40 グリーンベル村からの救助要請
「グリーンベル村から仙門に救助要請が入った。村で妙な出来事が起きたらしい」
クロードはそう言いながら、額を押さえた。
「妙な出来事ですか?」
クラリスはすぐに尋ね、目を輝かせて好奇心を露わにした。
「妖獣が山を下りてきて、人を襲ったらしい……」
「妖獣に襲われたからって、どうして私たちに頼むのですか? グリーンベル村の近くには小仙門がないのですか?」
クラリスは石にもたれかかり、好奇心は一瞬にして消え去った。
妖獣が飢えて山を下り、人を襲うのはよくあることだ。
それに、秘境でない限り、普通の場所には高級妖獣は現れない。ほとんどが、智慧を獲得したばかりの無仙級の妖獣だ。
周りにある小仙門でも十分解決できるはずだ。
「妙なのは、妖獣が絶え間なく現れることだ。一匹倒しても、すぐまた次が現れる。 小仙門の仙士たちは問題を解決できなかった」
「智慧を獲得した妖獣は野獣とは違う。本来は単独行動をするものなのに、どうして絶え間なく現れるんだ?」
リヒターは眉をひそめて尋ねた。
「分からない。 村側は『野獣ではなく妖獣だ』と主張している。 仙門にしか解決できないと言っている。 それだけでなく、村では次々と村民が行方不明になっている。いまだに誰一人見つかっておらず、妖獣に襲われたのかどうかさえ分からない。 うーん、とにかく詳細は不明だから、まずはお前たちが様子を見てきてくれ。 村を守り、人を襲った妖獣はできるだけ捕まえてきてくれ」
「はい、承知しました」
仙門が天地の仙力を受け、豊富な修練資源を集めているのは、単に強力な仙士を育て、誰がより強いかを競うためだけではない。修仙界を守り、仙門の属地を守り、そして一般の人々を守るためだ。
これは仙門で代々受け継がれてきた掟だ。
彼らには、一般の人々とこの修仙界を守る責務がある。
「もし捕まえて連れ戻せなかったら?」
イザベラは首を傾げた。
人を食う妖獣など、素直に縛り上げて連れ戻せるような「良い」妖獣ではない。
彼女が修仙界に来たばかりの頃、うっかり白霧巨狼の幼獣を連れ去ってしまい、返したにもかかわらず数時間も追われたことを思い出すと、今でもゾッとする。
そんな人を食う妖獣が、簡単に捕まえられるはずがない。
「それなら、そのまま殺して厨房の夕食にすればいいじゃない」
クラリスはニヤリと笑いながらそう返し、わざと唇を舐めて、食欲満々の様子を見せた。
リヒターは笑いながらイザベラを一瞥したが、その目には少しいたずらっぽい光が宿っていた。
「クラリスの言う通りだ」
アルベルトも続いて口を開き、よだれが出そうなくらいの様子で。
「クラリスの言う通りだ! その場でバーベキューにしてもいいね!」
イザベラ……思わず口元がピクッと痙攣した。なんて残忍なんだろう? 自分はやはり優しすぎる。
「もういい、もういい。 そんなに自信があるならさっさと行け。 怪我をして泣きついてくるなよ!」
クロードはこめかみを揉み、彼らに向かって手を振った。
「師匠、ご安心を!」
「師匠、さようなら!」
「師匠――」
「黙れ! さっさと失せろ!」
グリーンベル村は星詠仙門からまだかなりの距離があった。五人の一行は、仙門が飼育している風馬の妖獣に乗った。
一路疾走し、連なる青々とした山々や蛇行する川を駆け抜け、耳元で風が轟音を立てた。
イザベラたちは賑やかに話し合っていた。
クラリスは、かつて書いた師匠と仙医四組の先生を題材にした同人小説について話した。
その本のタイトルはなんと『私と仙医の昼も夜も』というものだ。
タイトルを聞いただけで、なんとなく怪しい感じがした。意外にもかなりの仙石を稼いだそうだ。
初めてその話を聞いたイザベラは驚きを隠せず、アルベルトは笑いすぎてゲップまで出していた。
「笑いすぎよ」
リヒターはアルベルトの背中を叩いた。
一方、ヴァルターは黙って表情は穏やかなまま、明らかに話を聞いていた。
「仙門からの助けを求める依頼を受けるのは、これが初めてだ」
アルベルトはなぜか少し興奮しており、目を輝かせていた。
リヒターは手首を軽く回すと、関節からパキッという鋭い音が響いた。
「どんな妖獣なのか分からないけど、ようやくまともに戦えるな」
イザベラは首を傾けてリヒターを一瞥した。
「以前の仙門の任務では、妖獣に遭遇しなかったの?私が参加した仙草採集の任務では、何匹もの妖獣に遭遇したわよ?」
イザベラの言葉に、数人は一瞬で彼女に視線を向けた。
イザベラは呆気にとられた。
「どうしたの?」
「イザベラ、仙門に入門して最初の年は、本来、仙門の任務に参加できないことになっているの。修行が足りず、危険な状況に遭遇しやすいから」
クラリスは穏やかな表情でイザベラを見つめた。
イザベラは困惑した表情を浮かべた。
「それなら、どうして私が仙門の任務に参加できたの?」
リヒターとアルベルトは顔を覆い、クラリスの表情はさらに和やかになった。
「あら、忘れてしまったの? あなたが仙門にたくさんの仙石を支払ったから、仙門が任務を任せてくれたのよ」
イザベラ……顔をぐっとしかめた。お金を払って仕事をするなんて、ふふ、皮肉な人生だったわ! 恋愛脳のバカ!
リヒターとアルベルトはもはや笑いを抑えきれず、肩が震えるほど笑っていた。クラリスは相変わらず慈愛に満ちた表情で、まるで愚かな子供を見ているかのようだった。
「恋愛のことだもんね。 少女の恋心ってやつね。 ちょっと頭が悪いけど、それでも誠実だわ――」
クラリスはイザベラを慰めようと努めた。
イザベラは手を上げて制止した。
「もういい! 私のこのバカなストーリーで、どれだけ仙石を稼いだかだけ言ってよ!」
クラリスの表情がこわばった。彼女は咳払いをして、遠くの雲に視線を向け、聞こえないふりをした。
「ハハハハハハ!」
リヒターとアルベルトはもはや我慢できなくなり、大声で笑い出した。
ヴァルターでさえ口元をほころばせ、笑みを漏らした。
グリーンベル村までかなりの距離があったものの、仙門が飼育する風馬は普通の風馬妖獣より遥かに速く、一行は笑いながら思ったより早く到着した。
しかし、すぐに彼らは笑っていられなくなった。
空気に漂う濃厚な血の匂いが、つい先ほど襲撃があったことを物語っていた。
アルベルトは少し落ち着かない様子で鼻をピクッと動かした。
「どうした?」
リヒターが彼に尋ねた。
「おかしいな、血の匂いのほかに、肉の料理のような匂いもするんだ。うっ、ちょっと気持ち悪い。 俺はもう焼肉食べれないかも」
……




