう。
「これは決定事項だ!
お茶会はしっかりとやって貰うからな!」
それだけ言うと兄は有無を言わせない態度で立ち去る。
「……マジかよ……」
思わず出た素の口調は幸いにも俺にしか聞こえなかったようだ。
とはいえ、このままだと困る。
そう思って父に話へ行けば、
「フィリップのやつ……」
そう父は兄の行動に苦言をつぶやく。
「お父様にも相談なく強行されたんですね」
「ああ。さすがにしていたら止めていたんだが……。
ロナルド様ももしかしたら父君である国王陛下や女王陛下に話していないかも知れない。……しかし、困ったな」
そう言って父が溜め息をつく。
「と言いますと?」
「すでに招待状をやっている上に、場所が王城だ。
王城では確かに申請すればお茶会も可能だが……。
予約制もある。
そこでのお茶会を主催者がドタキャンとなれば……。
その家の格も下がる上に招待状で連名したロナルド王子の名も汚す。
そうなれば、問題になる。
……お前はお茶会をしなければならない」
「今から……ですか?」
お茶会。
俺派隊長もありやったことがないが……。
あれがわりと時間と手間がかかることは知っている。
招待客の好みに合わせたお茶とお菓子や場所のレイアウト。
それらをしてさらに座席の場所などを考える必要がある。
「しかもあいつ……我が家のつながりではない。
ロナルド王子と親しい家ばかりを集めている。
余計なトラブルになりかねん……と、アンジェリカが言っていた」
アンジェリカは母の名前だ。
「男性と女性とでは社交の環境が違いますからね」
「ああ。女性の社交であるお茶会。
男はなるべく口だしをしないのが不文律だというのに……」
父はそう言って頭を悩ませている。
「こちらでもなるべくなんとかするが……。
アンジェリカの力を借りてなんとかするしかないだろう。
女王陛下も力を貸してくれると約束してくれたが……」
「……はぁ」
気のせいか熱が上がりそうだと思った。




