33 なんて師匠なんだ!
イザベラの願いが叶った。
恥をかいて腹を立てたのか、クロードはまず三人の弟子を一人ずつ蹴り飛ばして滝の中に放り込んだ。そして、イザベラの方を見た。
イザベラは滝を一瞥した。
「それなら、私が自ら降りていきます。お手間はおかけしません」
「ふっ」
クロードは興味深そうにイザベラを見つめた。
「俺は、君の想像していた師匠とは少し違うだろう?」
イザベラは思った。それはもう……全然違うわ……
「安心しろ」と、クロードが突然力を込めた。
イザベラが反応する間もなく、彼女は水流の中に蹴り飛ばされた。
慌てふためく中、彼女は手を伸ばして岩の縁を掴み、力を込めてよじ登った。
「これから先、師匠はもっと想像外になるぞ」
クロードはしゃがみ込み、岩の縁にしがみついていたイザベラの手を力強く払い除けた。
「三時間、出てきてはならぬ」
イザベラは心の中で悪態をついたが、すぐに仙力に引きずられるようにして、滝の下で胡坐をかかされた。
「よくも仙級を抑えようなどと考えたな。 修仙界がひたすら弱さを示していては、どうにもならないだろう?」
クロードは滝の下で顔をしかめている数人の弟子たちを見て、首を横に振った。
骨の髄まで凍りつくような冷水が上空から落下し、氷の針のように体を突き刺すと、全身の筋肉や経絡が震え始めた。
窒息感と寒さ、そして巨大な衝撃が次々と襲いかかり、体の感覚はとっくに麻痺していた。無意識に助けを求めようとしたが、水流に流されて口を開けることさえできないことに気づいた。
彼女は思い切って目を閉じた。この変態の師匠が、自分をこんな場所で死なせるとは到底信じられなかった。
耳が轟き、次第に耳介で水滴が砕ける音が聞こえ始め、自分の歯がガタガタと震える微かな音、さらには血管の中をゆっくりと流れる血液の音まで聞こえてきた。
どれくらいの時間が経ったのか分からないが、抑え込まれていた丹田の仙力が再び四方八方に暴れ始めた。
とっくに滝の下から上がっていた数人は、全身を震わせているイザベラを見て、思わず眉をひそめた。
「師匠、本当に大丈夫ですか?」
クラリスは滝のそばにしゃがみ込み、心配そうに尋ねた。
クロードは何も言わず、ただ静かに滝の下の姿を眺めていた。
アルベルトも絶えずイザベラの方を見つめていた。
「彼女、すごく苦しそうですよ」
リヒターはアルベルトの頭を撫でた。
「イザベラは昇級しようとしているんだ」
クラリスは一瞬呆気にとられた。
「えっ? ついさっき昇級したばかりじゃなかったの?」
仙力の衝撃でイザベラの意識さえも混乱し始め、彼女は無意識のうちに丹田内の仙力を経絡へと導き、手も知らず知らずのうちに昇級の手印を結んでいた。
リヒターはイザベラの昇級が終わったのを見ると、すぐに彼女を滝の中から引き上げた。ついでに乾燥術を施し、イザベラの服と髪を乾かした。
ぼんやりとした意識の中で、滝の衝撃力が消えたことに気づいたイザベラは、ハッと顔を上げると、自分が草の上に横たわっていることに気づいた。星がとても明るく、とても美しかった。
彼女はすぐそばに立っている人の存在にしばらく気づかなかった。
「イザベラおめでとう。 D級仙士になったね」
リヒターはにこにこと彼女を見つめた。
「一日で二段階も昇級するなんてすごいわ」
クラリスはイザベラのそばにしゃがみ込み、彼女の頭をポンと叩いた。
アルベルトも興奮しているようだったが、ただ口を少し開けただけで、何も言わなかった。
イザベラはまだ状況が把握できておらず、アルベルトを見て思わず口走った。
「どうして泣かないの? あなたも泣いてよ」
アルベルトは目を丸くし、唇をすぼめて言った。
「……彼女はもう恋愛脳じゃなくなったけど、やっぱり俺のこと嫌いなんだ」
リヒターは苦笑いを浮かべた。
アルベルトはイザベラを見据え、両手を腰に当てた。
「言っておくけど俺はもう泣き虫じゃない。これからは絶対に泣かない!」
それじゃ困るわ! あなたが泣かないと、私はどうすればいいの?!
「泣いてよ、お願いだから!」
……
クロードはイザベラを見て、小声で言った。
「なぜ仙級を抑制しているんだ? 今日の登山だけで、D級まで上がれたはずだろう」
クロードの真剣な表情を見て、数人は素直に立ち上がった。
イザベラはまだ足が震えていて、立っていられなかったので、思い切ってあぐらをかいて座った。
彼女は少し躊躇したが、口を開かず、唇を噛みしめて自分の師匠を見つめた。
「実力を隠そうとしているのか?」
彼女が答えないのを見て、クロードは直接尋ねた。
イザベラは肩をすくめた。
「おじいさんに約束したのです」
「実力を隠すのは良いことだ。 君たちも覚えておけ。 自分を守れない時は、誰に対しても用心深くなるべきだ」
「それなら、師匠はなぜイザベラに昇級させたんですか?」
アルベルトは眉をひそめて尋ねた。
「一日で二級も昇級するなんて、詠仙門全体でも珍しいことです。これでイザベラが以前とは違うと、誰もが知ることになります」
クロードは笑った。
「君たちには俺がいるからさ」
「この俺、クロードが弟子を守る。 無理に実力を隠す必要なんてない」
「実力を隠したり、他人にすがったりする手段なら、修仙界でかろうじて生き残れるかもしれない。
君たち一人ひとりの天賦は決して悪くない。これほど優れた才能があるのだから、自らの力で幾重もの絶境を打ち破るべきだ。
才能を隠せば一時は安全かもしれない。だが、それに慣れれば爪は鈍る。いざという時に前へ踏み出す勇気まで失うことになる。
君たちは進め。自分の力で道を切り開け。
後ろのことは、俺が見てやろう。」
「師匠、ご指導ありがとうございます」
四人は右手の拳を左手の平で包み込むようにして礼をした。修仙式の礼だ。
クロードは背を向けて手を振った。
「よし、さっさと行け。 明日また滝に集合だ」
クラリスは、まだ足が震えているイザベラを勢いよく抱き上げた。
「さあ、さあ、姉弟子がご飯に連れて行ってあげる!」
アルベルトは後ろについていき、小声でぶつぶつ呟いた。
「…… さっき、本当に俺に泣けって言ったの? なんでまだ俺を嫌ってるんだ……俺は虫じゃないよ」
リヒターは最後尾を歩きながら、振り返って滝の方をひと目見た。
クロードはすでに水中に座り直しており、白髪が水流に揺れて、まるで水底に沈んだ絹の布のようだった。
イザベラは本当に自分の実力を隠して、もどかしい思いで生きていくつもりなのだろうか?
そんなわけがない。実力を隠すより、彼女はしっかりと突き進むことを好む。
ただ、おじいさんの保護があまりにも強く、その愛情を大切にする以外にどうすればいいのか分からなかったのだ。
クロードは彼女に別の選択肢を与えた。彼女がとても気に入った選択肢を。
大胆に前進し、思い切り行動し、実力を隠す必要はない。
師匠がいるのだから。




