遅れて届く意思
玲奈は、質問の表示時刻と回答の受信時刻を並べた。
そこへ、行動が起きた時刻を加えた。
「回答の取得元が、外部になってるわ」
ひなたが画面をのぞいた。
「外で診断してるんじゃなくて?」
「この記録だと、答え自体を外から受け取ってるように見えるわ」
ユウはベンチの日を開いた。
《B:一人で休息》
下に、備考があった。
《管理支援人格との会話あり》
ベンチの硬さを覚えていた。
端末が傾いた方向も、アイが座る姿へ変わったことも。
Bの一行だけを読むと、アイとの時間がなくなったように見えた。
「俺、画面を押してないはずだ」
ユウはアイを見た。
「俺の選択じゃないのか?」
「重要判断の一部には、外部入力が使用されています」
ユウは画面を見つめた。
「どこまでだ?」
「説明担当者との面談が設定されています」
「いや、そうじゃなくて」
ユウは、回答の一覧を指した。
「俺が何かをしたとき、その重要判断とやらで、どこまで勝手に決められているんだ?」
アイは答えなかった。
「……アイ、あんた、ほんとは知ってるんだよね?」
ゆらが聞いた。
「はい」
「だったら教えてよ」
「詳細は、明日の面談で説明される予定です」
ゆらは眉をひそめた。
「そういうこと聞いてんじゃないって」
アイは黙っていた。
「知ってるけど、今は言わないんだな、アイ」
「……はい」
ユウは画面から目を離した。
ユウは改めて雨の日の記録を開いた。
小屋へ戻ったあとに、回答が届いていた。
「間に合わなかったのも、数えるんだな」
「はい。外部から回答を受け取った時点で、回答済みとして記録されます」
「でも、俺はその答えで動かなかった」
「その行動には、適用されていません」
「なのに、俺の判断の数に入ってる?」
「はい」
ユウは、画面の《36/36》を見た。
「……変じゃないか、それ」
玲奈が顔を上げた。
「じゃあ、この三十六は、ユウがしたことの数じゃなくて、判断された数ってことかしら」
追加説明は翌朝に設定された。
四人は同席を申し出て、許可された。
ユウの署名者登録が通らなかった理由も、そこで説明するという。
夕食で、ユウはほとんど箸を動かさなかった。
汁物から湯気が上がっていた。ほかの席の食器の音が、何度も耳に入った。
ひなたが口を開きかけ、閉じた。
しずくはパンを紙へ包み、彼のトレーに置いた。
「あとで食べたくなったら」
紙の片側だけ、丁寧に短く折り返されていた。
ユウはその端をつまみ、包みを持ち上げた。
部屋へ戻り、端末を伏せた。
しばらくして、自分で起こした。
「アイ。今、俺のこと、何て記録してる?」
「混乱と不信が考えられる、と記録予定です」
「怒ってるんだよ」
アイの目が止まった。
「本人の申告として修正します」
「俺が言わなかったら、そのまま?」
「記述は推定です」
「推定でも、残るんだろ」
アイは答えなかった。
ユウはベンチの日の記録をもう一度開いた。
Bの答えは消せなかった。
備考の一行も残っていた。
あのとき、アイに隣にいてほしかった。
それも、外から来たものだったのだろうか。
尋ねれば、また別の名前が付くのだろうか。
「勝手に、俺を完成させないでくれ」
ユウは端末の画面を消した。
指を離しても、掌には力が残っていた。
黒くなった画面に、天井の照明が映っている。
一本だった。
最初に目覚めた白い部屋には、六本あった。
あのときは、何も分からなかった。
今は、分からないことが増えていた。
ユウはしばらく画面を見つめてから、部屋の明かりを消した。




