56 グリーンベル村の怪病
「首席、グリーンベル村の村医が来た。 村で妙な病気が発生しているそうだ」
ヴァルターの瞳がきらりと光った。
「ついに来たか」
「どんな奇妙な病気だ?」
アルベルトが興味深そうに尋ねた。
村医は歯を食いしばって言った。
「発症した村民たちは高熱が下がらないだけでなく……顔に毛が生えて、まるで猫の顔のようになってしまっているんです!」
そう言いながら、恨めしそうに黒猫を睨んだ。
のんびりと毛づくろいをしていた黒猫が、首を傾げる。
「ニャー?」
イザベラ……
なんで私の猫を見てるの?
こんなことで、すべての猫が嫌いになったわけ?
「さあ、あの猫のような顔をした人のところへ行こう」
ヴァルターが先頭に立って外へ歩き出すと、イザベラたちはすぐに後を追った。
患者の家に着くと、村民たちは皆不機嫌な顔で黒猫を睨んでいた。
イザベラは、この村民たちがきっと、白い衣を翻し、穏やかで善良そうな仙人に惑わされているに違いないと察していた。
なんて馬鹿な連中なの。
イザベラはこの事件を考えるだけで吐き気を催し、迷わず黒猫を、特に露骨な目つきで見ていた村人の上へ放り投げた。
その男は黒猫に押し倒された。
この猫、なんて太っているんだ!
「どうしたの? これがあなたたちの怪病の犯人だと思うの?」
イザベラの冷たい声が響くと、村民は無意識に身震いした。
「覚えておきなさい。 自業自得よ。 自分たちが何をしてきたか、よく考えてみなさい」
ヴァルターとイザベラは黙り込み、村民たちもそれ以上口を挟む勇気はなかった。
駆けつけたアンナはこの光景を見て、眉をひそめた。
「村民たちはただ自分の家族を心配して合理的な推測をしただけなのに、イザベラ仙士はやりすぎじゃないですか?」
「その通りよ。 仙士なんて名乗るくせに、なんて短気なんだ」
「そういえば、私たちグリーンベル村はもともとあなたがたが庇護すべき属領だったはずだよ。 本来なら私たちを守るべきなのに、守れなかったくせに、ここに来て横暴をするのか」
イザベラはこれ以上この連中に構うのも面倒だと感じ、飛んできた黒猫を抱きしめ、その毛を撫でた。
「無駄話はこれくらいにしてもらおう。診察するつもりはあるのか?」
ヴァルターは苛立ちを隠せない様子で言った。
村医は首を横に振り、唇を固く結んで言った。
「皆さん、こちらへお越しください。 これからお見せするものに驚かないでください」
あの猫の顔を思い出すと、村医も思わず身震いした。
イザベラは「ふん」と鼻を鳴らし、苛立った様子で彼に先導するよう促した。
目的地に着くと、イザベラはドアを蹴り開けて中に入ったが、二歩進んだところで、ずっとついてきていた村民が入り口で立ち止まり、中に入ろうとしないのが見えた。
「入らないの?」
村民はイザベラの問いかけに、気まずそうに笑うしかなかった。
「仙士さん、早く診察をしてください」
イザベラは冷ややかに鼻を鳴らした。
自分の嫁があんな姿になったから、怖くてもう二度と見たくないだけでしょう?
数歩歩いて、カーテンの奥へ入った。
奥の部屋のベッドのカーテンはまだ垂れ下がっていた。村医が近づき、カーテンを開けた。
クラリスはヴァルターの背後に立っていたが、ちらりと見た途端、仰天した。
イザベラとリヒターも顔色を変えたが、アルベルトは特に反応せず、ただ一瞬呆気にとられただけだった。
ベッドに横たわっているのは、もはや人間などではなかった!
体つきからは、ややぽっちゃりした女性であることがうかがえたが、その顔は毛で覆われ、顔立ちも歪んでおり、まるで、人間の体に猫の顔がついた妖怪のようだった。
ヴァルターはベッドのそばでしばらく眺めた後、クラリスに言った。
「服を脱がせてくれ」
クラリスは一瞬呆気にとられ、眉をひそめて近づこうとしたが、イザベラに阻まれた。
「何をぼんやりしているんだ、早くしろ」
ヴァルターは二人を睨みつけた。
イザベラは慌てて手を動かし、婦人の服を脱がせた。
すると、イザベラたちは驚いた。
その婦人の片腕が、なんと完全に猫の前足に変わっていたのだ。
ヴァルターはちらりとそれを見て、部屋を出て行った。
「行こう、次の家へ」
村医は少々不満そうだった。
もともと心の中ではあまり期待していなかったものの、その言葉を聞いてやはり呆れてしまった。
これで診察が終わったのか? 三分もかかっていないじゃないか!
イザベラたちを見送った後、村民たちが状況を尋ねてきた。
ヴァルターが手を動かすことさえせず、ただ婦人に服を脱がせて一瞥しただけで立ち去ったと聞いて、
村民たちは怒りに任せてすぐに彼らに抗議しようとしたが、アンナになだめられて何とか落ち着いた。
アンナは不安を感じた。
事態は当初の計画から大きく外れてしまった。
本来なら村民たちを怒らせて、彼らのほうから仙門の仙士たちを追い返すよう仕向けるつもりだった。
だがヴァルターは冷静すぎて、村民の気持ちをまったく気にしないようだ。そしてその影響力があまりにも強いため、イザベラたちは皆、ヴァルターの指示にしっかり従っていた。
事態は厄介になりそうだ。しかし、このまま立ち去るのも納得がいかない。それに、サイモンもいる。
どうしよう? 逃げるべきか?
考え事にふけっていたアンナは、ヴァルターが振り返って彼女を一瞥したことに気づかなかった。
ヴァルターはアルベルトに向かって言った。
「結界を発動させる時が来たな」
アルベルトの瞳がきらりと光った。




