43 これは本当に妖獣の仕業なのか?
その答えを聞いて、イザベラは目を細め、クラリスは顎に手を当て、リヒターも首を傾げた。三人は一斉に、頭の中にある妖獣の知識を探り始めた。
するとアルベルトが突然口を開いた。
「君はこれからももっと本を読むべきだ。 仙級を上げるだけではダメだ。 やっぱり役に立たない」
その口調は重々しく諭すもので、かつて彼に読書を勧めたリヒターと全く変わらなかった。
穏やかで隙のない笑みを浮かべていたアンナの顔に、ついにわずかなひびが入った。
何のこと?
何を読めばいいの?
彼女は無理に笑みを浮かべ、「この若き仙士、ご指導ありがとうございます」と言い、それにアルベルトは両手を背中に組んでうなずき、満足気で誇らしい様子を見せた。
リヒターはアルベルトの頭をポンと叩いた。
「お前『基礎妖獣図鑑』、どこまで読んだ?」
「上巻は読み終えた!」
アルベルトは自信満々で、胸を張り、顎を少し上げた。
リヒターはため息をついた。
「上巻は三ヶ月前に読み終えたんだろ? 下巻は? どこまで読んだ?」
アルベルトの視線は定まらなかった。
「……読んだ、表紙は読んだよ」
イザベラ……
「倒された妖獣は?」
ヴァルターは再び中庭を一瞥し、的を射た質問を投げかけた。
イザベラたちは瞬時に事態を悟った。そうだ、逃げたあの妖獣が何者なのかは分からないが、倒した妖獣まで消えているはずがない。
村長はこの質問を聞くと、少し躊躇しているようだった。彼は無意識に鼻をさすり、声も先ほどより少し小さくなった。
「村民の怨みが深かったため、行方不明になった村民の家族が、死骸を切り刻んで……捨ててしまったのです」
イザベラたちは一瞬で表情を曇らせた。
修仙界において、智慧を持つ妖獣は人間と同等と見なされ、人を傷つけたと断定するには確かな証拠が必要だ。これまでのところ、彼らが聞いた情報だけでは、妖獣が人を食ったことを証明することはできない。
彼らの納得いかない表情を見て、村長は慌てて口を開いた。
「ただ、それは猫妖獣で、白い毛に大きな尾を持ち、立ち上がると人間とほぼ同じ背丈で、走るのもそれほど速くないです。 捕まえるのは簡単でした」
村長のこの言葉に、イザベラたちは眉をひそめた。
どんな種類の猫妖獣であれ、逃げ足も跳躍力も優れているはずだ。普通の村民が簡単に捕まえられるはずがない。それに――
「あの猫妖獣たちは、あなたと戦うとき、立ち上がったのですか?」
クラリスが口を開いた。
「ええ、人間とほぼ同じ背丈で、小柄でした」
村長は自分の鼻筋と頭頂部を手のひらで比較するように示した。
一方、アルベルトは困惑した表情で頭をかき、アンナを見て何か尋ねようとしたが、リヒターに頭を押し下げられた。
イザベラたちは互いに疑問の眼差しを交わしたが、それ以上は何も言わなかった。
イザベラはヴァルターの方へ振り返ったが、ヴァルターはすでに背を向けて口を開いていた。
「すみません、現場を拝見させていただけませんか?」
イザベラも一緒に振り返り、戸口へ足を踏み入れようとしたその時、背後からアンナの穏やかな声が聞こえてきた。
「皆さん、あのお母さんは子供を亡くしたばかりで、きっと悲しんでいるでしょう。 少し落ち着くまで待ってあげましょう」
クラリス、リヒターとアルベルトは顔を見合わせ、少し躊躇しながら足を止めた。
イザベラはもともとそのお母さんの意向を待っていたが、この制止の声を聞いて、そのまま中へと踏み込んだ。
なぜか、イザベラはアンナという仙士が好きになれなかった。
言葉も、態度も、何もかもが完璧だ。
それなのに、どうしてだろう?
イザベラには、その笑顔の奥に何か別のものが隠れているように思えてならなかった。
それに、こういう時こそ、素直に人の言うことを聞かないのが悪役令嬢というものだ!
すると、ヴァルターも足を止めず、イザベラの後に続いて中へ入ってきた。
やっぱり、現場の調査は、手がかりが残っているうちに行うべきだ。
待つ? 何を待つというのか?
現場の手がかりが、あの猫妖獣たちの死骸と同じように、すべて消えてしまうのを待ってから調べるつもりなの?
それじゃ、何の意味があるというのか。
イザベラが部屋の中に入ると、ヴァルターは振り返って、後を追おうとする数人を制止した。
「まだ全員入らないでくれ。 村長、このお母さんをしっかりと世話してほしい。 クラリス、彼女に鎮静の術をかけて、ついでに状況を聞いてくれ。 リヒターとアルベルトは、昨日行方不明になった家の様子を見てきてくれ」
彼が一気に指示を出すと、さっきまで全身から威圧感を放っていた者たちも、たちまち従順に動き出した。
クラリスはうなずくと、すぐにそのお母さんのもとへ向かった。
リヒターとアルベルトは声を聞いて振り返り、数人の村民に案内を頼むと、軽快な足取りで庭の門をくぐっていった。
村長はヴァルターの姿を見つめ、小声で独り言を呟き、濁った瞳を眼窩の中でぐるりと動かした。
「この仙士たちは、この首席の言うことなど聞かないだろうと思っていたが……まさかこの首席がこれほど有能だとはな」
イザベラとヴァルターは部屋の中に入った。
部屋の中は暗く、血の臭いは外よりも濃厚だった。わずかな光が半開きになった窓枠から差し込み、空気中に舞う塵を照らし出していた。
イザベラは息を殺し、瞳孔が薄暗さに慣れるのを待った。視線が広範囲に広がる深紅色に注がれた瞬間、彼女は思わず眉を上げた。
部屋の中には、おびただしい肉片が散らばっていた。
床だけではない。壁にも、家具にも、そして窓の半ばにまで、まるで何かが爆ぜたかのように赤い跡が広がっている。
イザベラは眉をひそめた。
これは、本当に妖獣に襲われた跡なのだろうか?




