第一話 いや。婚約破棄したいんですが?
「学園生活が始まるまであと1年です!」
アリスがそう宣言したのは……俺達が魔法学園に入学するまであと1年。
そういった状況になったころだった。
俺はというと相変わらず長生きは出来ないという体質。
そろそろ、本格的に王子の婚約者を辞退するという流れになるはずだったのだが……。
王子がそれを納得しようとしない。
幾度となく遠回しに
「リリア様は体が弱い」
「子どもを産むのも難しいと医者が言っていた」
そう伝えているのだが、
「僕はリリアを愛しているだけだ!」
「リリアと子どもがほしいわけじゃないんだ!」
「子どもを産めないからと責め立てるようなことを言うな!」
そう言ってかたくなに意見を聞こうとしない。
確かに子どもを望めないと言うだけで悪く言うのはダメだ。だが、王族貴族の役目の一つにはその子孫を残すと言うことがある。
特に王族。
次世代の王を生むのが王妃の仕事と言っても過言ではない。
もちろん、他にも必要な役目はあるが……。
王妃が子どもを望めないというのは大きなマイナス要因だ。
それこそ、子を望めないならば側室が必要になる。
まあ。王が子どもを残すのは仕事だ。
たとえ、健康体でも子どもが確実に産まれるとは限らないし男子とも限らない。
そういう意味だと王子のあの執着にも困った者だ。
あの様子では側室を受け入れることもしないだろう。
百歩譲って側室候補ぐらいは見つけてほしい。
それならば、いっそのこと全てを知らずに俺が他界した場合でも対処できる。
「一年後の入学式でアリス様のご婚約者であるロナルド王子を始めとした攻略対象キャラと恋に落ちるんです!」
そういえば、王子の名前はロナルドだったな。
そんな事を思い出した。
どうでも良く王子と呼んでいたのだが問題はない様子だ。
「そして、婚約破棄されたアリス様は罰せられるんです」
「なんで、婚約破棄で罰を?」
婚約破棄されて処刑はあんまりだろう。
こっちは一応は、公爵令嬢だ。
「……その、そのゲームだとアリス様は嫉妬でゲームキャラをイジメ続け最終的に命を狙うんです。その結果、その悪逆さから罰を受けるんです。
公爵令息であるアリス様のお兄様によって身分を剥奪され家を追放。
そして、他国へと落ちぶれることになるんです」
「なるほどね……」
普通の公爵令嬢……いや、貴族の子どもならば身分を失って平民として生活。
それは、実質として死刑に近い。
地位と財力が無い貴族ならばたいしたことはないだろうが……。
公爵家の俺の場合は、難しいだろう。
……目の前のリリスならば平民となっても生活できそうだ。
「家が守ることは?」
「これが一番、ましなルートなんですよ。
家が保護? をするルートでもアリス様は罰として40代の中年ハゲの中年貴族男性の第……いくつかな? 6か5夫人となるんですが……。
他に行くところもなくほぼ奴隷墜ちですね」
「あー」
それは本当は男のオレがそうなるとは思えないんだが……。
「ちなみに、リリスはどうなるんだ?」
それが俺にとって気になる事だ。
正直、嫉妬に狂うことはない。
むしろ本当にあのアルファード王子が俺以外に夢中になるなら万々歳だ。
喜ばしいの一言につきる。
幼少期なら性別を誤魔化すことで寿命を延ばすというのも可能だが……。
そろそろ、体格と体型から限界を覚えてきている。
それに、女性としての行動に俺は苦痛を覚えている。
アリスは当人曰く人生ニシュウメというものらしくあまり興味が無いが……。
女性という特有の会話。
やれ、あの子息はイケメンだが三男坊だから将来性がない。
あの男はいまいち愚直だが跡継ぎだから狙い目だ。
あの男はイケメンだが、たいしたことが無い家柄だから遊びだけにしておけ。
そう言った生々しい会話を否応なく聞こえる。
別にそれに関しては否定しない。
前にリリアに、
「ああいった会話。どうにかならないのかしら?」
「アリス様は潔癖ですね。
まあ。確かにちょっと生々しいというのは否定しませんが……。
これが現実というものですよ。
男性だってあの子の家は家柄が良いから将来的に手助けをしてくれるとか、あの子は胸が大きいとかあの子と一緒に歩いていると賞賛されるとか……。
そう言ったことを話しているでしょ。
それこそ、胸が大きいとかお尻が大きいとか……」
「……ええ、まあ」
否定できねえなぁ。
実際に俺もそういうのに興味があるし、それを同性としっかりと話したい。
だが、公爵令嬢として生活をしている俺がそんな会話をすることは出来ない。
出来るのは俺の事情を知る年上。
とはいえ、身内でない大人にこんな話は出来ないし親にするのもこそばゆい。
たまーに執事などに話しているが……あまりこういった雑談は難しい。
俺の場合は、状況から多少の息抜きとして使用人と話す機会を許されている……。あの兄はそれを文句を言っているが……。
まあ。気付かれないようにすれば良いだけだ。
「お互い様というやつですよ。
まあ、こう言うのはあまり人気の無い所……。
ついでにいうと、もうちょっと誰かの耳に入りにくい場所でやるべきだ。
そうは思いますけれどね」
