本人の同意
五日目の朝、喫茶店の扉に白い紙が貼られていた。
《運営者本人の同意に基づき、営業を休止します》
椅子がなくなっていた。
カウンターは残っていた。
床には重い物を動かした跡があった。
ひなたが扉を引いた。
鍵がかかっていた。
「昨日、次の話してたのに」
玲奈が営業登録を検索した。
《61429:公開対象外》
ひなたの顔が変わった。
「まほも同じ表示」
ゆらは隣の店へ聞きに行った。
戻ってきたとき、眉間にしわが寄っていた。
「担当の人が来たって。それ以上は、知らないみたい」
ユウはアイへ尋ねた。
「小野寺さん、無事?」
「現在確認できる記録に、生命に関わる緊急事態はありません」
「まほも?」
「はい」
ひなたが画面へ近づいた。
「なら、話したい」
面会調整の申請を出した。
まほ本人が承諾し、午後、五分間のビデオ通話が許可された。
彼女は薄い灰色の服を着ていた。
背景は、何も置かれていない壁だった。
「ひなた。ごめんね、心配かけて」
「何で連絡くれなかったの」
「生活を整理してて。端末も、必要な機能だけにしてるから」
「戻ってくる?」
「まだ分からない」
「店には?」
まほは少し黙った。
「しばらく離れた方がいいって。役割意識が揺れる場所だから」
「まほがそう思った?」
ひなたが聞いた。
「私は、同意したよ」
画面の外へ一度だけ視線が動いた。
ユウが口を開きかけた。
ひなたが小さく手を上げ、止めた。
それから、まほへ聞いた。
「今、何の話ならしたい?」
まほは、少し驚いた顔をした。
「……ひなた、またニンジン残してる?」
「何で分かったの」
「残してそうだから」
ひなたは笑った。
まほも笑った。
残り時間が減っていった。
「ひなた」
「うん」
「頼まれたこと、全部やらなくていいから」
「まほも――」
そこで通話が切れた。
《規定時間に達しました》
ひなたは暗い画面を見たまま黙っていた。
ゆらが、閉店の掲示を撮った写真を開いた。
「同意と、やりたいってこと。別なのかな」
玲奈は答えなかった。
ユウは昨日の写真を開いた。
青い線のカップと、小野寺の手が写っていた。
「残しておこう」
玲奈が保存先を分けた。
「元の画像は加工しないで。撮影時刻も一緒に」
しずくは紙への印刷を申請した。
「紙にも?」
「開く権限がなくなっても、紙なら見える」
夕方、喫茶店の窓に新しい掲示が出た。
《近日、自動飲料コーナー開設予定》
傷のある椅子が置かれていた場所だけ、床の色が違っていた。




