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君を四文字で呼ばない  作者: 週休七日
第一部 あなたらしい未来

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4/20

止まってしまう機械

 二日目の朝、廊下の清掃機が止まっていた。


 床には水が広がり、学生たちが手前で足を止めている。

 ひなたは別の道を案内し、職員へ連絡した。


「壊れた?」


 ユウが聞くと、壁のアイが答えた。


「監督信号が途絶えたため、停止しました」

「人が通れなくなってるけど」

「安全を確認できないまま動き続けないための機構です」


 ゆらが水たまりの手前へしゃがんだ。


「じゃあ、違う監督につなげば?」

「停止理由を確認してから切り替えます。担当を替えるだけで警告を消すことはできません」

「ちゃんとしてるね、床掃除」


 廊下の向こうから、職員がモップを持ってきた。

 五人は別の道を通った。


 講義室の正面には、十六の色に分かれた円が映っていた。


《あなたらしさを、社会の力に。》


 壇上の男は佐伯と名乗った。

 第十六人格適性研究区画の責任者だという。


「TYPEは、人間の優劣を決めるものではありません」


 落ち着いた声だった。


「苦手なことを無理に続け、心身を壊してしまう人がいます。能力があるのに、適切な場所へたどり着けない人もいる。私たちは、そのすれ違いを減らすために支援しています」


 画面には、就職後の定着率や生活満足度の推移が表示された。


 玲奈は熱心にメモを取っていた。

 ゆらは肘をついていたが、目は画面を見ていた。


「推奨と違う仕事を選んでもいいんですか」


 ユウが聞いた。


「もちろんです」


「その場合、何が変わりますか」


「支援内容が変わる場合があります。適性奨学金、職業訓練費、居住補助などですね」


「選べるけど、支援が減るということでしょうか」


「限られた資源を、効果が見込める場所へ配分する必要があります」


 佐伯は否定しなかった。


「あなたも、得意な人へ仕事を頼むでしょう」


「その人が、やりたいかどうかは聞きます」


 教室のどこかで椅子が鳴った。


 佐伯はユウを見た。

 怒った様子はなかった。


「そのために面談があります。数値だけで決めるわけではありません」


「数値と面談が違ったら?」


「再評価を行います」


「面談した人の答えを変えるんじゃなくて?」


 ひなたが、机の下でユウの袖を引いた。


 佐伯は少しだけ笑った。


「よい質問です。制度は間違えることがあります。だから、不服申立てと外部審査の仕組みがあります」


 次の画面には、相談窓口が並んでいた。


 学内相談。

 地域調整。

 外部審査委員会。


 最後の窓口だけ、手続きの説明が長かった。


 講義のあと、ひなたが肩を落とした。


「責任者にあんなに質問する人、初めて見た」


「気になったから」


「それは伝わった」


 玲奈が口を挟んだ。


「質問自体は妥当だったわ。ただ、佐伯先生の説明にも筋は通っていたわ」


「玲奈は、この制度好きなの?」


「私が今ここで勉強できているのは、適性奨学金のおかげ」


 玲奈の声が、少し硬くなった。


「全員が、自分で好きな道の費用を払えるわけじゃないのよ」


 ユウは口を閉じた。


 しずくが、講義でもらった冊子をめくった。


 表紙には《TYPEは自己理解の参考情報です》。

 中には補助額と優先順位。

 最後には《あなたらしい未来への同意》という署名欄があった。


 しずくは署名せず、冊子を鞄へしまった。


 午後の共同課題は、六日目に開催される適性交流会の準備だった。


 担当表は、すでにできていた。


 ひなたは総合進行と参加者支援。

 しずくは朗読展示。

 玲奈は予算と運営管理。

 ゆらは当日の突発対応。


「突発対応って、準備することないじゃん」


 ゆらが言うと、担当職員は笑った。


「臨機応変さがあなたの長所だからね」


「便利な長所ですね」


 ゆらも笑った。

 机から手帳を取り、鞄へしまった。

 開いたページには、時刻と作業名が細かく並んでいた。


 教室を出ると、清掃機はまだ止まっていた。

 職員がモップを片付けていた。床の水はなくなっていた。


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