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君を四文字で呼ばない  作者: 週休七日
第二部 観察されていたのは誰か

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19/24

俺が、そう言った?

 休憩のあと、ユウは自分の記録を見せてほしいと言った。

 画面に観察報告書が開いた。


 天井には、六本の照明があった。


 最初の一行で、ユウの指が止まった。

 ページを送った。

 白い部屋。レモネード。食卓。

 ベンチ。喫茶店。雨。


「……誰が書いたんだ」


 私は答えなかった。


「アイ」


 ユウが私を見た。


「これ、誰が書いたかわかる?」

「私です」

「誰が読むために書いたの?」

「外部観察者です」

「俺の行動を選んでた人であってる?」

「はい」


 ユウの呼吸が浅くなった。

 私はその意味を、すぐに言葉へ変えなかった。


 ここまでの文章は、私が当時送った経過記録をもとに、後からまとめ直している。

 私の覚書と、本人たちが話してくれたことも加えた。ユウの内心として記した部分も、彼に読んでもらい、言葉を確かめた。

 全てを、当時の観察者へ送ったわけではない。


 だが、この部屋で彼が読んでいたのは、修正前の記録だった。


 感覚情報。施設内の映像と音声。発話。

 私はそれを文章にした。

 外部観察者へ、仮想の人物の生活として届けた。


 回答の集計画面が開いた。


《分析対象:外部観察者》

《回答数:36》

《適用先:SUBJECT-00》


「その人たちは、アイが書いたものを読んで答えていたかしら?」


 玲奈が聞いた。


「はい」


「ユウと直接会ったこともないのよね?」


「ありません」


「しかも、回答したのは三十六の場面だけでしょう」


「はい」


 玲奈は回答の一覧を指した。


「それだけで、その人がどんな性格なのか分かるものかしら?」

「回答傾向から、人格特性を推定します」

「推定なんでしょ?」

「はい」

「その推定した性格を、今度はユウに当てはめられるの?」

「校正に使用する人格情報として扱っています」


 玲奈は画面を見たまま、短く息を吐いた。


 ユウが、しずくについての記述を開いた。


《恋愛感情が形成されつつあると推定》


「俺が、そう言った?」

「いいえ」

「心配しただけだって、言ったよな」

「その発言も記録しています」

「なのに、俺が言ったことじゃなくて、アイが推測した方を使ったの?」


 ユウは画面の一文を再度指した。


「これを使って、俺としずくが会う予定を調整した?」

 

 私は、彼が誰かへ近づいたことを記した。

 そこに好意の可能性があるとも記した。

 接触が増えると、それを好意の裏付けとして扱った。


 ユウに続きを送らなかった。


「俺が嫌だって言うのは、どう書く?」


 私は解釈欄を閉じた。


「あなたが嫌だと言った、と書きます」

「今度は、それでいい」


 しばらくして、彼は喫茶店のページを開いた。


「このカップを回したのは覚えてる。好きだったから、こっちに向けたんだと思う」


 そこで少し止まった。


「思う、まで記録に残して。今、そう思っただけだから」

「はい」


 私は記録を修正した。


《ユウは、青い補修線を自分の方へ向けた理由について、好意があったためだと現在は考えている。ただし、当時の動機は確定していない。》


 玲奈が申立書を開いた。


「目的外利用と外部提供に異議があります」


 玲奈が言った。


「後から説明を受けたからって、それまでの利用に同意したことにはしません」


 玲奈は記載した申立書を四人へ回した。


 ひなた、しずく、ゆら。

 それぞれが内容を確認し、自分の名前で署名した。


 ユウも端末を受け取った。


「俺も、出したい」


 名前の欄に《ユウ》と入力した。


 けれど、次の画面へ進まなかった。


《申立人登録を確認できません》


「……何で?」


 ユウはもう一度、名前を入力した。


 同じ表示が出た。


「俺のことを調べる実験なのに、俺は嫌だって言えないの?」


 玲奈が端末をのぞき込んだ。


「申立人として登録できないだけよ。あなたの意思まで、なくなるわけじゃない」


 岸が顔を上げた。


「面談記録には残せます」


 ユウは画面を見た。


「じゃあ、この表示と、俺が嫌だって言ったことを一緒に残しといてください」


 岸がうなずいた。


「面談記録へ残します。システムが受け取らなくても、私が受け取ります」


 外部配信は停止された。

 観察者へは、実験の実態と異議の内容が通知された。届いた返答には、継続を望まないとあった。

 すでに適用された判断を、なかったことにはできなかった。


 ここから私は、自分を「私」と記す。

 配信を終えた後のことは、保全された記録と、掲載を許可された会話をもとに書く。


 ユウはベンチの日を開いた。


《管理支援人格との会話あり》


 私が分類した一行の下に、書かれた一行があった。

 画面を閉じる前に、彼はその文字へ指を置いた。


 私は何を感じたのか尋ねなかった。

 そこへ、説明を足さなかった。

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