24 出発前の温もり
天賦測定が終わると、フェアフィールド邸にはどこか奇妙な空気が漂い始めた。
まずはエドガーだ。
表面的には何事もなかったが、イザベラが薬房の前を通りかかると、中から「バン」「パッ」「ドスン」という音が聞こえてきた。まるで誰かが何かに八つ当たりしているかのようだった。
「エドガーさん、どうしたの?」
イザベラはアルフレッドに尋ねた。
アルフレッドは紅茶を手に持ち、動じることなく答えた。
「おそらく薬鼎が爆発したのでしょう」
その言葉が終わるやいなや、薬房から鈍い怒号が響いた。
「俺の薬鼎はS級だ、爆発なんかしない!」
バタン、と薬房の扉が開いた。
イザベラは黙って一歩後ずさった。
エドガーは目を赤くしてイザベラを睨みつけた。
「俺はこの五百七十年間、仙医をやってきたんだ。 S級なんて! 大騒ぎになるほどのことなのに、それを誰にも言えないなんて、もう我慢できない!」
イザベラ「……」
別に私が言っちゃダメって言ったわけじゃないのに、なんで私を睨むの?
一方、アルフレッドはまるでエドガーの言葉など聞こえていないかのように、茶を飲み続けながら言った。
「あるいは、錬薬に失敗したとかですね」
イザベラ「……」
なんて冷静な執事なんだ。
フェアフィールドの反応はアルフレッドとは大違いで、屋敷中をうろつき回り、誰を見かけるたびに彼らの肩を叩き、直接言うことができないため、
「今日はいい天気だぞ。 わしの孫娘は本当に素晴らしいんだよ」
使用人たちは何のことか分からないまま、三度も肩を叩かれた。やがて皆、痛む肩を押さえながら、将軍を避けて歩くようになった。
「将軍」と、ついにアルフレッドが我慢の限界に達して言った。
「このまま叩き続けたら、この屋敷で働く者がいなくなってしまいます」
フェアフィールドはようやく大人しく療養を続けた。
黒猫がイザベラに尋ねた。
「残念だとは思わないですか?」
「残念なことなんて何もないわ」
と、イザベラは軽やかな足取りで言った。
「役立たず扱いされているからこそ、私は思う存分好き勝手できる時間があるのよ」
「……その言葉、なんだかちょっと不気味に聞こえますよ」
「お褒めの言葉、ありがとう」
夕食の時、フェアフィールドは、若い頃にどこかの竜族の巣窟から持ち帰ったという「龍血酒」の壺を開けた。自分に一杯たっぷりと注ぎ、イザベラにも小さな杯に注いだ。
「飲んでごらん、体にいいよ」
イザベラは杯を受け取り、エドガーの方を見た。
エドガーは箸で肉をつつきながら、顔を上げることなく言った。
「たまになら死にはしないさ」
イザベラはほんの少し口に含んだ。
辛い。そして、温かさが胃から込み上げ、背筋を伝って広がっていく。
「……不思議ね」
黒猫が近づいて匂いを嗅ごうとしたが、酒の匂いにむせ、くしゃみをした拍子にイザベラの肩から転がり落ちたところを、アルフレッドが受け止めた。
「お嬢様」
アルフレッドは黒猫の毛を撫でながら口を開いた。
「星詠仙門から、休暇明けの帰門を知らせる伝書符が届きました。明後日の早朝に出発します。荷物は手配済みです」
イザベラはうなずいた。
「……わかった」
仙門の任務を終えるたび、仙門弟子たちには三か月の休暇が与えられる。
本当に早いものだ。この修仙界に来てから、もう三か月が過ぎたなんて。
イザベラは杯に残ったわずかな酒を眺めた。揺れる水面には、ろうそくの灯りが映っている。
「……おじいさん」
彼女は突然口を開いた。
「ん?」
「私は今、F級の仙士よね」
フェアフィールドは酒を飲む手を止め、すぐに笑った。
「そうだ。 まだ我がフェアフィールド家の役立たずだ」
その口調には、誇らしげな響きが満ちていた。
「……わかった。 じゃあ、仙門に行っても、相変わらずの役立たずでいるわ」
これはフェルフィールドに、たとえ仙門に行っても、自分のS級天賦を明かさないつもりだと伝える言葉だった。
彼女は酒杯を置き、おじいさんを見つめ、その瞳には輝きが宿っていた。
「どうせ、おじいさんなら私を守ってくれるでしょう?」
フェアフィールドは一瞬呆気にとられたが、すぐにテーブルを叩いて大笑いした。
「もちろんだ! おじいさんは年を取ったとはいえ、お前一人くらい、いくらでも守ってやるさ!」
テーブルの向かい側で、エドガーはイザベラを見つめていた。
「本当に隠し通すつもりなんだな? S級天賦だと明かせば、どれほどの称賛と栄光が待っているか分かっていないだろう――」
「それって全部虚しいものよ。 私が本当にS級仙士になったら、その時に自分の栄光を取り戻せばいいだけだもの」
イザベラはにこにことエドガーを見つめた。
「ハハハ――」
フェアフィールドの笑い声はさらに大きくなった。
「目の前の虚栄に惑わされないなんて、我が孫娘もなかなか立派になったじゃないか! ハハハハハ!」




