第九話 告白する2人、沈黙のダイニング
ヨハネとノエルが初の実践演習を終えてから数カ月後。
巨大アーコロジーのセクターJ最上階、地上から3000メートル。
巨大なガラス窓から漏れる光が、夜の空を少し照らしている。
地球統合軍司令室の中で、数人の男女がモニターの人影に向かって話していた。
「藤堂潤一郎、軍学校の進捗はどうだ?」
「はっ、インテグレーター様、良き指揮官候補生、兵士が育成されております」
「そうか、軍の幹部に採用できそうな者はいるか?」
「はい、三名おります。新崎・A・ジェームス、この生徒は指揮官としても兵士としても見込みがあります」
「ほかは?」
「三沢ヨハネ、指揮官候補として優秀です。状況判断能力、LOGOSへの適正が高く見積もれます」
「ふむ、兵士についてはどうだ」
「明坂ノエル、非常に好戦的で前線突破力に優れています。オートマキナ操縦も高い適性が見込めます」
「よい仕事をしているな、藤堂」
「お褒めの言葉、感謝します」
淡々と進む生徒の評価。
藤堂は評価を受け取ってやや誇らしい顔をしている。
だが、モニターに映る人影から肉声は聞こえるが、感情は感じられない。
「後は、宗教排除計画についてだが」
「その計画については私から補足いたしますわ」
地球統合政府、思想制御部門統括、丹波ミレイユが一歩前へ出た。
「各地で寺院、教会、モスクの破壊が進行中ですわ。大きな反対運動は起きていませんの」
「やはり神という概念と宗教は我が政府には不要だったな」
「そのとおりですわ、インテグレーター様。貴方が統治してくだされば、何も問題なんて生まれるはずありませんもの」
「過剰な持ち上げはよせ。私は人類のため、最善を尽くしているだけだ」
「まあ、謙遜なさって、おほほ」
丹波ミレイユは、長い栗色の髪を揺らしながら楽しそうに笑った。
「他に報告のあるものはいるか」
「情報統制部門統括、グレゴリー・J・ヤングです。発言よろしいでしょうか?」
金髪で背の高い、この中では比較的若い男が前に出た。
「よい、申せ」
「ミレイユが言及した各宗教施設破壊工作についてですが、政府からの指示だと民衆へは判明していません」
「情報統制部門はよくやっている。他に報告はあるか」
「ありがとうございます。他に民間人からの不穏な動きはありません」
「順調だな、引き続き励め」
「はっ、了解であります」
「では、これで地球統合政府会議を終了する」
インテグレーターの一言で会議は終わり、6人の統括幹部は解散し、司令室を後にした。
それから約2年。
ヨハネとノエル、他の5人の軍学校で出会った戦友たちは、厳しくも充実した学園生活を過ごした。
まもなく軍学校の卒業式が来る。
「この3年間も結構長かったな」
「そうか?あっという間だったぞ」
「得難い時間を過ごせた。三沢、明坂、感謝する」
「狙撃技術がぐんと成長した。嬉しい限りだ」
「僕の学園生活もこれでおわりでござるか……」
「いよいよ軍に入ってオートマキナをバリバリイジれるな!!ワクワクするぜ!!」
「私は座学が多かったけど、軍に入ったら軍医として本格始動ね」
「軍に入る……か」
「…………」
ヨハネはポツリと一言つぶやき、ノエルは沈黙を保っている。
二人の記憶に蘇るのは同じ光景と会話。
破壊され燃える教会、傷つき倒れた高坂夫婦、セクターJ上層階で盗み聞きした「宗教排除」の言葉。
「みんな……話があるんだ、聞いてくれるか?」
「む……?なんだ、三沢、怖い顔をして」
ヨハネの真剣な表情を察し、真田が返答した。
「LOGOS、今まで集めた政府の破壊工作を示唆するデータをみんなに説明してくれ」
『はい、マスターヨハネ、今までのオンライン上の断片的なデータを収集、分析すると、各地で政府による宗教施設の破壊が行われていることが示唆されます』
LOGOSが各地で行われたいくつかの破壊工作に関するニュース原文と写真をARで表示した。
「俺とノエルは昔セクターJにあった教会に世話になっていた」
「そこが破壊されたひとつってことか……」
寺崎が沈痛そうな面持ちで一言発した。
「あぁ、そうだ。それを行った政府を俺達は許せない」
「ま、まさか…………政府に反逆!?超展開キタコレ!!」
驚きつつも、いつものおちゃらけた調子を崩さない棚橋。
「どこまでやれるのかはわからない。でも、何もしないわけにはいかないんだ」
「で、でもよ……どうするんだ?」
ヨハネの言葉と感情は理解できるが、葛西にはそこから何をするのかが想像できなかった。
「まずは小規模な反政府活動、レジスタンスを始める」
「三沢くん…………オートマキナを軍学校から奪うつもりなの?」
ショックはありつつも、瀬戸はヨハネのこれからの行動を冷静に予測している。
「そうだ、ノエルとともにオートマキナ2機を強奪し、学校を去る」
「アタシは教会を壊して真理子と隼人を傷つけたやつらは絶対許さない。殺す」
ヨハネの復讐心は静かに燃え、ノエルの激しい殺意の熱は周りに伝播する。
「5人に話したのは、知っておいてほしかったのと、今まで支えてくれた礼だ。重い昔話をしてすまない」
「政府にバラすなよ?」
感謝と謝罪を告げるヨハネ。
軽く警告するノエル。
5人は何も言えなかった。
沈黙が7人に与えられた少し広いダイニングに広がる。
あと数日で卒業式。
その日、ヨハネとノエルは平穏な日々に別れを告げる。




