63 なぜ私たちまで妖獣になるの?
灰色の雲の隙間から差し込んだ陽光が庭に降り注いでいたが、それでも、そこに暖かさを感じる者は誰一人いなかった。
村民たちの影は乱れ、歪んで伸びていた。
彼らはイザベラたちの言葉を聞き流して、今度は自分たちの身を守るための弁明を始めた。
「この件は私たちとは関係ないのに、なぜ私たちに報復するんですか?」
ある村民がそう言いながら、恐怖と恨みの入り混じった目でイザベラたちをじっと睨みつけた。
「そうですよ。私たちはあの妖獣を傷つけたりなんてしていませんわ!」
ある婦人が地面に崩れ落ち、声を震わせながら訴えた。
「復讐をするにしても、私たちを標的にするのは間違っていますわ! 仙士様、どうか私たちを助けてください。 全部村長たちのせいよ。私たちには関係ないです!」
他の村民たちもそれに同調し、困惑、恨み、恐怖、様々な感情が入り混じった声が、庭中に渦巻いていく。
「関係ない?」
イザベラは腕を組み、嘲るような笑みを浮かべた。
「あなたたちは、あの七人のいわゆる『妖獣』を殺したんじゃないの?」
太陽が雲に完全に覆われた。庭が一瞬暗くなり、村民たちの顔からも血の気が引いていく。
村民たちは真相が解明されないまま、妖獣(実は妖獣化した村民たち)を殺しただけでなく、それを煮て食べてしまったのだ。
殺された七人は幼獣を殺して三寿湯にした者たちだ。
そして、ここでいま妖獣化している村民たちは、その七人の血肉を食らって再び魔怨に侵された者たちだった。
「あの七人の血肉は、すでに魔怨に穢されている。三寿湯を飲めば本当に寿命が三年延びるのかは分からない。だが、あの三寿湯を口にした者は、全員が魔怨に侵され続けることになる」
アルベルトはニヤリと笑った。
両手を背中に回し、少し首を傾げながら、まるで親切に教えてやっているかのような口調だった。
「俺たちは間違ってない! 幼獣を殺したわけじゃない! なのに、どうして俺たちまで……俺たちは、ただ村民の仇を討ったつもりだけだ! 俺たちは正しい!」
一人の男が首を張って叫び、額の青筋が浮き上がり、拳を固く握りしめていた。
「それに、あの七人は幼獣を殺した罪人じゃないか? 俺たちが……そのつもりはないけど、でもあいつらを殺したのは、妖獣の仇を討ったってことだろう?」
「そうだよ、俺たちは妖獣の仇を討ったんだ。それなのに、なんで俺たちまで妖獣にならなきゃいけないんだ!?」
村民たちは理解できないと口々に叫び、互いに責任を押しつけ合い、声は次第に大きくなる。
「なるほど。お前たちは、ただ村民の仇を討っただけだと言いたいんだな」
リヒターの瞳には、はっきりとした怒りが宿っていた。
「殴り殺したのは仇を討つため。 じゃあ、切り刻んだのは? 三寿湯にするのは? それもすべて復讐のためか? お前たちには、そこに一切の私欲がなかったと言い切れるのか?」
口を開きかけた村民もいたが、言葉は出なかった。無意識に首をすくめる村民もいる。
「そんなこと、もうどうでもいい!」
一人の村民が叫んだ。
「アスランに術をかけたんだろう!? だったら、俺たちにも同じ術をかけてくれ! 完全な人間に戻りたいんだ! 俺は間違ってない!」
「私心さえなければ魂が穢れることはない」
ヴァルターが静かに口を開いた。
「術をかければ、アスランと同じように人間の姿へ戻れる。魂も完全なまま保たれる」
ヴァルターは村民たちの顔を、一人ずつゆっくりと見渡した。
「だが言っておくが、私欲のある者は、人間の姿には戻れるものの、頭の中は妖獣の思考に支配されたままだ。人間の姿になったとしても、四つん這いで歩くことになる」
ヴァルターは手を上げた。
「もし自分には私欲がないと断言できるなら、さあ、術をかけてやる!」
その言葉とともに、ヴァルターの手の中で術式が紡がれた。指先から柔らかな白い光がゆっくりと浮かび上がる。
村民たちは、一斉に黙り込み、まるでその白い光に焼かれるかのように恐怖に駆られて後ずさった。
白い光が一人ひとりの顔を照らした。
顔を背ける者、口を押さえる者、そのままひざまずいてしまう者もいた。
彼らは人間の姿に戻りたかったが、妖獣の思考に支配されたくなかったのだ!
イザベラとクラリスはそんな村民たちを見て、容赦なく冷笑した。
「黒縞妖猫を捕まえたんでしょう? あいつなら何か方法を知っているんじゃないですか? だったら、あいつに助けてもらえばいいじゃないですか!」
「そうですよ、あいつに助けてもらいましょう!」
「それにもう食べてしまったんだから、幼獣を生き返らせることなんてできないでしょう? だったら今やるべきなのは、黒縞妖猫を始末して、これ以上人を害さないようにすることよ!」
庭は再び混乱に包まれていった。




