35 首席、お尻が痛い
「いつまで寝転がってるつもり?」
三十分ほど休ませた後、ヴァルターは一人ずつ蹴って起こした。
「起きろ、立ち合い稽古だ」
ヴァルターは四人の前に立ち、首をポキポキと鳴らした。
「どうしたい? 一人ずつ来るのか、それとも一緒に襲いかかるのか?」
イザベラはこっそりと隣にいるクラリスたちをちらりと見た。
彼らは皆、胸を張って前をまっすぐ見つめており、以前のような気楽さは全くなかった。
「どこを見てるんだ?」
ヴァルターはイザベラの方へ歩み寄り、手を伸ばして彼女の顎をつかみ正面を向かせた。
イザベラ……
ヴァルターの動きは荒かったが、彼は本当にハンサムだった。許してやろう。
ヴァルターは手を離し、一歩後退した。
「よし、お前たちは一緒にかかって来い。 まとめて終わらせよう」
クラリスたちは憂鬱そうな顔でうなずいた。
一方、イザベラはまだ剣士の立ち合い稽古がどう行われるのか理解できていなかった。うっかり相手を貫いてしまい、殺してしまったらどうする?
その時、ヴァルターが突然イザベラに向かって攻撃を仕掛けてきた。
イザベラは空気の流れる音さえ感じず、まるでヴァルターが突然目の前に現れたかのようだった。
素早く後ずさりしてヴァルターを避けようとしたが、次の瞬間、ヴァルターはすでに自分の背後に回っていることに気づいた。
イザベラは反応しきれず、ヴァルターに蹴られて地面に倒された。怪我を防ぐために手を伸ばして地面を支えたが、その瞬間、ヴァルターが幽霊のように頭上に現れ、彼女の腕めがけて蹴りを放ってきた。
イザベラは地面にどすんと叩きつけられ、体の片側から痛みが走った。
近くに立っていた三人は素早く後退した。
目を覆う者、足元を見る者、空を見上げる者もいれば、アルベルトはすでに両手を合わせて祈り始めていた。
イザベラ……「一緒に襲いかかる」って約束したんじゃなかった?
ヴァルターの授業を受けるたびに、イザベラは「痛み」というものに対する新たな認識を得ていた。
ヴァルターは今のところ、両手を一切使わず、右足だけで攻撃している。
それでも、イザベラは彼から横蹴り、縦蹴り、あらゆる方向からの攻撃を受け、抵抗する力すらなかった。
ヴァルターの攻撃はあまりにも速い。
左、右……イザベラは目を閉じた。ヴァルターに何度も蹴り倒されても、かえって感情は次第に落ち着いていった。
イザベラは突然目を見開いた。
見つけた!
ヴァルター特有のリズムを。
再びヴァルターの足が飛んできた時、イザベラは腰を低くしてうまくかわし、頭の中ではすでにどう反撃するかをシミュレーションしていた。
しかし、反撃が形になる前に、ヴァルターは彼女の動きを先読みし、イザベラはお尻を蹴られ、そのまま地面へと倒れ込んだ。
今回は教訓を活かし、手を地面につくのではなく、倒れる瞬間に転がって衝撃を和らげた。
だけど、まったく無駄だった。
ヴァルターの足は影のようにイザベラを追い続け、またしてもお尻を蹴られた。
イザベラ……
その足が再び蹴り込んできたとき、イザベラは両膝をついて地面にひざまずき、正面から受け止め、両手で無理やり抱きしめた。
ヴァルターは引き剥がそうとしたが、一瞬、抜け出せなかった。
「……離せ、卑怯な真似はやめろ」
イザベラは死んでも離さないと誓った。
「首席……お尻が痛い」
面目? そんなもの、イザベラにはない!
ヴァルター……
「離せ!」
「嫌だ! 離さない!」
ヴァルターは顔を上げ、それから穏やかな口調で言った。
「もうお前とは戦わない。 クラリス、君の番だ」
イザベラは死を覚悟したようなクラリスを見て、ようやく手を離し、再びヴァルターに蹴られないよう、あっという間に反対側へ逃げた。
クラリスの仙級がイザベラより高いからなのか、ヴァルターはクラリスに対して特に手加減しなかった。
イザベラは、ヴァルターがクラリスの尻を蹴るたびに響く鈍い音を聞き、自分の尻を蹴られた時の灼熱のような痛みを思い出さずにはいられなかった。
「クラリス、あまり面目を気にするなよ!」
イザベラはクラリスに目配せをした。
クラリスはすぐにその意図を察し、さっきイザベラが使った手口を思い出し、自分も図々しく振る舞ってみることにした。
「首席、私のお尻も痛い!」
ヴァルターは冷笑を漏らした。
「痛いのが当然だ!」
そう言うと、再びクラリスの尻を蹴り上げた。
イザベラ……
リヒター……
アルベルト……
三人は、その光景を見るのが耐えられず、まるで息を合わせたかのように、思わず両手で目を覆った。
かわいそうなクラリスだ。
クラリス……?!
「ちょっと待っ――あああーーーーーーいったあああーーーーー!」
滝の周辺には、クラリスの悲鳴が響き渡った。




