第二話 少女と石鹸の香り
「ノエル、か。いい名前だな」
「そうか?」
「ああ、俺は好きだ」
「……ありがと」
ノエルは少し頬を染め、ぎこちなく笑った。
「ノエルはスラムで育ったのか?」
「ああ、廃墟があるだろ?そこに捨てられてたらしい」
「なるほどな……しかし、お前ひどく臭うぞ?」
「ん?そうか?」
「ああ、風呂入ったほうがいいな、ついてきてくれ」
「風呂?」
ヨハネはノエルを連れて、電話をしながら来た道を引き返し、教会のある摩天楼、セクターJへ戻った。
警備員をなんとかやり過ごし、教会にたどり着くふたり。
「ここが教会だ」
「教会……」
ヨハネは教会の扉を叩き、パンとスープをくれた牧師婦人、高坂真理子にノエルを紹介した。
「まあ、あなたがノエルちゃんね?さあ、入っていらっしゃい」
「……何をするつもりだ?」
「お風呂に入るだけよ、怖くないわ」
「風呂とはなんだ?」
「体を綺麗にするところよ、こっち」
ノエルを連れ、風呂場へと案内する真理子。
「この水に入るのか?冷たいのは嫌いだ」
「少し触ってご覧なさい、温かいわよ」
恐る恐るバスタブに張られたお湯に触れるノエル。
「なんだこれ?熱いぞ?」
「それがお風呂よ。まずは髪を洗いましょう」
真理子はシャワーから湯を出し、ゆっくりと丁寧にノエルの髪を洗った。
「気持ちいいし、いい匂いだな……」
「そうよね、ノエルちゃんも気に入ってくれて嬉しいわ」
しばし風呂を堪能するノエル。
静まり返った礼拝堂。
『マスターヨハネ、なぜあの少女を保護したのですか?』
ヨハネの個人AI端末、LOGOSが起動し、青白く光るARの体で問いかける。
「気まぐれだよ」
『気まぐれ。人間の衝動的な欲求は分析が困難です』
「分析は必要ない。戻れ」
『再度確認します。なぜあの少女に食事を提供したのですか?あれはあなたの――』
「LOGOS、戻れ、マスターとして命令する」
『了解』
LOGOSのAR体は消え、再び教会に静寂が訪れた。
「ヨハネ、見ろ!!髪がツヤツヤだ!!もう痒くもないぞ!!」
「おお、ノエル綺麗になったな」
長い銀髪を振り回しながら礼拝堂に飛び込んでくるノエル。
「ふふ、ノエルちゃん可愛かったから、私も頑張っちゃったわ」
真理子に髪を切って整えてもらい、新しい洋服をもらったようだ。
「これからは教会に来て風呂に入らないか?」
「いいのか?」
「もちろんいいさ。そうですよね、真理子さん」
「ええ、もちろんよ。綺麗にしたら病気も何処かへ行っちゃうもの」
「教会、いいところだな!!」
「だろ?俺も好きなんだ」
満面の笑みのノエルと、嬉しそうなヨハネ。そして静かに見守る真理子。
「明日もまた来てくれ」
「ああ、絶対来るぞ!!」
「これ、入る時に入口の人に見せてくれ。じゃあまた明日な」
教会のあるセクターJに入るためのカードキーを渡す。
「きれいな板だな?わかった、また明日!!」
ノエルはぶんぶんと大きく手を振り、エントランスから出ていった。




