54 アンナ?彼女からは魔気を感じない
「これ以上仙力を使うのはやめて、すぐに雪華仙門へ戻ったほうがいい。 高級の仙医がいれば、君の毒も解けるはずだ」
リヒターが口を開いた。
「ここに丹薬が一つある。 これで君の経脈を封じ、仙門に戻るまで持ちこたえられるようにできる。 ただし、君の仙級には影響が出るだろう。D級からE級に下がるかもしれない」
リヒターが一粒の丹薬を取り出すと、イザベラはひと目見ただけで、それがただの安神丹に色を付けただけのものだと見抜いた。
サイモンは躊躇したが、アンナの声が突然再び響いた。
「リヒター仙士、お手数をおかけして申し訳ありません。 しかし、修仙者にとって仙級は最も重要なものです。 仙級が損なわれても……雪華仙門に戻れば、長老たちが助けてくれるはずです。 サイモンはきっと乗り越えられると信じています」
彼女は柔らかな声で続けた。
「ただ、リヒター仙士に、一時的に痛みを和らげる丹薬はお持ちでしょうか。 同門の者があれほど苦しむ姿は見たくありません」
クラリスが突然口を開いた。
「同門を思いやる気持ちは、よく分かったわ」
サイモンはリヒターの好意に感謝しつつ、仙級を損なうことは望まない旨を伝えた。続いて休息が必要だと述べ、イザベラたちを部屋から送り出した。
サイモンの部屋を出た後、アンナは何か言おうとしたが、ヴァルターは彼女に口を開く隙を与えなかった。
「アンナ仙士、うちは本日も村民の家を何軒か訪ねて、さらに手がかりが見つからないか調べるつもりだ。 あなたの同門は重傷を負っているし、グリーンベル村の件でこれ以上お二人を煩わせるべきではない。 もしお二人が早く仙門に戻って傷を癒したいのであれば、それも構わない」
その言葉は優しい意味だったが、アンナが引き続き同行する道をはっきりと断っていた。
アンナの笑顔がわずかに曇り、穏やかな口調で言った。
「サイモンは重傷でまだ回復していませんが、このまま立ち去るわけにはいきません。 村のことがやはり心配なのです。 皆様に何かお手伝いできることはございませんか?」
「仙士の大義だな」
と、ヴァルターはきっぱりとした口調で答えたが、その顔には嘲笑が浮かんでいるようだった。
「もし何かあれば必ず言う」
ヴァルターは軽くうなずくと、背を向けて立ち去った。イザベラたちはその後に続いた。
イザベラがアンナの横を通り過ぎる際、ふと彼女の方をちらりと見た。
アンナはまつげを下げ、その影が頬に落ちて、瞳に浮かんだ感情を隠していた。
少し距離を置いたところで、クラリスがイザベラの耳元で囁いた。
「彼女は焦っているわ」
「うん」
イザベラは口元をほころばせ、
「いいことね」
五人は一時滞在中の空き家に戻り、道中で全員集めた手がかりを整理した。
「みんな、自分の推測は完了したか?」
ヴァルターが尋ねた。
イザベラたちはうなずいたが、皆、顔色があまりよくなかった。
ただアルベルトだけが、
「……どんな推測?」
と尋ねた。
……リヒターはアルベルトの頭を撫でて、何も言わなかった。
推測される真相があまりにも不快だったため、今のところ誰も口を開こうとしなかった。
黒猫もようやくヴァルターの空間袋から出てくる気になったが、相変わらず元気がなかった。
「首席、まだアンナが堕魔者だと疑っているの?」
クラリスが尋ねた。
黒猫が顔を上げた。
「アンナ? 彼女は違うよ。 彼女からは魔気は感じられない」
イザベラは一瞬呆気にとられた。
彼女は、あの時黒猫が言っていた「魔気」がアンナの体から発せられたものだと、本気で疑っていたのだ。
ヴァルターは目を細めて黒猫を見つめた。
「じゃあ、誰の体から魔気が出ているんだ?」
黒猫は「ニャー」と一声鳴き、人間の言葉は話さず、イザベラの肩の上で体をひっくり返し、ふっくらとしたお尻を皆に向けた。
明らかに、黒猫さまはもうこの人たちとは関わりたくないようだった。
……
「これからどうする?」
リヒターが尋ねた。
「何もしない」
ヴァルターはきっぱりと答えた。
「何もしない?」
クラリスは驚いた。
「うん、疲れたから、三日間休む」
ヴァルターは真顔だった。
「……さっきのサイモンって、私たちが気づかない間に首席に毒を盛ったの? それとも毒が首席の脳みそまで回ったの?」
クラリスは信じられないという表情を浮かべた。
ヴァルターがクラリスを一瞥すると、彼女はたちまち大人しくなった。
「これからまた妖獣が襲ってくると思う?」
「たぶんないわ」
イザベラが口を開いた。
「なぜ?」
アルベルトが尋ねた。
「首席がそう判断したんだもの。絶対にないに決まってるわ」
クラリスたちは……こんな感じで判断するの?
アルベルトは理解できなかった。
「じゃあ、本当に何もしないの?」
「ああ。俺の推測が正しいかどうか確かめるんだ」
ヴァルターは「確かめる」と言いながらも、自信に満ちた表情を浮かべていた。




