第八話 砂塵の戦場、七機の連携
強風が吹き荒れ、砂塵が舞い踊る演習フィールド。
オートマキナよりも背が高い岩場がそびえ立ち、数キロ離れた敵陣にはビルの廃墟群が見える。
「くそ、砂埃もひどいし、敵陣はビルで見えないな」
「近づいて確認するしかない」
「おい、ノエルまて!!」
ノエルはバーニアをフル稼働させて、自陣から敵陣に向かってAMを発進させた。
「真田は拠点防衛を、寺崎は援護射撃を頼む!!」
「了解した」
「任せておけ」
それだけ言い残して、ヨハネは全力でノエルの銀色の機体を追いかける。
すぐに岩場を抜け、視界が開けた。
初めて見る広い荒野。
AMに搭乗していても、自分がちっぽけに感じる。
主よ、お守りください。
心の中で静かに短く祈る。
「LOGOS、まだ索敵範囲外か?」
『はい、まだです』
「ノエル、バーニアを止めろ、歩いてゆっくり敵を探す」
「わかった」
砂埃で視界が奪われた中、ヨハネのくすんだ灰色の機体とノエルの鈍く輝く銀色の機体がゆっくりと歩を進める。
頬に汗が流れる。
心臓から明確に鼓動を感じる。
『警告、敵機体が高速で接近中』
「ちっ、ノエル、敵機が来る!!」
「こっちも聞こえた!!」
遠距離からかすかに聞こえるバーニアの騒音。
まだ充分距離があるため、すぐに戦闘態勢を整えられる。
ノエルは短いアサルトライフルを構え、ヨハネは両腕でマシンガンを構え、背部から索敵用ドローンを数機射出した。
遠くの砂塵が不自然に揺れた。
次の瞬間、砂煙を裂いて真紅の機体が飛び出した。
ブレードが一直線にノエルの機体へ振り下ろされる。
「ふん、見えてる」
「くらえ!!」
少し前に出ていたノエルが斬撃を軽々避け、後ろのヨハネが真紅の機体に向かってマシンガンを斉射する。
「ふっ、なかなかやるな、三沢ヨハネ!!」
紅い機体の使い手は、敵チームのリーダー、新崎・A・ジェームスだ。
「お前の相手はアタシだ、ヨハネじゃないぞ」
「ふん、うるさい生意気なガキめ、死ね」
「やらせるかよ!!」
ノエルと新崎が交差して斬り合っては離れ、その間隙を縫ってヨハネが肩部の小型ミサイルを発射するが、決定打にならない。
「なかなかやるな。だが、このままここでやり合っていていいのかな?」
「お前は殺す」
「そういえば……まずい!!棚橋、聞こえるか!!」
「みさ……いま……つうし……ふの……」
雑音が混じり、通信が途絶えながら棚橋の声が聞こえる。
「やられた!!拠点がまずい!!」
「ヨハネ、戻れ、ここはアタシ一人でいい」
「だが!!」
「いいから」
「くそっ、ノエル、頼んだ!!」
すぐ機体を反転させ、全速力で拠点へ戻る。
「戦闘中に余裕だな!!」
「お前なんかアタシとヨハネの敵じゃない」
「いつまでその減らず口が保つかな」
「ずっとだろ?何言ってるんだ?」
バチバチとブレードと口撃を交わすノエルと新崎。
「おい、棚橋、棚橋!!通信は回復したか!?」
「……おお、繋がった!!三沢氏、まずいでござるよ!!拠点に敵機が6体も!!」
「今すぐ戻る!!なんとか保たせてくれ!!」
「頑張りまうす!!」
棚橋の緊張感のない口調から戦況はそこまで逼迫していないことが伝わってくる。
「LOGOS、本拠地の状況解析を頼む」
『フラッグドローンは真田、寺崎、棚橋、葛西、瀬戸それぞれの機体が防衛陣形を取っています。決定的状況変化はありません』
「拮抗した籠城戦ってことか」
『肯定。ただし敵機のほうが一機多いので、時間の問題です』
「なら俺が状況を打破する鍵になれるな」
『肯定、その可能性は約80%です』
LOGOSの無機質だが肯定的なアドバイスが機体を加速させた気がした。
ヨハネは自陣拠点の近くの岩場の上に機体を立たせて、戦況を俯瞰した。
「敵機の攻撃が思ったより激しいな……でも、連携はあまり取れてない」
その瞬間、一機が激しく真田の濃緑で彩られた重厚なAMに斬りかかった。
『前線敵一番機、装甲損傷率約30%』
「あいつか!!」
狙いを定め、小型ミサイルを斉射し、マシンガンを構えつつ岩場を駆け下りる。
「喰らえ!!」
ミサイル着弾数秒前、真田に斬りかかり続けているオートマキナにマシンガンを全力でぶっ放した。
「うおっ!!なんだ!!」
『敵機損壊率78%』
「真田、今だ!!」
「承知!!」
