↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君を四文字で呼ばない  作者: 週休七日
第一部 あなたらしい未来

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
9/20

切り取られたページ

 図書館の古い資料は、一番奥にあった。


 しずくが取り出した冊子には、十年前の施設名が印刷されていた。

 その頃は学園ではなく、適性支援センターだった。


 机へ開くと、紙の乾いた匂いがした。

 端は茶色く、綴じ目に近い部分だけが薄い色を残している。どのページも同じ白だったのではないのだと、ユウは顔を近づけて確かめた。


 修了者の寄稿が並んでいた。

 進路。友人。研修中に通った店。


 途中に、切り取られたページがあった。


「破れた?」

「刃物」


 しずくは綴じ目へ指を近づけた。


「破ったら、こんなにそろわない」


 新しい版では、寄稿そのものがなくなっていた。

 目次もページ数も、きれいにつながっている。

 古い版の隣の記事には、一文が残っていた。


《六一四二九の小野寺さんに、何度も話を聞いてもらった。》


 写真には、今より若い小野寺と三人の学生が写っていた。

 小野寺の手には、カップがあった。白黒の写真では、青い線があるかどうか分からなかった。

 ユウは昨日の自分の写真を横へ置いた。


 玲奈とゆらも加わり、名前を調べた。


 まほのときと同じ《公開対象外》という表示が出るとは限らなかった。


 けれど、現在の居場所や近況につながる公開情報を確認できない人が、ほかにもいた。


 十一人。


「全員、何かされたってこと?」


 ひなたが聞いた。


「今ある情報だけでは、そこまでは言えないわ」


 玲奈は一覧の見出しを直した。


《所在確認が必要な人》


 しずくがうなずいた。


 ユウは、切り取られたページの端へ指を伸ばした。


「そこ、触らないで」


 しずくが言った。


 ユウは指を止めた。


「切り残しが取れちゃう。これも、誰かがページを切った証拠だから」


 ユウは指を引っ込めた。


 紙の細い切り残しが、綴じ糸の間からのぞいていた。写真の中の誰が、どんなことを書いていたのだろう。

 新しい版には、その疑問が生まれる隙間もなかった。


 机の隅に、別の原稿があった。


《私らしい未来へ》


「明日の朗読?」

「うん」


 主人公の少女は、自分が周囲と違うことに悩んでいた。

 診断を受け、自分の居場所を見つける。

 最後は家族と抱き合って笑う。


 赤い修正が、最後のページに集中していた。


「しずくが書いたの?」

「直してもらったところ」

「元は?」


 しずくは、折れた一枚の原稿を引き出しから出した。

図書館では、傷んだ本のページを一枚ずつ丁寧に扱っていた。

 そのしずくが、今は自分の原稿を折っていたのが気になった。


 原稿の少女は進路の書類を鞄へしまい、帰り道の本屋へ寄る。

 何も買わずに出るつもりだったのに、一冊だけ手に取る。


 そこで終わっていた。


「まだ、何も決まってない」

「そこまで書きたかった」

「こっちだと、うまくいくか分からないな」

「うん」


 しずくは、自分の原稿を見た。


「でも、この子のその先を、私はまだ知らないから」


 ユウは二つの結末を並べた。

 赤い修正の方は、読み終わったところで話が閉じた。

 折れた一枚を読むと、その本を手に取った少女が、まだ店の中にいる気がした。


「こっち、返すの、あとでもいい?」


 ユウが折れた紙を指すと、しずくが顔を上げた。


「もう一回読む?」

「うん」


 彼女は、そのまま置いてくれた。


「しずくは、何になりたい?」

「本を直す人」

「文化広報じゃなくて?」

「物語も好き。でも、直すのも好き」

「希望、出した?」

「出した。趣味の成果と職業適性は別に評価するって」


 しずくは、補修した冊子を持ち上げた。

 欠けたページは戻っていなかった。

 けれど、残っている文章は前より開きやすくなっていた。


「同じ本だよな」

「うん」

「変わってるのに」


 しずくは少し考えた。


「変わったから、続きを読めることもある」


 ユウはもう一度、本を見た。

 しずくの指が支えている場所を避けて、そっと反対側を持った。

 乾いた紙の匂いが、また少し近づいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。