第十話 七人の反逆者
ヨハネとノエルが、戦友の5人に隠していた過去を告白し、政府が隠蔽している事実を暴露し、これからのレジスタンス開始を宣言してから数日。
セクターJの軍学校卒業式がやってきた。
「生徒諸君、軍学校の全課程修了おめでとう」
いつも演習と講義に立ち会ってくれていた相馬雅史が学校を代表して壇上で静かに語る。
「これで君たちは晴れてインテグレーターフォースの一員となる」
これからの軍人となる生徒たちの未来を祝福する相馬は、顔がいつもより優しく、晴れやかだ。
「地球統合政府のため、しっかりと励みた……っ!?!?」
激励する教官の言葉が、締めの言葉に入ろうとすると、轟音が学校を包み、煙があたりを覆う。
「何事だ!?」
「わ、わかりません!!ただ、AM格納庫の付近で大規模な爆発を観測!!」
「総員、AM格納庫へ急げ!!」
「サー、イエッサー!!!」
教官たちも生徒たちも全員が上層階にあるAM格納庫へと走る。
「やっぱすぐ気づかれるよな、ノエル、派手にやり過ぎだぞ」
「へへっ、いいじゃんヨハネ、この日のために準備してきたんだからさ」
同時刻、セクターJ外壁を灰色と銀色の機体がバーニアを吹かせながら降下中。
「来たぞノエル!!追手だ!!」
「何人来たって返り討ちだ!!」
数十体のAMが灰色と銀色の機体に向かってミサイル、ライフルを斉射した。
「激しい攻撃だ、インテグレーターフォースは伊達じゃないな」
「このぐらい余裕だろ、三年訓練したじゃん」
「まあそうなんだけどな」
『マスター、外壁から敵機が射出されます。回避、もしくは迎撃推奨』
「ノエル、今度は近距離戦闘だ!!」
「よっしゃーーー!!」
ノエルは獣のような咆哮をあげ、演習とは違う、実戦用の光学ブレードを引き抜いた。
外壁から出てきたAMは、いきなり現れた銀色の機体に胴体を切り裂かれ、小さな爆発を起こして沈黙した。
「よっし!!じゃんじゃんいくぞ!!」
「ノエル、やりすぎるなよ」
「わかってるよ、ヨハネは敵にでも優しいな」
『マスター、敵ECM起動を確認。センサー能力低下、外部との通信隔絶』
「ちっ、今度は撹乱か」
「ヨハネ、急ぐぞ」
ECMによって外部からの情報の大部分が断たれたため、目だけで前方を確認、後方の射撃は無視して特攻脱出を図る二人。
あともう少しで地上に到着。
「やっと地上だ、ノエル、昔実践演習をやった荒野の向こうを目指すぞ」
「わかった!!」
「そうはさせんよ!!」
瞬間、紅色に輝く派手な機体が光学ブレードで二人に襲いかかる。
「うおっ!?新崎か!?」
「あのいやらしい派手さは間違いない」
「黙れ!!この逆賊め!!」
激昂して二人をめちゃくちゃに攻撃する新崎。
光学ブレードを振り回し、二連ショットガンを広範囲に連続射撃してくる。
「逆賊なのは認めるけどっ、なっ!!」
「アタシたちにはアタシたちの正義がある」
「個人の正義などあるものかァァァァ!!」
怒りと過去の私怨に任せて突撃する新崎。
「新崎、落ち着け。三沢、明坂、一体何を企てている?」
相馬雅史が教官専用機に搭乗して現場に駆けつけ、二人の真意を問う。
だが、二人はそれ以上何も答えない。
「語る言葉を持ち合わせんか。仕方ない、皆、新崎がやりすぎないようフォローしろ。目標は二機の捕縛だ」
二人の額から汗が流れ落ちる。
今までの訓練はほぼ全て生徒が相手。
初めての大人、完成された軍人とのAM戦闘。
数瞬の緊張。
「生ぬるい!!死ねぇぇぇぇぇ!!」
