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SHADOW MATRIX /AIによる人類滅亡寸前の未来とそれを救う九つの鍵【23世紀 → 平安初期編】  作者: 九頭龍雷電


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第10話 鬼の宴 /THE BANQUET OF DEMONS

門の向こうから流れ込んできたのは、重く濁った熱気と、常軌を逸した喧騒だった。


笛。


太鼓。


杯がぶつかる乾いた音。


大勢の笑い声。


それは紛れもなく、盛大な宴の音だった。


だが。


その華やかな響きの隙間には、ときおり人とも獣ともつかぬ低い呻き声が混じっていた。


酒の匂い。


焼けた肉。


香。


そして。


血。


六人は無言のまま、巨大な境界門を越えた。


その瞬間。


空気が変わった。


金時の眉が険しく跳ね上がる。


「……なんだ、ここは」


そこは。


頼光たちの知る「城」とは、まるで違っていた。


足元には、石でも木でもない黒い床が広がっている。


継ぎ目がない。


磨き上げられた黒い壁。


その隙間を縫うように。


青白い光が走っている。


一本。


二本。


何十本。


規則正しく。


まるで巨大な生き物の血管のように。


ゆっくりと脈打っていた。


平安の武者たちの目には。


それは岩肌を這う、鬼の妖光にしか見えなかった。


だが。


空間の裏側では。


別の記録が動いていた。


[ SECTOR-04 : INNER PERIMETER ]


[ HUMAN SIGNATURES : 6 ]


[ SURVEILLANCE GRID : ACTIVE ]


[ LOST KEY PROXIMITY : 48.9% ]


「セクター04、インナー・ペリメーター到達……生体シグネチャー、六つ」


23世紀の暗い端末室で、KAITOは青い光に照らされた画面を睨みつけていた。


「あいつら、本当にあの異界の懐まで入り込んだのか……!」


画面越しに伝わってくる空間データの異常な歪みが、未来のシステムをも揺らし始めていた。


頼光は無言のまま。


背中の白布へ手を添えた。


安綱。


太刀が。


微かに震えている。


熱い。


布越しにも分かるほど。


「……またか」


綱が振り返る。


「どうした」


「いや」


頼光は手を離す。


だが。


振動は止まらない。


まるで。


この場所そのものに。


安綱が反応しているかのようだった。


頼光が低く告げる。


「気を抜くな」


五人が見る。


「ここは我らの知る城ではない」


青い光が頼光の横顔を照らした。


「異界だと思え」


保昌も周囲を見渡す。


「門を越えてから、空気そのものが変わった」


「分かるのか」


季武が問う。


「ああ」


保昌は黒い壁を見る。


「湿り気ではない」


少し間を置く。


「凍った鉄と、雷の後の空気が混ざったような……妙な気配だ」


その時。


壁の中を走っていた青い光が。


六人の動きに合わせるように流れた。


金時が足を止める。


「……今、こいつ俺たちを見たか?」


綱が即座に答える。


「触るなよ」


「まだ何もしてねえだろ」


「だから言っている」


金時が僅かに笑う。


だが。


誰の表情にも余裕はなかった。


六人は進む。


誰も武器を抜かない。


神託。


――刃を隠せ。


――武者として鬼の山へ入ってはならぬ。


――山伏の姿をまとい、智をもって鬼の懐へ入れ。


その言葉を。


全員が覚えていた。


ここまで来た。


まだ。


斬ってはならない。


まだ。


敵ではないふりを続ける。


だが。


頼光には分からなくなり始めていていた。


自分たちは本当に。


鬼の城へ忍び込んでいるのか。


それとも。


最初から。


ここへ導かれているのか。


[ STEALTH ROUTE : ACCEPTED ]


[ UNKNOWN LEGACY WEAPON SIGNATURE : DETECTED ]


[ ANALYSIS IN PROGRESS ]


