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灰色の未来に灯る福音  作者: 岩井朔太郎
始まりと出会い
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3/7

第三話 新しい街、いつもの違和感

「ふぁぁ……朝か」

 スラムの廃墟の中、硬いコンクリートの上でノエルは目覚めた。

「腹、減ったな……」

 ぐるぐると唸る腹。

「でも、あそこに行けば……」

 ヨハネにもらった教会の食事、真理子に入れてもらった風呂を思い出し、ノエルは獣のように跳ね起き、元気にスラムを駆けた。


「それにしてもでかいビルだな」

 教会の入ったセクターJを見上げ、呟くノエル。

 カードキーを見せると、警備員は事務的に受け取り「27階だ」とだけ告げ、エレベーターを指さした。

 慣れないエレベーターに乗り込み、ヨハネが押した27という数字を入力し、教会へとたどり着いたノエル。


「おはよう!!」

「あら、ノエルちゃん、おはよう。元気いっぱいね」

「この子がノエルちゃんか。はじめまして。私は高坂隼人、牧師だよ」

「牧師?」

「まあここの長みたいなものだ」

「スラムの長と一緒か」

「そんなところだね」

「ノエルちゃん、まずは朝ごはんにしましょう」

「飯か!!食う!!」

 ノエルは隼人と真理子に連れられ、ダイニングへ入った。

 用意された食事は白米と青菜の味噌汁、焼いた塩鮭、目玉焼きなど。

「どれもうまいな!!」

「ふふ、ヨハネくんの小さい頃を思い出すわね」

「そうだな」

「ん?そういやヨハネはどこだ?」

「まだ朝早いから。でももうすぐ来るんじゃないかしら」

 ビッ―――

「おや、来たようだね」

 無機質なインターホンがなってから数秒して、ヨハネがダイニングへ入ってきた。

「おはようノエル」

「ヨハネ、この飯もめちゃくちゃ美味いぞ!!」

 苦笑するヨハネ。

「ノエルちゃん、ヨハネくんにおはようを言ってあげて」

「お、そうだな、おはようヨハネ」

「うん、おはよう。先生、僕もいただいていいですか?」

「もちろん、たくさん食べなさい」


 四人で仲睦まじく、ノエルだけ野性的に朝食を終えた。


「さて、私たちは仕事に戻るが、二人はどうするね?」

「そうだな、ノエル、この街を見て回らないか?」

「お、いいな。この街は不思議なことばっかりだ!!」

「ふふ、ヨハネくんノエルちゃんをよろしくね」

 高坂夫妻に見送られ、教会を後にするヨハネとノエル。

「じゃあ他のフロアに行くか」

「どんなところだ?」

「そうだな、ここなんてどうだろう?」


 ヨハネは125をコンソールに入力し、二人は軽い浮遊感に包まれる。

 エレベーターのドアが開くと、そこはセクターJの中心部だった。


「うおーー、すげーー!!なんだあの乗り物?」

 高速で移動する自動運転の車両を指差すノエル。

「あれに乗るといろんなところにいけるんだ。乗ってみるか?」

「面白そうだ、乗りたい!!」

『マスターヨハネ、その少女は車両に乗る料金を持っていません』

「今は俺が出すよ」

『しかし、それはあなたの――』

「俺はお前のマスターだ。指示には従え」

『了解』

「今のなんだ?ちっこい人間が浮いてたぞ?」

「便利な奴なんだ、ちょっと理屈っぽいけどな」

「ふーん」


 そんな会話をしつつ、無人の自動車に乗り込む二人。


「ひゃー、あたしが走るよりずっと速いな!!」

「そうだな、便利なもんだ」

 二人が高速移動する自動運転車を堪能していると、聞き覚えのある無機質な演説が車内に響いてきた。

「私は地球統合者、インテグレーター」

「神は、もはや必要ない」

「人類は自らの力のみで進歩する」

「私が合理を尽くして統合し、全人類を導く」

 この街ではおなじみの演説。

「ちっ、こいつどこでも喋るんだな」

 スラムまで響いてくるのと同じ演説を聞いて、ノエルは嫌悪感をあらわにした。

「……」

 合理、統合、神の不要。

 その3つの言葉が、ヨハネの心に突き刺さった。

「こいついつまで喋るんだ?うざいな」

「……そうだな」

 ヨハネは知っている。

 この素晴らしい都市を創り上げたのはインテグレーターだ。

 だから、彼の言うことは正しいはず。

 でも、聖書の教えることは……

 そこまで思考すると、数分間続いた演説は止まった。

「やっと終わったか」

「ああ、気分を切り替えるか。止めてくれ」


 ヨハネは車を止め、高層ビルから外界に突き出した自然エリアに入った。


「うわーー、木と水がいっぱいだな!!」

「ここは割りと空気がうまい」

 整備された小川、調整された池、その周りに生える剪定された木々。

「おっ、ヨハネ、あれなんだ?動いてるぞ?」

「あれはうさぎだな。あっちは鹿」

 管理された庭を闊歩する動物たち。

 二人に危害を加える様子はない。

「あははは、舐めるなよ、くすぐったいだろ」

「ここの動物はやたらと人懐っこいんだ」

 しばし動物と戯れ、水場を駆け回るノエル。


「うおー、つめてー!!でも気持ちいいな!!」

「ノエル、あまり濡れすぎないようにな」

「わかったーー」

 高坂夫妻にもらった白いワンピースとサンダルのまま、小川で遊んでいるノエル。

「俺にもあんなころがあったかな……」

 数年前、両親が死んでから教会を飛び出し、スラムで生活していた頃を思い出すヨハネ。

「どうしたヨハネ、変な顔して?」

「いや、なんでもないんだ。それより、喉乾かないか?」

「そういやそうだな、なんか飲み物あるのか?」

「あっちにカフェがある」

「カフェ?」

「行けばわかるさ」


 不思議そうな顔をしたノエルをカフェに連れて行った。


「なんだこれ、甘いな!!」

「オレンジジュースだな、フルーツを絞ったものだ」

「フルーツ?わかんないけど、美味い!!」

 ごくごくとあっという間にジュースを飲むノエル。

 隣でヨハネは少しずつブラックコーヒーを飲んでいる。 

 いつの間にか、太陽は空の真上から少し外れ、少し西に傾いていた。

「また腹減ってきたな……」

「おっと、もう昼を過ぎてるな」

「ここに飯もあるのか?」

「あるぞ、サンドイッチでいいか?」

「なんだかわからんが、ヨハネが頼むものがいい!!」

「了解」

 ヨハネはタッチパネルを操作し、サンドイッチを3人前注文した。

 無機質な配膳ロボットが運んできたのは、BLT、卵サンド、ハムサンドだ。

「美味い!!ヨハネは飯を作る天才だな!!」

「俺が作ったわけじゃないぞ?」

 ヨハネは苦笑しながら、ノエルは相変わらず野性的に2人前のサンドイッチを平らげた。 その後、しばらく自然エリアを堪能し、さらに太陽は西へ傾いた。

 ガラス越しの空に美しい夕日がかかる。

「綺麗だな……」

「そうだな……」

 ノエルはスラムの混沌とした日々を、ヨハネは整えられた理想の街への違和感をそれぞれ夕日に感じた。

「さて、今日はもう戻るか」

「ああ、教会に帰ろう!!」

 また自動車に乗り込み、教会へのエレベーターで教会まで降りる二人。

 この美しく、でも人工的な理想郷を体験したノエル。

 そこに住み、でも違和感を消しきれないヨハネ。


 それぞれの想いを胸に、これからの生活が始まる。

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