41 グリーンベル村に現れた謎の仙士
もともと晴れ渡っていた空には、いつの間にか薄暗い雲が立ち込めていた。日差しはほとんど遮られ、吹き抜ける風さえ重く冷たく感じられる。
イザベラたちは一斉にそれぞれの剣を抜き、表情を硬くした。
風が小道を吹き抜け、舞い上がる落ち葉を巻き上げた。
上空から見下ろすと、点在する田舎の低い塀に囲まれた庭は本来なら安らかで穏やかなはずだが、今、道に積もった落ち葉や雑草は誰にも片付けられておらず、数軒の門は半開きのまま、風に吹かれてきしんでいた。どこか荒廃した様子を呈していた。
「あ……ああ……ああ……」
虚ろで無力な、短い叫び声が響いた。
その声は、呆然とした人が喉の奥から絞り出したようなもので、あまりにも悲痛なものだった。
イザベラたちの指先が、無意識のうちに剣の柄を強く握りしめた。
「あっちだ」
ヴァルターが口を開き、真っ先に方向転換した。胸元に「星詠仙門」と刺繍された衣が風にはためき、その足取りは重厚で力強かった。
一行は声の方へ進み、ある中庭を目印に定めた。
「我々は星詠仙門剣士七組、クロードの弟子で俺はヴァルターというものだ」
イザベラたちは中庭に降り立つと、一瞬立ち止まり、身分を明かしただけで、それ以上は何も言わなかった。
足元の土は少し湿っており、錆のような匂いが混じり、踏み込むとわずかに沈んだ。
家の扉は大きく開いており、床には中年の女性が膝をついて座っていた。彼女は絶望的に両手を震わせており、その手には赤黒い血がべっとりと付着していた。
イザベラたちは何も言わず、しばらく入り口に立ち尽くしていた。
ヴァルターはわずかに頭を下げ、普段より少し低い声で言った。
「申し訳ありません。 どうかお気を強く持っていてください。 俺たちがその妖獣を捕まえますから」
屋内の女性ははっと振り返った。
髪は乱れ、数本の髪が頬に張り付き、涙で濡れていた。その顔には虚ろで絶望的な悲しみが浮かんでおり、女性は低い声で呟いた。
「子供……私の子供よ!」
彼女は我に返ると、ついに声を上げて泣き出した。
「あなたたち、どうしてあなたたちまた遅れてきたの!!! 私の子供よ!!! あああああーーーーーー」
一歩遅かったか。
イザベラは黙って顔を背けた。
彼女は下唇を噛みしめ、床に散らばる真っ赤な肉片に視線を落とし、瞳孔がわずかに縮んだ。
しかし、彼女はすぐにその言葉の中に含まれる「も」という語に気づいた。なぜ、この女性は「また」と言ったのだろう。
リヒターは中庭に立ち、中をちらりと見ると、半歩後ずさって視線を逸らした。喉仏が一度、大きく上下する。
どうやらこういう血なまぐさい光景だけは、何度見ても慣れないらしい。
イザベラが尋ねようとしたその時、芝生から足音が聞こえた。
振り返る間もなく、彼女の連続した昇級のせいで、ずっと眠っていた黒猫がようやく目を覚まし、突然口を開いた。
「ご主人様、魔気があります」
イザベラは無意識にヴァルターを一瞥したが、すぐに黒猫がとっくにヴァルターを知っていることに気づき、今言っているのは彼のことではないと悟った。
「妖獣のことじゃないの?」
黒猫は眠りにつく前にイザベラに昇級を合わせるためと伝えてはいたが、イザベラはどうしても黒猫が初めからヴァルターのことをあまり好いていないような気がしていた。
今回も、ヴァルターがイザベラたちに厳しい訓練を施した後、ようやく眠りについたばかりだ。
まるで、ヴァルターを避けているようだった。
「星詠仙門の仙士たちですか?」
イザベラが顔を向けると、白衣をまとった人影が門の外から歩いてくるのが視界の端に映った。その足取りはゆったりとしており、裾には泥一つついていなかった。
村長は尋ねながら中庭へと入り、ヴァルターが前に出て事情を尋ねた。
「最初の妖獣が現れてから今まで、七頭倒しました。 昨日の一晩だけで三頭です……村民はこれまでに七人が行方不明になっています。 ですが、死亡が確認されたのは今回が初めてです。 この子で、八人目になります……」
村長は背中を丸めた老人で、顔には深い皺が刻まれ、目は濁って疲れ切っていた。
「確かに智慧を持った妖獣だと確認できたのか?」
「ああ、死ぬ前には泣くんです。 涙がぽろぽろと落ちてきます。 俺たちだって、殺したくて殺しているわけじゃないですよ。……どうすればいいんです? 奴らが現れた場所では、必ず誰かが姿を消してます。きっと食われたに違いない……村民の仇を討たなきゃ……」
村長はそう言いながら、声を震わせ、袖で目尻を拭った。
「……やっぱり村にはまだ妖獣がいるに違いないと思い、急いで星詠仙門に助けを求めたんです。ところが、皆さんが到着する前に、また妖獣が白昼堂々と現れて人を食らってしまったんです。
幸い、このアンナ仙士が来て、人を食らう妖獣を追い払ってくれました。 そうでなければ、このお母さんまで、きっと逃げ切れなかったでしょう」
イザベラは、涙がすっかり枯れてしまったように見えるお母さんを見つめた。このお母さんは、自分が生き延びたことを幸運だとは決して思っていない。
ヴァルターは村長の後ろにいるアンナ仙士に視線を向けた。
彼女は清らかで気品あふれる白い衣を身にまとっていた。薄暗い中庭の中で、その姿はひときわ目を引き、どこか場違いな印象を与えていた。
「ヴァルター仙士」
アンナ仙士は堂々と一礼した。
「またお会いしましたね」
ヴァルターは眉をひそめた。
「……俺たち、会ったことあるのか?」




