2 悪役令嬢、浮気相手の幸せを心から願う……わけがない
セドリックは驚愕して振り返ると、イザベラが淡々と頬杖をつき、首を傾げて批評を繰り広げていた……
セドリックの頬の赤みが一瞬にして青ざめた。
「イ……イザベラ……」
そして彼は自分の下半身を一瞥すると、顔色は白から青へ、そして最後には灰色がかった色へと変わった。
一生、心の傷として残ってしまいそうだ……
イザベラは彼の視線の先を辿り、王太子のあそこが肉眼で見てわかるほど萎えているのをはっきりと見た。
イザベラはすぐに目をそらし、舌打ちをした。
「目に失礼だわ」
「イザベラ……」
フィオナは衝撃から我に返ると、驚くほど平然と立ち上がった。
裸であることも、体に刻まれたキスマークも全く気にしていない様子で、その姿は官能的でありながら傲慢にも見えた。
なんてセクシーな体つきなんだろう、とイザベラは肩をすくめた。彼女の前世の世界なら、ナイトクラブのナンバーワンとして十分通用するだろう。
フィオナは冷静に空間指輪から服を一着取り出し、セドリックの体に投げつけると、自分はそのセドリックの外套を羽織った。
「イザベラ、あなたも見たでしょう。私たちは一緒なの。もう手を引いて!」
フィオナは色気たっぷりに腕を組んで、顎を上げてイザベラに挑発した。
「セドリック王太子はあなたのことが好きなんかじゃないわ。彼とあなたの婚約なんて、やむを得ず結ばれたものに過ぎない。あなたほど悪意に満ちた人間は、王太子殿下にはふさわしくないわ」
セドリックはあれほどハンサムなのだから、彼女フィオナこそが彼にふさわしい、ということなのだろう。
イザベラはフィオナを見つめた。元の持ち主が心を込めて接していた親友である彼女を、首を傾げて見つめた。
元の持ち主のこの交友関係には呆れてしまった。
まあいいわ。親友の裏切り、彼氏の浮気、怪我をしたままの現場押さえ。この設定、ツッコミどころ満載じゃない?
「どうして?」
イザベラはセドリックの方を見た。
セドリックは冷ややかに笑った。
若くハンサムな顔には嫌悪感が浮かんでいた。
「イザベラ、正直に言うよ。父上が俺を縛っていなければ、とっくに婚約を破棄していたんだ。お前はただおじいさんの力に頼っているだけじゃないか? 自分を見てみろ、もうすぐ17歳なのにまだF級仙士だ。俺にふさわしいと思うか?」
「そういうことだったのね……」
イザベラは理解したようにうなずく。
「私のおじいさんがすごいのはあなたも知っているのに、それでも私にそんな態度を取るなんて。家に帰ったら、ちゃんと告げ口してやるわ」
「お前――」
「安心して。国王陛下には『手加減して』と伝えておくわ」
イザベラはさらに甘い笑みを浮かべた。
セドリックの顔色は青ざめた。
彼は彼女の目の前で他の女とセックスしていたのに、彼女は泣いたり騒いだり、彼に引き返してくれと懇願すべきなのに、なぜあんなに甘く笑っているのか?
彼女は自分のことが一番好きだったはずじゃないのか?
様々な疑問が湧いてくる。
フィオナは怒り心頭だった。
「イザベラ、恥ってものを知らないの?」
イザベラは首をかしげると、フィオナを一瞥し、懐から手鏡を取り出した。
「わあ、やっぱり綺麗。王太子殿下って目が悪いのかしら?」
そう呟いて満足そうに鏡をしまう。
「私のほうがあなたよりずっと綺麗だもの。もちろん恥くらい知ってるわ」
にっこりと微笑み、それから小首をかしげる。
「それより、恥を知らないのはあなたたちのほうじゃない?」
彼女は背を向けて二歩ほど歩くと、振り返って付け加えた。
「そうそう、お二人の子孫が繁栄しますように~」
イザベラはそう言うと、振り返りもせず、軽やかな足取りで去っていった。
後ろにいた二人の顔が同時に青ざめた。
修仙界では、血筋が強ければ強いほど、子孫をもうけるのは困難だ。この祝福の言葉は、どんな呪いよりも毒々しい。
洞窟の外では夕闇が迫っていた。
あの黒猫は石の上にしゃがみ込み、琥珀色の瞳にイザベラの去りゆく後ろ姿を映し、長い間じっと動かなかった。
風が森を抜け、その首元の鈴を揺らすと、ごくかすかな囁きが風に溶けていった。
「……ご主人様、やっとお帰りになりましたね」
黒猫はうつむき、前足の甲にある古びた傷跡を舐めた。
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