最適解の値段
七日目、玲奈はいつもより早く自治会室へ来ていた。
ユウが入ると、通話を終えたところだった。
画面には居住補助の確認書類が開いている。
「見た?」
「少しだけ」
「なら、見なかったことにしなくていい」
玲奈は端末を閉じた。
「私、母と二人暮らしなの。父が亡くなってから、補助と奨学金で生活を組んできた」
ユウは向かいへ座った。
「この十四日の研修評価と何か関係あるの?」
「全部が直接つながるわけじゃない。でも、就学を続けられる見込みや進路計画は審査される」
玲奈の端末が短く震えた。
彼女は画面へ目を落とした。
「母から。『ちゃんと食べてる?』だって」
玲奈は端末を伏せた。
「成績を落とさず、求められることをして、計画どおりに進めてみせる。それなら説明が少なくて済む」
「何の話だ?」
「どうして大丈夫なのかって、毎回聞かれなくて済むって話よ」
彼女はバッジの端を押さえた。
「この制度がなければよかった、と簡単には言えない」
ユウは少し黙った。
「玲奈は、その支援があって、ここに来られたんだもんな」
「ええ」
「制度は、店を閉めさせたりするばかりじゃないんだな」
玲奈は、伏せていた端末へ手を置いた。
「私も、あれでよかったとは思ってないわ」
「……うん」
「昨日のしずくの面談も。やり直すと言うなら、何を理由にそう決めたのかは知っておきたいと思うもの」
ユウはうなずいた。
「私だったら、面談の結果次第で、奨学金や住む場所の見通しまで変わってしまうわ」
「しずくも?」
「そこは、本人の条件を確認しないと分からない。でも、理由も知らないまま次の面談へ行くより、今の評価を確かめた方がいいと思う」
ユウは、前日の片付けを思い出した。
しずくは通知を読んだあと、自分で書いた結末を原稿の最後へ戻していた。
「どうやって確かめるんだ?」
玲奈は端末を表に返し、学内の相談窓口のページを開いた。
「本人が、自分の評価記録の開示を求める手続きがある。さらに、ひなたの面談記録も対象になるのよ」
「何を理由に、あの通知が来たのかも確認できる?」
「そう、記録に残っていれば確認できる。まずは二人に話してみるところからね」
ユウは、玲奈が開いたページへ顔を寄せた。
情報開示。
異議申立て。
証拠と状態の保全。
「保全って?」
「調べ終わるまで、壊したり変えたりしないで待つことよ」
「しずくたちを正しいって認めてもらうのとは違う?」
「分からないから残すの」
ユウは、その項目をもう一度読んだ。
「分からないって、理由になるんだな」
「なる場合がある。万能じゃないけれど」
玲奈はページを保存した。
ユウはさらに画面へ顔を寄せた。
午後、彼女は相談担当へ呼ばれた。
戻ってきたときには、《自主報告相談》と書かれた封筒を持っていた。
「何の話だったの?」
ひなたが聞いた。
「運営改善についてよ」
玲奈は封筒を鞄へしまった。
夜、廊下で会ったユウへ、彼女は言った。
「明日、無茶しないで」
「何を?」
「何でもよ」
口を開きかけたが、続けなかった。
ユウが待っていると、玲奈は先に自分の部屋へ戻った。
*
その夜、学内の相談窓口には一件の自主報告が受け付けられていた。
提出書面の署名欄には、黒瀬玲奈の名前があった。




