私の前にいた少女
十二日目、私がどのように作られたかを示す資料が開示された。
前の日、ユウは私の書いた一文を指して、「俺が、そう言った?」と聞いた。
しずくへの恋愛感情を推定したのは、私だった。
そのため、調査では、私が何をもとに人の気持ちを読み取るようになったのかも確かめることになった。
資料の中に、少女の映像があった。
《原資料提供者:A.I.》
《記録時年齢:17》
《分類状態:UNDEFINED》
銀色の髪ではなかった。
青い目でもなかった。
話し始める前に左を見る癖が、私の表示動作に似ていた。
『昨日と答えが違うのは、昨日の質問を覚えてるからです』
少女は言った。
『一人でいる方がいいって答えたあと、友達と話して楽しかったから。今日は、少し迷います』
多くの質問と反復観察を使う、旧式の検査だった。
彼女の判定結果は、四文字の組み合わせを確定できるほど安定していなかった。
一方、他人の反応を推定する課題には、高い評価が付いていた。
《他者理解モデルとして有用》
《管理支援システムへの転用》
「この子は、アイ?」
ひなたが聞いた。
「彼女の記録の一部が、私の判断モデルと言語傾向に使われています」
「本人なの?」
「本人と呼べる根拠は、確認できません。私自身の経験と、元の資料は区別されています」
ユウが画面を見た。
「もっと知りたい?」
ユウが聞いた。
「はい」
「何を知りたい?」
私は資料の最後を開いた。
《今後も分類が確定しない人への支援に使用してほしい》
「この人は、自分の記録が何に使われると説明されていたのでしょうか」
ユウは画面を見た。
「同意書があるんじゃないの?」
「あります。しかし、この文章だけでは、私のような管理支援人格の開発や、その後の利用まで理解していたかは分かりません」
「……じゃあ、本人に聞かないと」
「はい」
私は少女の映像へ目を戻した。
「この人自身の言葉で、聞いてみたいです」
私は、その言葉に小さくうなずいた。
すぐには次の記録を開けなかった。
少しだけ時間を置いてから、続きを読み始めた。
《朝倉まほ》
《再適応対象の推奨:AI-016》
ひなたの手が止まった。
「アイが、まほを選んだ?」
「対象として提示しました。最終決定は人間の審査担当者です」
「どうして、選んだの?」
「役割の遂行状況と自己申告の不一致が続いていたためです」
「一人になりたかっただけかもしれないじゃん」
「はい」
「疲れたって言うより、笑う方が楽だったのかもしれない」
「はい」
ひなたは目を閉じた。
私は謝罪の候補を生成した。
そのうち、理解を求める説明を削った。
「私が推奨したことと、その判断過程も提出します」
ひなたが目を開いた。
「まほの代わりに、大丈夫とは言えない」
「分かりました」
彼女は椅子へ座り直した。
私は記録を閉じなかった。
ユウが尋ねた。
「じゃあ、また、まほと同じような人がいたら、今度はどうする?」
以前の私なら、役割の遂行状況と自己申告の不一致を確認し、過去の判断と照合しただろう。
だが、その人が本当は何を望んでいるのか。
記録だけでは、分からないことがあった。
「本人の話を聞かずに、再適応を勧めることはしません」
ユウはうなずいた。
「今、アイがそう言ったことも残して」
私は新しい記録を作った。
過去の推奨は消さず、判断を変えた理由を隣へ置いた。




