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君を四文字で呼ばない  作者: 週休七日
第一部 あなたらしい未来

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7/11

喫茶六一四二九

 四日目の自由活動で、五人は商店区へ出た。


 学園の認証門を通った先には、小さな通りがあった。パン屋、衣料品店、文房具店。どの店にも、利用者のTYPEに合わせた推奨表示が出ている。


 ひなたには交流型カフェ。

 しずくには静かな個人席。

 玲奈には作業効率を高める飲料。

 ゆらには期間限定の新商品。


 ユウにだけ、何も出なかった。


「うらやましい」


 ゆらが言った。


「おすすめが出ないのがうらやましいか?」


「おすすめ全部断るの、意外と疲れるからさ」


 通りの端に、小さな喫茶店があった。


 看板には《61429》とだけ書かれている。

 木の扉の取っ手は、塗装が少し剥げていた。


「何の数字だろう?」


「営業登録番号よ」


 玲奈が答えた。


「店名はないの?」


「あるけど、更新申請が面倒でね」


 扉の向こうから、男が顔を出した。


「名前で呼ばれたいのは山々なんだが、数字でもコーヒーは淹れられる」


 男は小野寺と名乗った。

 胸元のTYPEはINTJだった。


 ゆらが玲奈を見た。

 玲奈はすぐに言った。


「何」


「いや。よくしゃべるINTJもいるんだなって」


「私も必要なことは話す」


「その必要の基準が違うんだよ」


 店には、形のそろっていない椅子が並んでいた。

 窓側の一脚だけ、背もたれに細い傷がある。


 ユウがそこへ座ると、小野寺が聞いた。


「何にする?」


「おすすめはありますか?」


「コーヒー」


「じゃあ、それで」


「苦いぞ」


「……ココアにします」


 小野寺は笑った。


「おすすめに従わなかったな?」


「先に苦いって言われたので」


「では、ココアはとっても甘いぞ」


 甘いことに変える理由はなかった。


 ココアは熱かった。

 ユウが息を吹きかけると、湯気が細く崩れた。


 味を聞かれ、彼は「甘い」と答えた。


「それは砂糖を入れたからね」


「じゃあ、あったかい」


「それは温めたからね」


「感想、難しいな」


「難しく考えなくていい。もう一度飲みたいかだけ覚えときな」


 ユウはもう一口飲んだ。


 カップには、青い線が入っていた。

 欠けた縁を直した跡だった。


「交換しないんですか」


「まだ使えるから」


 しずくが、そこで顔を上げた。


「修理、きれい」


「知り合いに直してもらった。前より好きになったよ」


 ひなたの表情が曇った。


「小野寺さん。朝倉さん、最近来てる?」


「まほちゃん? 先週は来たな」


「連絡の返事、なくて」


 小野寺はカウンターの中で手を止めた。


「配置の見直しがあるとは言ってた」


 朝倉まほは、ひなたと同じ生活支援の研修を受けていたという。

 人前ではよく笑い、一人になるとよく黙る子だった。


「疲れてたのかな」


 ひなたが小さく言った。


 小野寺は、彼女のカップへ水を足した。


「疲れてたかもしれない。忙しかったかもしれない。返事したくなかったかもしれない。それは本人に聞かないと分からないな」


「……うん」


 店の奥で、通知音が鳴った。


 小野寺は画面を見て、すぐに消した。

 ユウには、《運営適合性の再審査》という文字が見えた。


 店を出る前、ユウは端末を窓際へ置いた。


「アイ。このカップ、青だよな」


「青色の補修線が確認できます」


「前より、青く見える」


「知覚状態の変化を記録します」


「記録するだけ?」


「ほかに希望する対応はありますか」


 ユウは少し考えた。


「きれいだって言ったら、変かな」


「変だと判断する根拠はありません」


「それ、初日も言ってた」


 アイはカップを見ていた。


 ユウは写真を一枚撮った。


 五つのカップ。

 机の端の古い本。

 傷のある椅子。


 画面の中には、窓に反射したアイの顔も、小さく写っていた。

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