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52 グリーンベル村の噂

「アンナ仙士は昨日、あの黒縞妖猫と戦ったのか?」


「黒縞妖猫に尋ねてみなかったですか?」


「猫語に精通している者が誰もいなかったんだ」


アンナは一瞬呆気にとられた。

「仙士たちは『捜魂術(そうこんじゅつ)』を使えないのですか?」


「捜魂術は魂を傷つける。 あの妖獣がD級まで修練するのは容易なことではない。 どうしても魂を探りたくはないのだ」


そう言いながら、ヴァルターは空間袋から深い眠りについている黒縞妖猫を引きずり出した。


アンナが見ると、確かにその猫は安らかに眠っており、魂に損傷は見られなかった。

この仙士たちは本当に捜魂術を施していなかったのだ。


「星詠仙門の仙士たちはやはり善良ですね」

アンナは少し微笑んだ。

「私と同門は確かに黒縞妖猫と一戦交えましたが、敵わず……同門は私を守るために怪我をしてしまいました。 私の修行が足りなかったのです」

アンナは少しうつむき、深く恥じ入っているようだった。

「これからは一生懸命修行に励みます。 その時には、同門や、かつてリヒター仙士に命を救っていただいた恩に報いたいと思います」


「その必要はない。 俺が君を救った記憶はない」

ヴァルターは無意識にイザベラを一瞥し、案の定、彼女がわずかに眉をひそめているのを見て、

「……この件はなかったことにしておいてくれ」


アンナ……私は恩返しをしたいのであって、復讐したいわけじゃない。それなのに避けようとする態度は一体どういうつもり?

アンナは本当にこの仙士たちのことが理解できなかった。一人残らず、みんな奇妙すぎる。


「同門もあなたを守るために怪我をしたのか」

イザベラはまつげを軽く震わせ、ヴァルターを一瞥した。


ヴァルター……


「アンナ仙士が修行に励む覚悟があるならそれでいい。 心が正しければ、きっと願いは叶うはずよ」

イザベラはにこやかに微笑みながら、ヴァルターの背後に立った。


錯覚なのかどうかは分からないが、アルベルトには「心が正しい」という言葉に、イザベラが特に力を込めて発しているように感じられた。


ヴァルターは、背筋を冷たい風がすっと通り抜けるのを感じた。


「首席、次はアンナ仙士の同門を訪ねよう」

イザベラは首を傾けてヴァルターを見た。

「あの……アンナ仙士を守った同門を」


ヴァルター……彼女を守った記憶は本当にない!


イザベラたちはアンナの同門が滞在している場所へと向かった。


ヴァルターは歩きながら、クラリスの肩に手を置いた。


クラリスはその意図を察し、神識伝言(しんしきでんごん)でヴァルターに伝えた。

『村長の奥さんによると、この二人の雪華仙門の仙士は昨日ここに来たそうだ。 その後、村民たちが妖獣を三頭倒しましたが、村では三人行方不明になっている』 

『アンナは、これほど奇妙な出来事は見たことがなく、彼女と同門の能力は低いため、対処しきれないかもしれないと言っていた』 

『村長は、ここは星詠仙門の属地であり、星詠仙門の庇護下にあると言っていた。もしまた何かあれば、星詠仙門に知らせるから、彼女に負担を感じさせる必要はないと』

『しかし、アンナは、やはり早めに呼び出したほうが良いと言った。このような状況は彼女も見たことがなく、もしかすると妖獣が堕魔した可能性もあるかもしれないと。 ただ、確証がないため、村長には仙門に連絡する際、堕魔のことはまだ伝えないようにと頼んでいた』 

『村長は堕魔という言葉を聞いた途端、すぐに怖がり、私たちの仙門に連絡してたのだ』 

『私たちが到着する前、村民たちは皆、家の中に閉じこもって外に出るのを恐れていたが、突然叫び声が聞こえ、その後、アンナが「外に出て様子を見てくる」と言ったのだ』


ヴァルターはずっと黙って聞いていた。


クラリスはさらに続ける。

『その後の経緯は村長の話とほぼ同じだ。 アンナと同門の者たちがその妖獣を追い払いましたが、一歩遅れてしまい、子どもはすでに食べられてしまっていた』 

『ただ、村長の奥さんによると、アンナの同門の者が来た時、すでに体調が悪そうだったそうだ。 彼らは「雪華仙門はなぜこんな病弱な者を助けに送ってきたのか」と不満を漏らしていた』


『そのお母さんは?』

ヴァルターやっと一言言った。


『醒神術をかけた後、しばらく泣いていたが、イザベラからもらった安神丹を飲ませたら、また眠ってしまった』

『でも、目を覚ましていた間、そのお母さんはずっと『因果応報』と繰り返していた』


『どんな『因果応報』?』

ヴァルターの目が細くなる。


『村長の妻に尋ねてみたところ、彼女によると、少し前に村で突然『三寿湯(さんじゅとう)』という噂が広まったそうよ』


『三寿湯?』 

ヴァルターの足が少しだけ止まった。


『妖獣を煮込んでスープにし、それを飲めば寿命が三年延びるという話だった。 村長は村民たちに『とんでもない話だ』と言って、徐々にその噂は消えていた。 しかし、その後、誰かがこっそりと倒した妖獣の肉を煮込んで、皆で分け合って食べていたようだ』


ヴァルターの表情が初めて険しくなった。

三寿湯……誰が、そんな噂を流した?


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