「新崎、止まれ!!機体の捕縛が優先だ!!」
新崎は教官が現れ、現場の指揮を取り始めても止まらない。
ヨハネとノエルの機体に斬りかかり、終わりのないショットガンが二人を襲う。
『マスター、警告、機体損耗率30%を超過、このままでは――』
「わかってる!!くそ、どうすりゃいいんだ!?」
「人数がたりない……アタシたちだけじゃ無理なのか……」
二人がその無謀さを実感し始めると――
「くそっ、なんだ!?!?照準が定まらん!!」
突然新崎から放たれるショットガンの精度が低下した。
『マスター、新たなECM起動を確認、これは――』
「棚橋か!?」
「そうでござる、僕、颯爽登場!!」
「俺達もいるぞ」
「狙い撃つ」
「機体は大丈夫か?」
「二人とも怪我はない?」
真田、寺崎、棚橋、葛西、瀬戸の濃緑、砂色、青、オレンジ、白の機体が地上に降り立った。
「みんな、どうして――」
「今は聞くな、とにかく包囲を突破して逃げ切るぞ!!」
「みんな……ありがとう。ノエル、行くぞ!!」
「あぁ!!みんながいれば百人力だ!!」
五人の戦友が登場し、勇気づけられたヨハネ。
「棚橋、引き続きECM全開!!短時間でいい、北へ進む!!」
「ラジャーでござる!!」
「北だな、ノエル、サポートする、共に前線を切り開くぞ」
「わかった!!」
真田が怒り狂って斬りかかり続ける新崎を正面から大盾で受け止め、その隙にノエルが高速で敵機を数体切り裂く。
「まずいな……全隊、聞こえるか、センサーが使えん、肉眼で確認して7機を包囲するんだ」
「りょ……かい……」
教官へ返ってくる返事は強力なECMに阻まれて詳細には聞こえない。
『マスター、自機損耗率37%、ノエル機45%、早期離脱を推奨します』
「もう時間がない……みんな、この戦線を離れる!!」
「了解した」
「移動中の狙撃はちと苦手だが、なんとかする」
「頑張りマウス!!」
「あとで修理と整備はまかせとけ!!」
「体と心のケアは私が担当ね」
学校の時と何も変わらない心が通じ合う会話が、無慈悲で鉄臭い戦場で交わされる。
「新崎、そろそろ落ちろ」
「なにぃぃ!?くそっ、脚部がやられた!?!?」
寺崎の狙撃が新崎機の左脚部を撃ち抜いた。
「寺崎ナイス!!いまだ、全機全速離脱!!」
「「「「「「了解!!」」」」」」
一番機動力のある新崎機が追いかけられなくなったタイミングでヨハネは撤退を指揮し、7機は北の果てへ消えた。
「ふむ、捕縛には失敗か。藤堂司令からお叱りを受けるな……」
反乱を許してしまい、捕縛に失敗したはずなのにどこか少し嬉しそうな相馬雅史。
「三沢、達者でな」
AMを北の荒野に走らせ続けて数時間、海が見えてきた。
日はとうに沈み、月の光が海面を僅かに照らしている。
「海、か……初めてみたな」
「すげーな!!セクターJの池とは大違いだ!!」
感傷に浸るヨハネとは対照的に、初めての海ではしゃぎまわるノエル。
15歳になったのだが、元気に波と戯れる姿は出会った頃と変わらない。
「随分と遠くまで来たな」
「だが、潮風ってのも悪くないもんだな」
「海!!水着回!!高まってきたぁ!!」
「海沿いは潮風が機械に悪いって聞くぞ?」
「でも人間には悪くないものよ?少し人体へ影響はあるけどね」
それぞれの海への感想を述べ、7人の反逆者、レジスタンスの戦士たちは、静かな海辺で夜を過ごす。
ここからは平穏と安定が終わる。
守られ、閉じた世界から、開かれた、危険な世界。
7人の戦士の物語が幕を開ける。




