57 三寿湯、おいしいですか
イザベラたちは三軒の家を続けて回った。
ある者は頭から、ある者は足から変化していたが、症状はどれも同じだった。人間の体が、徐々に妖獣へと変わっている。
「彼らは一体何をしたんだ? そんなこと、まさか……」
リヒターは眉をひそめて尋ねた。
「それは本人たちに聞かなきゃ分からないわね」
クラリスは険しい表情で言った。
最後の家は村長の家だった。
村長の家へ向かう途中、陰鬱な空気が漂う中、アルベルトが突然口を開いた。
「あの切り刻まれた妖獣たちはスープにしたのか? 三寿湯だったっけ?」
もともと皆、同じ推測はしていた。
だが、アルベルトが口にしたことで、重苦しい空気はさらに深まった。
村長の家に着くと、村長はもはや以前のようなおずおずとした態度ではなかった。
たとえヴァルターを前にしても、以前の怯えた様子は微塵もなく、むしろ彼らの来訪を拒むように興奮していた。
「診察? お前たちが来ても何の役にも立たない。 私の家から出て行け!」
ヴァルターやイザベラたちは眉をひそめた。
イザベラは傍らで村長をじっと見つめ、妻の怪病を案じているような怒りの表情を浮かべていたが、その瞳の奥に潜む動揺は、ほとんど隠しきれていなかった。
イザベラの視線は、彼の右足のところに注がれた。
彼女は口元をほころばせ、
「村長、足を捻挫したんじゃなかったの? どうしていきなり切断しちゃったの?」
村長は黙り込んだまま、ただ彼らを追い出そうとし続けた。
ヴァルターはすでに少し苛立ちを覚えていた。足を踏み出し、中庭へと向かった。
村長は彼が屋内へ入ろうとするのを見て、棒を手に取り阻止しようとしたが、リヒターに先を越されて止められた。
クラリスはのんびりとした口調で言った。
「もし奥さんを救えるのなら、どうして何度も邪魔するの? 何か隠してるんじゃない?」
村長は激怒したようで。
「お前たちには到底治せないんだ。 ただ、彼女をこれ以上辱めさせたくないだけだ!」
アルベルトは不思議そうに村長を見た。
「治療もしていないのに、どうして治らないと分かるんだ?」
村長は答えなかった。
その間、ヴァルターとイザベラは診察を終えて出てきた。
「あちこちの家と同じ症状だ」
アルベルトは村長を見つめながら続けた。
「治らないと分かっているのは、彼らが病気じゃないと知っているからだよね?」
村長がさらに暴れ出そうとしたその時、子どもを失ったあのお母さんが駆け寄って来て、イザベラたちに向かってひざまずいた。
「どうか、仙士様、私の夫を助けてください!」
クラリス驚いた声を上げた。
「あなたの夫は野獣に食べられたのでは?!」
クラリスはそのお母さん、マリーという名の女性を立ち上がらせた。
イザベラは、彼らが到着したばかりの頃、このお母さんが「また一歩遅かった」と言っていたことを思い出した。その時は不思議に思っていたのだが。
「あなたの夫は死んでいない。 妖獣化したの?」
ヴァルターが口を開いた。
「考えてみると、つまり、あなたの夫はこの村で初めて妖獣化した人ということになるのだろうか?」
マリーは歯を食いしばった。
「本当に夫を助けるつもりですか? 本当に助けることができるのですか? 殺したりはしないですよね?」
「妖獣化はそれほど難しい問題ではない」
とリヒターが口を開いた。
その時、村長が前に踏み出した。
「アンナ仙士でさえ『どうしようもない』と言っているのに、どうして彼らを信じられるんだ!?」
マリーは恨めしげな眼差しで村長を見つめた。
「『三寿湯』の噂を夫に吹き込んだのはアンナだわ! 私が彼女を信じるわけがないでしょう!?」
『三寿湯』の噂は、まさかアンナが広めたものだったのか?
なぜ?!
村長は目を丸くし、数歩後ずさりながら、口の中で「ありえない、ありえない……」と繰り返し呟いた。
「みんなを集めてくれ」
とヴァルターは平静な表情で言った。
「そろそろこの件を解決すべきだ」
人が集まるのを待っている間、五人は小声で話し合っていた。
「彼女、どうしてもっと早く言わなかったの?」
「私たちを信用していないんだ」
「それなら、どうして急に私たちを信じるようになったの?」
「私たちを信じているわけじゃなくて、たぶん……」
その時、マリーが一匹の猫妖獣を連れて入ってきた。
「あれは……?」
「完全に妖獣化していた人だ。彼女は私たちを信頼しているわけじゃない。他に頼れる相手がいないだけだ」
やがて……
村長の家に集まった人々は、白い猫妖獣を見て、一斉に驚きの声を上げた。
マリーは悲痛な表情を浮かべ、深く息を吸い込むと、ヴァルターを見つめた。
「私の夫の様子、あなたも見たでしょう。 あなたから見ても、まだ助かる見込みはありますか?」
「夫だって?」
「マリー、頭がおかしくなったのか? これは妖獣だ。 どうしてあなたの夫なんてことがあり得るんだ?」
マリーは村民たちの言葉を無視し、ただ白い猫の妖獣の前に立ち、その毛並みをなでてなだめていた。期待に満ちた表情でヴァルターたちを見つめていた。
猫妖獣はマリーのそばにしゃがみ込み、おとなしくしていた。
「見てみよう」
ヴァルターは淡々と言うと、歩み寄って腰をかがめ、白い猫型の妖獣の目を見つめた。
彼は手を上げて白い猫型の妖獣の頭の上に置き、しばらく仙力を巡らせた。
「暴力や怨念は微塵もまとわりついておらず、魂には傷が全くない」
その言葉が終わるやいなや、ヴァルターは回復術を発動させた。
皆の目の前で、白い猫妖獣はゆっくりと白い毛を脱ぎ捨て、肉球の爪を引っ込め、徐々に人の姿へと戻っていった。
そこには、村長たちが山で野獣に食われたと言っていたアスラン、マリーの夫が、はっきりと姿を現していた。
マリーは彼の胸に飛び込んで大泣きし、アスランはマリーを抱きしめながら、ヴァルターやイザベラたちに向かってうなずいた。
「仙士たち、ありがとうございます」
「三寿湯は飲まなかったかな?」
イザベラはアスランに向かって聞いた。
「はい、飲まなかった。でも……」
アスランは首を横に振った。その表情には悲しみと怒り、そして何より強い罪悪感が浮かんでいた。
その頃、村民たちの顔にはすでに恐怖が浮かび始めていた。
一歩後ずさる者もいれば、口を手で覆う者もいた。
さっきまでイザベラを罵っていたあの村民は、顔色が一瞬で青ざめた。
「じゃあ、僕たちが倒したあの妖獣たち、あれは……」
アルベルトは純真な表情で尋ねた。
「三寿湯はおいしかったか?」




