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君を四文字で呼ばない  作者: 週休七日
第一部 あなたらしい未来

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8/24

本人の同意

 五日目の朝、喫茶店の扉に白い紙が貼られていた。


《運営者本人の同意に基づき、営業を休止します》


 椅子がなくなっていた。

 カウンターは残っていた。


 床には重い物を動かした跡があった。


 ひなたが扉を引いた。

 鍵がかかっていた。


「昨日、次の話してたのに」


 玲奈が営業登録を検索した。


《61429:公開対象外》


 ひなたの顔が変わった。


「まほも同じ表示」


 ゆらは隣の店へ聞きに行った。

 戻ってきたとき、眉間にしわが寄っていた。


「担当の人が来たって。それ以上は、知らないみたい」


 ユウはアイへ尋ねた。


「小野寺さん、無事?」

「現在確認できる記録に、生命に関わる緊急事態はありません」

「まほも?」

「はい」


 ひなたが画面へ近づいた。


「なら、話したい」


 面会調整の申請を出した。

 まほ本人が承諾し、午後、五分間のビデオ通話が許可された。


 彼女は薄い灰色の服を着ていた。

 背景は、何も置かれていない壁だった。


「ひなた。ごめんね、心配かけて」

「何で連絡くれなかったの」

「生活を整理してて。端末も、必要な機能だけにしてるから」

「戻ってくる?」

「まだ分からない」

「店には?」


 まほは少し黙った。


「しばらく離れた方がいいって。役割意識が揺れる場所だから」

「まほがそう思った?」


 ひなたが聞いた。


「私は、同意したよ」


 画面の外へ一度だけ視線が動いた。


 ユウが口を開きかけた。

 ひなたが小さく手を上げ、止めた。


 それから、まほへ聞いた。


「今、何の話ならしたい?」


 まほは、少し驚いた顔をした。


「……ひなた、またニンジン残してる?」

「何で分かったの」

「残してそうだから」


 ひなたは笑った。

 まほも笑った。


 残り時間が減っていった。


「ひなた」

「うん」

「頼まれたこと、全部やらなくていいから」

「まほも――」


 そこで通話が切れた。


《規定時間に達しました》


 ひなたは暗い画面を見たまま黙っていた。


 ゆらが、閉店の掲示を撮った写真を開いた。


「同意と、やりたいってこと。別なのかな」


 玲奈は答えなかった。


 ユウは昨日の写真を開いた。

 青い線のカップと、小野寺の手が写っていた。


「残しておこう」


 玲奈が保存先を分けた。


「元の画像は加工しないで。撮影時刻も一緒に」


 しずくは紙への印刷を申請した。


「紙にも?」

「開く権限がなくなっても、紙なら見える」


 夕方、喫茶店の窓に新しい掲示が出た。


《近日、自動飲料コーナー開設予定》


 傷のある椅子が置かれていた場所だけ、床の色が違っていた。

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