32 なんて師匠なんだ?
イザベラが先輩たちと改めて親睦を深め、自分はもう恋愛一辺倒ではないことをアピールし、ついでに年下の弟弟子に泣いて涙を分けてもらえないか頼もうとしていた、その時。
彼らに最も近い覗き鏡から、突然声が響いた。
「剣士七組、集合」
剣士七組の拠点、授業が行われる場所は、なんと滝のそばだった。
滝の巨大な水流の下で、一人の人物が微動だにせず座っていた。
滝のように長い白髪をなびかせ、玄色のしなやかな外衣をゆるやかに羽織っていた。
誰かの到来を察したのか、彼は目を開けた。
今は真昼で、山から融けた金のような日差しが差し込んでいた。彼はせせらぎの下に端正に座り、まつげさえも金粉のような淡い光に包まれており、温かく明るい印象を与えていた。
イザベラは今になって、この人のまつげがすべて白いことに気づいた。
前世でアニメの中で見た仙人が目の前にいるかのようで、イザベラは少し胸が高鳴った。
穏やかな仙士が口を開いた。
「おや、俺のアホウ恋愛脳の弟子が戻ってきたな」
イザベラ……やっぱり口を開かないほうがいいかもしれない。
イザベラの師匠であるクロードは、星詠仙門剣士七組の先生だが、イザベラの記憶には彼の姿がないようだ。
会うのはこれが初めてだが、この第一印象をどう表現すればいいだろうか?
イザベラはすっごく言いたいことがあった。
「師匠、ズボンでも履いたらどうですか!」
この仙士、なんと変態だったのか?!
あの外袍は、おそらくその場しのぎで羽織ったもので、その下には、どうやら何も身につけていないらしい。一目見ただけで、長年鍛え上げられてきた肉体だと分かった。
イザベラが視線を下げると、座禅を組んだ彼の引き締まって力強いふくらはぎの筋肉が目に飛び込んできた。
イザベラは我慢できずにクラリスの方を見た。
「師匠は、いつもこんな風なんですか?」
ズボンを履いていないのにみんな何も言わない……平気に受け取れるの?!
ザブッという音と共に、クロードが水の中から立ち上がった。
イザベラが反応する間もなく、その玄色の人影が徐々に鮮明になっていった。
イザベラを見つめるその眼差しには微塵の感情もなく、続いて片手を伸ばし、彼女の頭に押し当てた。
この光景、なんだか見覚えがあるような……?
「ああ……、命魂は本当に戻ってきたな」
クロードは淡々とした口調で言った。
「S級天賦か。 どうやらフェアフィールドのあの老いぼれは、俺を騙していなかったようだ」
S級天賦?!
イザベラはずっと低級の才能だったからこそ、ずっと批判されてきたのでは? どうして家に帰っただけでS級天賦になってしまったの?
クラリスたちは互いに目配せを交わし、その目には隠しきれない驚きが浮かんでいた。
イザベラの頭がクラクラした。おじいさんに正体を明かさないことを約束したばかりなのに、師匠がいきなり切り札を明かしてしまったのだ。
彼女は無意識にクラリスたちの方を見た。案の定、彼らの顔には驚きが満ちていた。
……まあいいか。その場その場で対応していこう。余計なフラグは立てない方がいい。
彼女は仕方なくため息をついた。
クロードは自分の言葉が数人の若い弟子たちにどれほどの衝撃を与えたかなど気にも留めず、話を続けた。
「人は生まれながらにして裸なのだ」
イザベラは一瞬呆気にとられたが、師匠が先ほど自分がクラリスに尋ねた質問に答えていることに気づいた。
「師匠である俺は、修行のため、一人きりで一糸まとわぬ姿でいるのもごく普通のことだ」
彼は手を上げ、掌に淡い青色の仙力の光輪を凝らした。
「服を着ないのは、全身の経絡が天地の仙力の流れを直接感じ取れるようにするためだ。衣服は隔たりであり、妨げとなる」
しかし、イザベラの視線は思わず師匠の掌の光輪に釘付けになった。その光は、まるで師匠の呼吸に合わせて明滅しているようだった。
「修仙者にとって」
とクロードは続けた。
「実力こそが最も重要だ。 他人の目なぞで気に病むな」
その場に立ち尽くしていたイザベラは、ふと恥ずかしさを覚えた。
修仙界に来て以来、彼女はこの世界をまるでゲームのように感じており、修行というものを細部まで真剣に考えたことは一度もなかったようだ。
イザベラは素直に答えた。
「師匠、ご教示ありがとうございます」
イザベラの言葉が終わるやいなや、アルベルトの首をかしげるような声が聞こえてきた。
「師匠、仙医四組の先生との賭けに負けて、一年間ズボンを履いてはいけないって言うんじゃないの?」
リヒターは素早くアルベルトの口を塞ぎ、二歩後退した。
「ハハハ――」
クラリスは隠すことなく大笑いした。
アルベルトに手が届かなかったクロードは、クラリスの背中をポンと叩いた。
「お前たち、師匠の面目を少しくらい立てろよ。親不孝な弟子どもめ」
イザベラ……今すぐにでも滝の底へ行って頭を冷やしたい気分だった。




