16 悪役令嬢、婚約破棄を条件に突きつける
「確かにフィオナは好きだ。若気の至りだった。だが、追跡・殺害の件については、イザベラに証拠はあるのか?」
セドリックが話を引き継ぎ、それほど深刻ではない点を素早く認めた。
イザベラは肩をすくめた。
「追跡・殺害があなたに関係あるなんて言ってないわよ」
そうは言っても、事態がここまで進んだ以上、理解すべきことは皆、理解しているはずだ。
それに、イザベラも彼らを一括りにして断罪するつもりはなかった。何しろ、一人は王太子、もう一人は伯爵の令嬢なのだから。
この王国の「王」は世襲制だが、実権は四つの仙士一族の手中にある。
三大伯爵家――ハミルトン家、ランカスター家、ヴァレンタイン家、そして最後に将軍府、フェアフィールド家だ。
将軍府は三大伯爵家の上に立ち、王権の制約を受けている。
王はまた「保護」される側である。これらの勢力が、完璧な権力均衡を形成している。
そして今、ヴァレンタイン家はフェアフィールド家に代わって、王権の下で第一の家となろうとしている。
「でも、私を裏切ったことは認めるよね?」
「この件は私たちの不手際でした……いずれ、俺は――」
セドリックは申し訳なさそうな表情を浮かべていた。
「認めたならそれでいい。後日まで待たなくていいわ」
セドリックが言葉を終える前に、イザベラが遮った。
「黒猫、行け」
黒猫は身を屈めて飛び出した。
イザベラは、傍らで怒りを露わにしているアルフレッドに向かってこう言った。
「アルフレッドさん、もし黒猫が傷ついたら、私はとても怒りますよ」
イザベラはF級であるため、彼女と契約を結んでいる黒猫もずっとF級のままであった。
そしてイザベラがあえて黒猫を行かせたのは、アルフレッドが彼女をかすかに守ろうとしているのを見て、もう一度アルフレッドを試してみたかったからだった。
案の定、次の瞬間、アルフレッドは眉をひそめつつもこう言った。
「お嬢様、ご安心ください」
アルフレッドは相変わらずイザベラのそばに立ち、むしろ泰然自若とした様子でイザベラにお茶を注いでいた。
一方、黒猫はセドリックには敵わないと悟っていた。
何しろ彼は王太子なのだから。そこで、怒りの矛先をすべてフィオナに向けた。
フィオナは引っかかれて体中傷だらけになり、痛がる声を上げ続けていた。
セドリックは何度かフィオナを助けようと手を伸ばしたが、そのたびに目に見えない力によって阻まれ、何度か繰り返されるうちに、アルフレッドがこの黒猫を守っていることに気づいた。
イザベラはゆっくりと一杯のお茶を飲み干した。
「セドリック、彼女を助けたいの?」
セドリックはイザベラを見つめた。
「どうしたいんだ?」
「王太子殿下がこれほどまでに深く愛しておられるのを見ると、あなたたちを引き離すのは忍びないわ! だから、私は婚約破棄に同意する。その代わり、あなたたちは――」
イザベラの口元には、遊び心のある笑みが浮かんでいた。
「自発的に星詠仙門を離れ、過去は水に流す。どう?」
「それは……」
セドリックは呆気にとられた。
フェアフィールド将軍はS級の仙士ではあるが、戦場で数々の傷を負い、実力はせいぜいA級に過ぎない。
今回はさらに、イザベラの「死亡」事件のせいで、吐血して以来、まだ意識が戻っていないようだ。
もしイザベラと婚約を円満に解決できれば、これ以上のことはない。
フィオナの父であるヴァレンティン伯爵は、すでにS級の仙士を目指していると言われているからだ。
しかし、仙門を退くこと……
セドリックだけでなく、アルフレッドも少し呆気にとられていた。
どうやら今回の事件は令嬢に大きな影響を与えたようで、令嬢は以前とは変わってしまったようだ。
ただ、この変化が良いことなのかどうかは分からない。
「王太子殿下、これ以上考え込んでいらっしゃると、フィオナが……」
セドリックははっとした。
まさかフィオナの面前で利害得失を天秤にかけていたとは。
将軍の支持を失うことはすでに確実だ。伯爵の支持まで失うわけにはいかない。
「承諾する」
とセドリックは即座に答えた。
やはり承諾した。
この王太子は先を見通す力が足りないようだ。
イザベラがすべきことは、彼の退路を断つことだ。
「黒猫、戻って」
黒猫は最後の一掻きを終えてから、満足げにイザベラの懐に戻ったが、イザベラに嫌がられて一押しで突き飛ばされた。
「爪を洗ってきなさい」
黒猫:……!
一体誰のためにこんなことをしているんだ?この恩知らずな主人め!
アルフレッドは嬉しそうに黒猫を抱き上げ、ハンカチを取り出して黒猫の爪を拭いてあげた。
一方、セドリックは優しい手つきでフィオナの乱れた服を整え、さらに手を伸ばしてフィオナの目尻の涙を拭った。
目元を赤らめたフィオナを慰めながら、
「フィオナ、婚約を破棄したら、すぐに伯爵に求婚しに行くよ」
と言った。
しかし、セドリックの胸に寄りかかっているフィオナの瞳には、一瞬、激しい憎しみが走った。
イザベラはそれを見逃さなかった。
彼女はうつむいてお茶を飲み、茶碗で口元の冷笑を隠した。どうやらこの芝居は、彼女が思っていた以上に見応えがあるようだ。
先日の洞窟で、イザベラはすでにそれに気づいていた。
フィオナが王太子に服を渡した時、それはただ手当たり次第に放り投げるような仕草だった。
これは、想いを寄せる相手がする行動ではない。
王太子殿下がフィオナ家の支持を得たいのなら、うっかり「狼を家の中に招き入れる」ようなことにならないよう気をつけなければならない。
この二人が、どちらがどちらを利用しているのか、まだ分かっていないのだろう。
犬同士が噛み合うような展開は、イザベラの大好物だ。