「なるほどね」
そう頷いた。
とはいえ、それでもこう言うことが出来ない。
そう言った感情で精神的にキツイものがあった。
「と、言うか……。
私が破滅しない可能性は?」
「うーん。このゲーム。
一応は、悪役令嬢が複数いますが……。
それでも、リーダー格や黒幕がアリス様なんです。
というか……。
アリス様が魔王になるルートすらあるんです」
「魔王」
「はい。精霊王ルートという隠しルートでして……」
要約すると隠しルート。
本来のやり方ではそう簡単にたどり着けない隠れた攻略対象キャラ。
それが精霊王との結婚らしい。
そもそも、主人公は光の魔力が使える聖女。
庶民出身ながら光の魔力を使えることから、王族貴族が入学する学園に入学。
そこに入学できたという。
「……光の聖女
この世界には魔法がある。
無属性と言われ簡易魔法だけならば身分関係無く使うことが出来る。
部屋を綺麗にしたり、簡単な魔力の壁や魔力による身体強化もできる。
とはいえ、一般人となれば使える魔力量は微々たるもの……。
そのため、理論上は使えるが使うことがないのが一般人だ。
だが、王族貴族となると話は別だ。
火、水、風、土。
これら四つの属性を持ちそれらの魔法を使うことができる。
そのために王族や貴族は魔法を学ぶためにこの学園に通うことが義務となっている。
ちなみに、俺も風の魔力を持っている。
たしか、リリアは土属性である。
そして、その属性を宿した精霊がおりその精霊に愛されているという。
だが、例外的な属性が存在している。
それが、光属性と闇属性だ。
その中でも光属性は神の属性とされ聖女と呼ばれている。
「光の聖女か……」
「はい。学園で活躍した結果、光の精霊王に愛され精霊の寵愛を受けるんです。
まあ。光の精霊王と結ばれるルートは精霊王単体ルートと精霊王を含めたハーレム女王ルートですけれど」
「女王?」
王太子が王位を継ぐのだから、王太子と結婚しても慣れるのは王妃止まりだ。
国王の伴侶止まりで政治ではなく権力もあくまでも国王あってのものだ。
そう思って疑問を口にすれば、
「精霊王に愛されたことから、王太子と結婚後は彼女が精霊王と友に国を発展させていったというルートです。
女王となり、王太子以外の攻略者と結婚するんです。
一夫多妻ならず多夫一妻ですね」
「頭がおかしいとしか言えないわ」
思わずつぶやいてしまう。
王妃となるなら、浮気は厳禁だ。
何度も言うが、王妃に求められるのは家柄や国益、政治的な利益などがあるが……。
国毎に価値観が違うがどの国でも求められるもの。
それは、他でもない間違いなくく王家の血を継ぐための子を産むことだ。
つまり、王の子を産む必要がある。
万が一でも、王以外の子を孕めばそれこそ大問題だ。
王以外の子を妊娠し、王の子と偽れば……。
国家反逆罪。
家柄、出身国、人望関係無く処刑ルート間違いなしだ。
お腹の子もろとも処刑、良くて生涯続く牢獄生活。
子どもは罪がないとされても、生涯に渡る監視生活は間違いないだろう。
だが、
「精霊の王の子どもですからねぇ。
それを生み出すとか寵愛があるならとか……。
まあ。ゲームでしたからね。
ゲームではそこのエンディングのエピローグ的なものがたりで国は繁栄しました~。
で、終わったんですよ。
その後の物語なんでプレイヤーが勝手に想像する。
どんなご都合主義でも構いませんからね」
「まあ。理屈はわかるわね」
元々、病弱なこともあり体調不良なので本を読むのは好きだ。
それに本を読むのが趣味と言うのならば、性別の違いがなく普通に話ができる。
とにかく、そう言った物語の中にはその後はかなり適当……。
否、読者の想像に任せる物語が大半だった。
一騎当千の覇者となる平民の男が王となった。
そこで物語が終わる。
ここで現実的な事を言えば、平民の男がいきなり王になったところで政治は大丈夫なのかという疑問。その高い実力も、戦乱がなくなれば無用の長物になるのでは?
何よりもそう言った実力者も老いてしまえばよくなる。
老いた男が弱者になれば反乱が起きるだろう。
平穏な日々なんて約束はできないはずだ。
とはいえ、それを読み終えて言われれば無粋と顔をしかめるだろう。
ゲームもそうなのだろう。
ある意味、理想や夢想。
それらを詰め合わせた終わりなのだ。
納得出来ないならば、別のエンディングを目指せなよいのだろう。
だが、
「現実に起きたら……。
この国は荒れるわよ」
「そうですね。
まあ、あれは二巡目の隠しルートなので簡単におきませんよ。
普通にやっていてその展開になるのはそうそう想像できません。
そもそもハーレムになるには全員の好感度がカンスト……。
あー。好きで好きでどうしようもないほど大好き! にならないといけないんです。他の男の人と愛し合っていても良いと許せるぐらいの愛ですかね?」
「それはそれで怖いけれど……」
好きで好きで仕方が無い。
その感情はさておいても、他の誰かと愛し合っていても受け入れる。
そんな感情ははたして愛なのか……。
そうとは思えないが……。
正直、気味が悪いという感情があると思う。




