51 我ら「星詠仙門」の剣士七組は全員とても心優しい
イザベラたちは考え込んだ。
誰もアンナが魔と関わっていると断言することはできなかった。
何しろ、修仙界において、魔は重大な問題だ。証拠もないまま、ただ怪しいというだけで一人の仙士を疑うわけにはいかない。
「私たち、少し偏見を持って判断しているんじゃないかしら?」
クラリスはためらいがちに口を開いた。
「これだけで彼女と魔の関わりがあると判断するのは無理があるわ。 その罪は重すぎる。 それに、彼女の仙力は白だった。 それだけでも、魔とは無関係だと考える理由にはなるんじゃない?」
「だったら彼女は、半年も経たないうちに一般人からD級仙士になるほど優れた天賦があるのに、なぜ小仙門の仙士に過ぎないの? こんな天賦なら四大仙門が放っておくはずがないだろ?」
イザベラはクラリスを見つめた。
「それは……もしかすると、彼女は小仙門にいるのが好きなのかもしれない。人それぞれ、目指すものは違う?」
クラリスは少し考えてから答えた。
「彼女には、同門の仲間がいる」
リヒターがふと思い出したように口を開いた。
ヴァルターはうなずいた。
「明日、彼女の同門に事情を聞いてからにしよう。 今日はひとまず休むぞ」
翌日。
イザベラたちが家を出ると、すぐにアンナと出くわした。
彼女はすでにしばらく立っていたようで、白い服には朝露の湿気が少し残っている。
彼らの姿を見つけると、アンナは穏やかな微笑みを浮かべた。
「おはようございます、皆さん」
そう挨拶すると、彼女も一行とともに村長の家へ向かった。
「アンナ仙士、あなたの怪我をした同門の方も黒縞妖猫に襲われたのか?」
ヴァルターは淡々と尋ねる。
アンナは一瞬だけ驚いたように目を瞬かせ、ヴァルターたちを見た。
「……はい、そうです」
ヴァルターはリヒターに視線を向けた。
「それなら、リヒターにその仙士を診てもらおう。 昨日、黒縞妖猫を調べたところ、この黒縞妖猫は牙に毒がある種類だと分かった」
リヒターたちは心の中で……毒? いつ調べた? 事情を聞いて寝かせたんじゃないの? と思ったが、顔には驚きの表情を微塵も浮かべなかった。
「リヒター仙士にお手間をおかけするのは申し訳ありません。 ですが、私の同門には大した怪我はありませんから」
アンナはやんわりと断った。
すると、クラリスが口を開く。
「アンナ仙士、遠慮する必要はないわ。 私たち星詠仙門の領地では、通りすがりの蟻が足を折っていたとしても、治療してから送り出すのが決まりなの」
クラリスは首を傾け、リヒターをちらりと見る。
「そうだよね、リヒター?」
リヒターは背筋を伸ばしてうなずいた。
「クラリスの言う通りだ。 僕たち星詠仙門の剣士七組の者たちは皆、とても心優しいのだ」
アンナは一瞬固まり、そして、口元に作り笑いを浮かべる。
「それなら申し分ありませんわ。 ですが……私の同門は人見知りで気難しい上、怪我をした姿を人に見られるのを嫌がっていて……治療も嫌がると思い――」
「大丈夫よ。 最悪の場合、気絶させてから治療すればいいわ」
イザベラは口元を歪めて笑った。
「体が大事だから、緊急時には手段を選ばないものよ」
「……」
アンナは笑顔のまま固まった。
緊急時には手段を選ばない? 選びたくないだけだろ? すでに怪我をしている人を、さらに気絶させる?
これが星詠仙門、剣士七組の「とても心優しい」なのだろうか。
アンナは作り笑いを浮かべた。
「イザベラ仙士、冗談がお上手ですね」
イザベラの唇には、曖昧な微笑みが残っている。
「私は決して冗談を言わない」
イザベラと視線と交わったアルベルト口を開いた。
「そう、俺たち星詠仙門の剣士七組は決して冗談を言わない」
アルベルトは真顔で続けた。
「七組の組規は厳格で、すべて事実に基づいている」
クラリスは、イザベラと息ぴったりに話すアルベルトを見て、思わず「プッ」と吹き出した。
イザベラのことを嫌いと言っていたアルベルトも、すっかり染まってきたわね。
アンナは完全に言葉を失った。
星詠仙門の剣士七組って……全員、ちょっとおかしいんじゃない?
やがて、イザベラたちは村長の家の前にたどり着いた。
ノックの音を聞いた村長は、すぐに駆け出してドアを開け、にこやかに声を上げた。
「仙士の皆様、おはようございます。 中へどうぞ」
イザベラたちは一度足を止め、ヴァルターが先に入るのを待った。
ヴァルターは視線をそらさず、戸口へと足を踏み入れた。
「あのお母さんの具合はどうだ?」
村長が答える。
「昨日クラリス仙士がそのお母さんに安神術をかけてくれたおかげで、比較的安らかに眠っております。ただ、まだ目を覚ましておりません」
「そろそろ目を覚ます頃ね。 もしそうなら、醒神術をかけて起こしてみようか」
イザベラが言う。
人の悲しみは、眠れば消えるようなものではない。
「そろそろ事情を聞くべきだろう」
クラリスはヴァルターがうなずくのを確認すると、村長の妻に案内されて奥の部屋へ入っていった。
そこでは、あのお母さんが静かに眠っている。
アンナは眉をひそめ、穏やかな口調で言う。
「それは少々非情すぎるのではないでしょうか? 事件が起きたばかりなのにそのお母さんに思い出させるなんて……彼女の心に剣を突き刺すようなものです。 せめて、もう少し休んでもらったほうがいいのではありませんか?」
アルベルトが「これも仕方がないことだ」と言おうとしたその時、ヴァルターが口を開いた。
「その通りだ」
しかし、クラリスを呼び戻そうとはしなかった。
しばらくすると、部屋の奥から低くすすり泣く声が聞こえてきたが、何を言っているのかは聞き取れなかった。
ほどなくして、クラリスが戻ってきた。
「首席――」
彼女が報告を始めようとした瞬間、ヴァルターが手を上げて制した。
「詳しい話は、あとで内々に聞かせてくれ」
ヴァルターはアンナへ視線を向ける。
「……あまりにも悲しい話だからな。アンナ仙士は心優しい人だ。彼女の前では話さないでくれ」
「……」
アンナの笑顔が引きつった。
イザベラたちは俯き、肩を震わせながら必死に笑いをこらえていた。
アンナ……?
誰が心優しいって?




