予定表を隠す少女
ゆらの手帳が落ちたのは、八日目の朝だった。
工具箱と一緒に机へ置こうとして、端から滑った。
ユウが拾うと、ゆらは珍しく慌てた。
「見た?」
「開いたところだけ」
「じゃあ、もういいや」
起床。部品点検。練習。移動。
雨天時の代替案まで書かれていた。
ページの端には、小さな船の絵があった。
「船、好きなの?」
「直す仕事がしたいんだ」
「現場対応じゃなくて?」
「壊れる前に調べて、部品を頼んで、何年も使えるようにする方だよ」
ゆらは最後のページを開いた。
海沿いの整備所からの返事が貼ってあった。
《基礎課程修了後の応募を歓迎します》
「整備工場へ応募するの?」
「課程の費用が用意できればな」
「そこは支援は受けられないの?」
「私には長期計画の訓練より、変化の大きい仕事が合うんだってよ」
「進路面談の担当者に手帳、見せたりした?」
「見せたよ。苦手を補う努力は評価します、だって」
ゆらは笑い、途中でやめた。
「こっちは好きでやってるんだけどね」
ユウは工具箱を見た。
「今は、何を直してる?」
ゆらは写真を出した。
旅行鞄ほどの箱だった。側面に持ち手と古い管理番号がある。
「管理システムの移送用計算機。退役品を実習で使ってるんだぜ」
「移送用なの?」
「元の設備を止めて直す間、処理を引き継ぐんだ。今は試験用の軽いものしか入れてないけど」
「動くの?」
「起動はした。でも、起動しました、で終わったら修理じゃないから、これからだな」
手帳には連続運転の記録があった。
成功した日だけではない。失敗した欄の方が細かかった。
午後、ゆらは人工海岸の保守設備を見学する予定だった。
実習指導員へ連絡し、ユウの同行も許可された。
「設備見学の後二十分もあるぞ」
「海を見る時間ってわけよ」
「そこも予定なんだ」
「見に来たのに、見ないで帰るの嫌しょ」
人工海岸は、堤防の内側にあった。
砂浜の先の波は、奥に見える設備で調整されていた。
「本物はあの向こう」
ゆらが堤防を指した。
「ここからじゃ見えないな」
「だから、行きたいんだよ」
ユウは、ひなたにもらった紙を出した。
《十五日目、六人でどこかへ》
「ひなたと約束したんだが、海にしないか?」
「それ勝手に決めていいの?」
「あとで聞く」
「じゃあ、第一候補で頼むわ」
ゆらは《海》と書いて下線を引き、紙を返した。
保守小屋では、指導員が通信設備を説明した。
高潮や設備事故の報告を、地域管理所へ送る回線だった。
「学園の普通の通信が止まっても、使えるんですか」
入り口で待つユウは、遠くから聞こえる、ゆらの敬語に少しぞわっとした。
「ここは学園の回線とは独立していてね、通常の運営判断では止められないんだよ」
「誰でも使えるんですか?」
「操作はできても、運用者の署名がいる。私用通信じゃないからね」
ゆらは型番と接続口を手帳へ書き、指導員に見せて確認した。
見学が終わり、海を見る二十分に入った。
海を見る時間の途中で、雨が降り始めた。