至近距離にいた真田機が盾を片手に持ち替え、ブレードを抜刀、敵機を貫いた。
「ちっ、動かねぇ!!」
敵パイロットは暴言を喚き散らしているが、もうAMは行動不能。
「よし、これで数の有利ができた。落ち着いて各個撃破だ」
「三沢、助かった」
「感謝する、近接戦は弱い」
「九死に一生でござるな」
「よーし、反撃だぜ!!」
「みんな、おちついて、あわてずに」
その後落ち着きと機数の優勢を取り戻したヨハネチームの6人は、もう1機を撃破した。
対して2機を撃破された新崎チームの残り4機は慌てふためき、更に連携を失い、散り散りにヨハネチームの拠点を去っていった
「これで拠点はしばらく大丈夫だろう。真田は引き続き拠点防衛を、寺崎は岩場から狙撃で援護してくれ」
「防衛は任せてくれ。また守り切る」
「今度こそ遠距離から戦えるな、やれやれ」
ヨハネはノエルのもとへ戻るため、全速力で戦場を駆けた。
「ヨハネ、ちょっと遅いぞ、いちち」
「ノエル!!大丈夫か!?」
「大したダメージじゃない」
『ノエル機損壊率27%』
「まだ行けそうだな、だが無理はするな」
「わかってるよ、ヨハネは心配性だな」
「おいおい、2人になっただけで随分余裕だなぁ?」
2人の会話に皮肉っぽい口調で水を差してくる新崎。
「これで2対1、降参したらどうだ?」
「さて、どうかな?」
「新崎、すまん、失敗した」
先程ヨハネチームの拠点から逃亡した敵機が一体ヨハネの後を追ってきたらしい。
「これで数の有利は消えたな?」
「戦ってみればわかることだ」
ヨハネがそう言うと、鋭い衝撃が新崎の持つショットガンを揺らした。
「なにっ!?狙撃手か?」
「相手チームの戦力把握は大事だぞ?」
「うるさい!!俺に説教するな!!」
「御託はいい、死ね」
真紅の機体に斬りかかる銀色の機体。
続けて発射されるスナイパーライフルの弾丸。
ヨハネも肩部ミサイルとマシンガンを発射する。
対する新崎がショットガンで牽制、応戦する。
「三沢氏、ECMジャマー展開でござる!!」
『棚橋機の通信妨害を確認、敵機センサー性能及び命中率低下』
「ノエル、今だ、やれ!!」
「その言葉を待ってた!!」
「やられてたまるか!!」
新崎はショットガンを乱れ撃つが、ノエルの機体を捉えきれない。
紅い新崎の機体に向かって銀色の奔流が斬りかかる。
蒼く輝く光学ブレードが横一文字に真紅の機体を斬り裂き、新崎機は沈黙した。
「あっけないな」
「そうでもないだろ、ノエルが頑張ったんだ」
「そうか?」
「そうだよ。さて、残りの皆さん、リーダーの新崎は倒した。残り4人でまだ頑張るか?」
「……新崎は俺達の中で一番強い。やつが敗れて数の上でも不利だ。降参する」
「新崎チームの降参を受理する。三沢チームの勝利」
相馬教官の審判が通信から聞こえた。
「よし!!」
「やったな、ヨハネ!!」
ヨハネとノエルは機体から降り、ハイタッチした。
輸送機のもとに戻り、全員機体から降りて相馬の前に立った。
「これより三沢チームの評価を下す、結果は概ね良好だ。敵の連携の弱さを見抜き、数的均衡を作った判断は評価する。特に三沢、お前の戦況分析は冷静だった」
「ありがとうございます」
「真田の防御、寺崎の狙撃、棚橋の電子戦。役割分担も機能していた。チームとして戦えている」
「感謝します」
「高い評価、嬉しい限りです」
「おほー、相馬教官が拙者をほめた!!」
「ごほん、だが一つ問題がある。」
相馬はノエルの方をきつい眼差しで見つめた。
「明坂ノエル。単独突撃は軍律違反だ。今回は結果が出ただけだな。実戦ならお前が撃破されれば、全滅の可能性もあった」
「はーい」
「三沢チーム諸君、覚えておけ。強い兵士は一人で戦う。強い部隊は仲間と戦う」
少し間を開けて、相馬は続ける。
「今回の勝利は個人の力ではなく、チームの勝利だ。そこを忘れるな」
「「「「「「「はい」」」」」」」
7人全員の返事が、荒野の岩場にこだました。
インテグレーターフォース、セクターJ司令室。
「三沢ヨハネ、指揮官としてかなりの急成長だ、明坂ノエルも、一兵士として面白い」
不敵にモニターを見つめる藤堂潤一郎。
「インテグレーター様にいずれ報告する日が来るかもしれんな」
藤堂は、しばらくヨハネとノエルについての報告書を眺め続けていた。




