50 良い人?
「……良い人? 俺は最初、彼女を疑っていたんだ」
アルベルトは頭をかきながら、照れくさそうに口を開いた。
「最初の頃、村長が『猫妖獣は捕まえやすい、普通の人でも捕まえられる』って言っていただろ? だから俺は、『D級仙士なのに、どうして妖獣を逃がしたんだ?』って彼女に聞こうとしたんだ。でも、リヒターに止められた」
「それに村長が言っていたのは白い猫妖獣で、立ち上がっても人の背丈ほどしかなかった。なのに彼女は『巨大な黒い影』を見たと言ったんだ。
人の背丈ほどしかないなら、どう考えても巨大とは言えない。 ましてや真っ白な毛並みが黒い影だなんて、おかしいだろ?」
アルベルトはそこで一度言葉を切った。
「でも今日、首席が彼女に聞いたら、彼女が見たのは『黒縞妖猫』だったって言った。 それなら彼女は嘘をついていなかったことになる。
だから……彼女は良い人なのか?」
一気に話し終えると、アルベルトは期待を込めた目でイザベラたちを見回した。
「良い人か?」
ヴァルターは再び、机を指先でトントンと叩いた。
「私は彼女が好きじゃないわ。 なんだか変な感じがする」
クラリスは肩をすくめて口を開いた。
ヴァルターがイザベラへ視線を向けると、イザベラも口を開いた。
「私も彼女はちょっとおかしいと思うわ。 堕魔に対する反応があまりにも冷静すぎない?」
「確かに」
クラリスは腕を組み、考え込むように続けた。
「それに判断も早すぎる。 一目見ただけで堕魔だと分かるなんて? 私たちはあれだけ長く戦って、ようやく堕魔だと口にできたのに」
「うん、僕とアルベルトは気づかなかった。 彼女はかなり経験があるみたいだ」
リヒターはヴァルターの方を見た。
「経験がある、か……」
ヴァルターは呟くように言って、ふと思いついたように話題を変える。
「君たちは……彼女の昇級も不自然だと思わないか?」
「昇級? 昇級がどうした? どういう意味だ?」
アルベルトは首を傾げ、首席の質問はあまりにも唐突だった。
「彼女は霧隠秘境で俺に会ったと言っていた。 あの時はまだ一般人だったはずなのに、今はもうすでにD級仙士。 半年も経たないうちに仙級を三回も昇級できる仙士を、君たちは見たことがある?」
クラリスとアルベルトは一斉にほとんど同時にイザベラを指さした。
イザベラ……
ヴァルター、確かに自分もイザベラの異常なまでに速い昇級を理由に、彼女を堕魔者ではないかと疑っていた。
黒猫でさえ昇級が速すぎたせいで耐えきれず眠り込んでしまったのに、イザベラはまるで何事もなかったかのように、彼らと一緒にグリーンベル村任務をこなしている。 この天賦は前代未聞だろ。
「首席の言いたいのは?」
リヒターは眉をひそめてヴァルターに尋ねた。
「君たちは本当に彼女に経験があると思っているのか?」
ヴァルターは静かに問い返した。
「魔に堕ちようとしている者を、一目で見抜くなんて。 堕魔者はそうそういるものではないよ。 その経験はどこから来たというのか? 経験があるというより……もしや……」
「もしや、彼女自身が堕魔者か、あるいは魔族だということ」
イザベラはヴァルターの目をまっすぐに見つめ、彼の言葉を引き取った。
イザベラは、あの時黒猫が言った「魔気がある」という言葉を思い出した。彼女は、黒猫が感知したのは周囲の空気に染みついた魔気だと思っていたが、もしそれが人間だったら?
「魔族であるはずがないでしょう」
クラリスがすぐさま反論した。
「魔界は三百年も封印されている。 結界に何か問題があれば、とっくに修仙界中に知れ渡っているはずよ。 突然魔族が現れるなんて、どうしてあり得るの?」
「じゃあ、堕魔者?」
イザベラが尋ねる。
「それもあり得ないよ」
今回アルベルトは首を横に振って反論した。
「堕魔者の仙力には黒い魔気がまとわりつき、体には黒い魔紋が現れるはずじゃない? 彼女の体には見当たらないし、それに、今日彼女が使った仙術は白い仙力だった。 そうよね、リヒター?」
アルベルトはリヒターを見た。
リヒターは小さくうなずいたものの、何も答えなかった。
「どうしたんだ?」
ヴァルターが尋ねる。
「最初は特に問題があるとは思わなかった。でも、今考えてみると……彼女が今日、術を使ったタイミングが妙だった」
リヒターは少し考えながら、今日の出来事を振り返った。
「今日、最後の家を出た時、入り口に雑草や落ち葉が山積みになっていたので、彼女は『清掃術』を使ったんだ」
「それは良いことじゃないか? その時は村長も彼女に感謝していたし」
アルベルトは理解できないという表情でリヒターを見る。
「でも、最後の家には行方不明になったあの人しかおらず、家族はいないよ」
リヒターの声が低くなる。
「つまり、あの家は空き家だったんだ」




