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君を四文字で呼ばない  作者: 週休七日
第一部 あなたらしい未来

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3/17

六人目の席

 寮の部屋は一人用だった。


 ベッド。机。収納。洗面台。

 机の上には制服の替えと端末があり、壁には翌日の予定が表示されていた。


《七時三十分 朝食》

《九時 適性支援制度講義》

《十三時 共同課題説明》

《十八時 生活記録提出》


 隙間には《自由時間》と書いてある。


「自由時間って、何をする時間?」


 画面へ聞くと、アイが現れた。


「学習、休息、交流、個人活動など行うために利用できます」


「利用目的を聞いたわけじゃないんだけど」


「質問の意図を特定できません」


 ユウはベッドへ座った。


 ひなたたちと別れてから、部屋の中が静かだった。

 それが好きかどうかは、まだ分からなかった。


「俺、帰るところある?」


「帰還先として登録された住所はありません」


「十四日目が終わったら、どこに行くの」


「最終手続きで決定されます」


 ユウは机の端末を持ち上げた。


「これは持ち出せる?」


「研究区画内で使用できます。区画外との私的通信は許可されていません」


「アイも画面に出る?」


「接続されていれば応答できます」


「じゃあ、行こう」


「目的地を指定してください」


「決めてない」


「経路案内ができません」


「一緒に行くのに、案内が必要?」


 返事を待たず、ユウは部屋を出た。


 中庭には誰もいなかった。

 遠くの窓から話し声が聞こえる。ベンチのそばに植えられた木が、風で葉を揺らしていた。


 端末をベンチへ置き、その隣に座った。


 画面の中のアイは、いつもと同じ姿勢だった。


「君って、ずっと立ってるの?」


「表示姿勢です。疲労は発生しません」


「座らない?」


「必要性がありません」


「俺も、立ってられないほど疲れてるわけじゃないよ」


 アイの像が消えた。


 次に現れた少女は、白い椅子へ腰掛けていた。


「これで適切ですか」


「うん。何か、並んでる感じがする」


 風が強くなり、端末が傾いた。

 ユウは慌てて支え、ベンチの背に立てかけ直した。


「転倒しても、私の処理には影響しません」


「画面は割れるだろ」


「交換可能です」


「でも、今は割れない方がいい」


 アイは答えなかった。


 ユウの膝に、小さな葉が落ちた。


 薄い緑色だった。

 昼間に見た木の葉より、少しだけ色が濃く見えた。


「アイは、何色が好き?」


「嗜好情報は登録されていません」


「俺と一緒か」


「同一とは限りません」


「そこは一緒ってことでよくない?」


「正確性が低下します」


 ユウは息を吐いた。

 少し笑っていた。


 そのとき、画面の端に文字が現れた。


《次の活動》

《A:中央ラウンジで他の参加者と交流する》

《B:今日は一人で休息する》


 ユウの指が、膝の上で止まった。


 どちらも、今とは違う場所だった。

 彼が画面に触れる前に、白い枠の下で小さな円が回った。


 二秒ほどして、表示が消えた。


「……部屋に戻るか」


 そう言ってから、ユウはアイを見た。


「今の、選ばなくても消えるんだな」


「観察用の案内表示です」


「これ、一人でいたことになる?」


「身体的には、他の参加者と同席していません」


「身体的には、って」


「分類基準です」


 ユウは端末を持ち上げた。


「俺は、アイといたことにする」


 少女は一度だけ瞬いた。


 寮へ戻る途中、ユウは自分の部屋を通り過ぎた。

 三歩進んでから戻った。


「教えてくれてもよかったのに」


「移動先の変更かと判断しました」


「間違えたんだよ」


「学習しました」


 部屋へ戻ると、生活記録が開いていた。


《自由時間の過ごし方》

《一人で休息》


 ユウは訂正用の項目を探したが、見つけられなかった。


「アイ。ベンチで話したことは残る?」


「会話記録は保存されます」


「なら、まあ、いいか」


 ベッドへ横になった。

 照明が暗くなる直前、もう一度画面を見た。


「おやすみ」


「休息を開始してください」


「そうじゃなくて?」


 小さな間があった。


「おやすみなさい、ユウ」


 それを聞いてから、彼は目を閉じた。


 その夜の生活記録には、修正が一件だけ追加された。


《備考:管理支援人格との会話あり》

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