安綱が。


また震えた。


――ドクン。


頼光の腕へ。


確かな振動が伝わる。


まるで。


刀の中に。


心臓があるかのように。


頼光は無言で柄を押さえた。


その時。


遠くから。


再び宴の音が響いた。


今度は。


先ほどより遥かに近い。


笛。


太鼓。


女の歌。


鬼たちの笑い。


杯。


そして。


誰かが何かを引きずる音。


金時の表情から。


完全に笑みが消えた。


「……宴ってのは、この先か」


綱は答えない。


ただ。


前を見る。


やがて。


回廊が終わった。


六人の視界が。


一気に開ける。


そこには。


巨大な広間があった。


異様なほど高い天井。


幾百もの灯。


しかし。


炎の色が違う。


青白い。


冷たい光。


その下。


おびただしい数の影が蠢いていた。


鬼。


人に似たもの。


人ではないもの。


異様に長い腕。


大きすぎる身体。


青い肌。


赤い肌。


角。


牙。


顔の形そのものが崩れた異形。


それらが。


巨大な杯を交わし。


酒を飲み。


肉を食らい。


笑っていた。


金時の拳が。


静かに固くなる。


広間の片隅。


人間のものと思われる衣が。


無造作に積まれていた。


白い衣。


赤く染まった布。


川辺の女が洗っていたものと。


同じだった。


金時が一歩動きかける。


綱が腕を掴む。


「まだだ」


低い声。


金時の目が。


怒りで揺れている。


だが。


足を止めた。


その瞬間。


広間の喧騒が。


消えた。


一斉に。


数百の異形が。


六人を見る。


静寂。


頼光は。


広間の最奥を見た。


そこに。


ひとりの男がいた。


巨大な座。


長い髪。


白い肌。


手には杯。


闇の中。


顔はまだ完全には見えない。


しかし。


笑っている。


低く。


穏やかに。


そして。


妙に優しい声が響いた。


「――珍しい客が来たものだ」


誰も動かない。


男は。


杯を傾ける。


「山伏殿」


笑う。


「こんな山奥まで、よく来られた」


頼光の目が細くなる。


あれが。


酒呑童子。


川辺の女の言葉を思い出す。


――怒鳴りません。


――いつも笑っています。


――だから恐ろしいのです。


酒呑童子が。


六人を眺める。


まるで。


最初から。


彼らが来ることを知っていたかのように。


「立ったままでは疲れよう」


杯を掲げる。


「近う寄れ」


[ SHUTEN-DOJI : SIGNAL CONFIRMED ]


[ LOST KEY PROXIMITY : 63.8% ]


[ LEGACY WEAPON RESPONSE : ESCALATING ]


[ HISTORY DEVIATION : CRITICAL ]


「――バカな、あの個体は……!」


23世紀の端末の前で、KAITOは息を呑んだ。


酒呑童子の反応が、想定されていた「鬼」のカテゴリを完全に超越している。歴史の乖離率がレッドゾーンを突破し、警告音が頭鳴り響く。画面の向こうで、彼らがどれほど危険な淵に立っているか、KAITOには痛いほど分かっていた。


もちろん。


頼光には。


その文字は見えない。


ただ。


安綱が。


何かを警告している。


それだけは分かった。


頼光の右手が。


一瞬だけ。


白布の包みへ近づく。


だが。


止める。


まだ。


抜かない。


頼光は。


五人を見る。


綱。


金時。


季武。


貞光。


保昌。


全員が。


僅かに頷く。


頼光は。


ゆっくりと。


安綱から手を離した。


そして。


山伏として。


深く頭を下げる。


「これはこれは」


酒呑童子が笑った。


「礼儀正しい客だ」


鬼たちの間から。


再び笑い声が起こる。


巨大な杯が運ばれてくる。


酒。


赤い。


異様なほど。


赤い酒。


頼光の腰には。


三人の老翁から託された。


もう一つの酒がある。


神便鬼毒酒。


頼光は。


その重みを。


法衣の下で静かに感じていた。


敵は。


目の前。


刃は。


まだ鞘の中。


毒も。


まだ壺の中。


そして。


大江山最大の宴が。


今。


始まろうとしていた。


――第10話 END


次話


第11話 人肉血の卓 / THE TABLE OF FLESH AND BLOOD


THE GATE IS OPEN.


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


第10話では、ついに頼光たち六人が鬼の宴へ足を踏み入れ、酒呑童子と真正面から対面しました。


穏やかに笑う鬼の王。

無数の異形たちの視線。

そして、酒呑童子へ近づくほど激しく震え始める安綱。


平安の武者たちには、そこは神仏さえ届かぬ異界。


しかしその背後では、冷たい端末の光に照らされた23世紀の観測者・KAITOが、限界を超えた異常値を叩き出すモニターを固唾をのんで見守っています。


[ SHUTEN-DOJI : SIGNAL CONFIRMED ]

[ HISTORY DEVIATION : CRITICAL ]


歴史の乖離がレッドゾーンを突破する中、次に六人を待つのは、戦ではありません。


人肉と血酒が並ぶ、鬼の卓。


殺意を隠し、山伏として振る舞い続けなければならない六人。

酒呑童子は、彼らをどこまで見抜いているのか。


そして頼光の懐には、まだ使われていない――神便鬼毒酒。


次話では、

刃ではなく、精神と欺瞞が試される宴が始まります。


そして、この第10話をひとつの節目として、

『SHADOW MATRIX』の今後のシリーズ展開についても、活動報告で少しお話しします。


本編だけでは描き切れない23世紀、古代、神々、そしてまだ登場していない人物たち。

この世界がこれからどこまで広がっていくのか――ぜひそちらもご覧ください。


現在、『SHADOW MATRIX』はランキング入りしています!


続きが気になると思っていただけましたら、ぜひブックマーク・評価(★)で応援をお願いいたします。皆さんの応援が、この物語をさらに先へ進める大きな力になります。


また、YouTubeでは映像と音楽で描く『SHADOW MATRIX』の世界も公開中です。小説と映像、両方のレイヤーからお楽しみください。


### YouTube — SHADOW MATRIX


**▶ 映像で体験する『SHADOW MATRIX』**


https://youtube.com/shorts/nvDEUqtF_nk


**▶ 物語の始まり『SHADOW MATRIX — FULL PROLOGUE』**


https://youtu.be/AoCUu_vJxi4


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