7.もう一つの婚約
フラニータお気に入りのダリアの花が沢山飾られた、フラニータの部屋が本日のお茶会会場。
「見事なダリアね」
「我がジュールス家自慢のダリアですわ」
「クリフ様が沢山くださったのよ〜」
「クリフ様はダリアを贈ってくださるのね」
「ええ。バラじゃなくて私の大好きなダリアを贈ってくださるわ〜」
「フラニータが元気そうで良かったですわ」
「ラグナル様が捕まったと聞いた時はさすがにショックだったけどね〜」
「そうですわよね。私も驚きましたわ……まさかギャンブルで借金を作っていたなんて」
「アウトレーヌ男爵が金貸しもやってたと聞いた時にもしかしてとは思ってたのだけど、黙っていてごめんなさいね」
「いいのよ〜そんな情報言えないものね。むしろ結婚する前に分かって良かったわ〜」
「ラグナル様は誠実な方だと思ってましたわ。私は人を見る目をもっと磨かなくてはいけませんわね」
「ラグナル様は上手く周りを欺いていたもの。フラニータから話を聞いてなかったら、アウトレーヌ男爵のことを知っても私も疑わなかったわ」
「私の話〜?」
「評判のいいラグナル様をフラニータはあまり良く思ってなかったでしょう?」
「まぁ、そうね。政略結婚だしそんなものよね〜と思ってたけれど、愛されてはいないし、そんなに大切にされている感じもしなかったのよね〜。周りの評判がいいだけにあまり悪くも言えなくて我慢してたのよ〜」
「私もフラニータの好きな花すら覚えてないことに違和感を感じたのよ。ラグナル様の評判と合わない気がして。それにアウトレーヌ男爵と個人的に付き合いがあると聞いて何かありそうだと思って勝手に調べさせてもらったわ」
「ありがとうアニス。そのおかげで私は借金まみれの嘘つきと結婚しなくて済んだわ〜」
「良かったわ。次の婚約者候補はどうかしら?」
「それが、とても熱心に口説いてくださって困ってるのよね〜」
「困ってる……そうなのね、ごめんなさいね」
「謝らないでイヴァンナ〜」
「でもクリフが、私の弟が迷惑を……」
「違うのよ〜嫌じゃなくて困ってるの」
「そうですの?嫌じゃないのですね?」
「嫌じゃないわ。とっても嬉しいのよ。ほんとびっくりしたわ、ジュールス侯爵家から婚約の申込みが来てると聞いた時は」
「フラニータ気づいてなかったのね?クリフ様あんなに分かりやすくフラニータのこと見てらしたのに」
「まったく気付かなかったわ〜。男性って年上の女性は嫌がるじゃない〜?だからクリフ様にとって私が恋愛対象になってるなんて思ってもみなかったのよ〜」
「まぁ婚約者もいるしクリフ様も弁えてましたものね。でもジュールス侯爵家でのお茶会ではフラニータが好きなお菓子が必ず1つは出てくるし、クリフ様がくださるお土産の花束はいつもダリアが入っていたわよ」
「そういえば……やだわ私全然気付きませんでしたわ〜」
「こういうのは周りの方が見えるものよ」
「クリフは私もびっくりするぐらい積極的だけど、フラニータ本当に迷惑はしていない?他にも釣り書は沢山届いているでしょう?」
「まぁ未来の王妃の姉だからね〜。会ったこともない家からも釣り書が届いているわ〜」
「姉の目から見てもクリフは良い子に育ちましたわ。次期ジュールス侯爵としても立派にやっていけるでしょう。フラニータがクリフを支えてくれたら嬉しいと思うけれど、私は親友としてフラニータにも幸せになって欲しいと思ってますの」
「ありがとうイヴァンナ。ラグナル様との婚約が破棄されて、クリフ様に時間をくださいとお願いされた時は驚いたわ〜。2人で庭のガゼボでお話したの。私のことがずっと好きだったと言ってくださってさらに驚いたわ〜」
「あらあら、素敵な告白ね。聞かせて聞かせて」
「ふふ。病弱な自分に周りが変に気を使う中、穏やかに寄り添ってくれた私がずっと好きだと。私はただ鈍いだけですわと返したのだけど、そんなことはない、フラニータ様は周りをよく見ているって。周りに合わせて自分の態度を使い分ける方で、僕に対して無理に話を合わせたり、変に気を使うでもなく、ただ少し病気があるだけで他の人と変わらないと思わせてくれた人なのだと」
「クリフ様はフラニータのことをよく理解してるのね」
「フラニータと出会ってからクリフは元気になっていったのですわ。病弱であることで私達家族は気を使いすぎていたようですの。クリフは家族に申し訳ないと思うようになっていたそうで、精神的にそれは良くなかったようですの。フラニータがちょこっと病弱なだけって態度で接してくれて、クリフはどんなに嬉しかったことか。フラニータには家族一同感謝しているのです」
「家族はまだ赤ん坊の頃に何度も生死の境を彷徨った姿を目の当たりにしているんだから仕方ないこととクリフ様はおっしゃってたわよ〜」
「今ではすっかり元気に逞しくなられたわね。毎日フラニータに花を届けに来ているのでしょ?」
「ええ、そうなの〜。ダリアの花を1本とカードをつけて毎日届けに来てくださるのよ〜」
「フラニータが恋愛結婚をしたいと思ってるみたいなのですわクリフは。だからフラニータに好きになってもらえるよう頑張るんだと張り切っているのですけれど、張り切り過ぎてしまってるんじゃないかしらと心配してますの。フラニータ疲れてしまっていないかしら?」
「私、恋愛結婚がしたいって昔クリフ様にお話したことがあるのよ〜。もちろんただの幼い頃の憧れの話よぉ。それを覚えてくれていたみたい」
「そうでしたのね」
「初めてのデートはダリアの花束を持って、白馬に引かれた馬車でお迎えに来てくれて、私の服装から髪から褒めてくれて、可愛いと言ってくれて。向かった王宮庭園で花を愛で、人気のカフェの個室でランチを食べて、今話題の恋愛劇を観劇したの〜。夜のディナーはまだ年齢的にお誘いできなくて申し訳ありませんって馬車の中で謝られて、私初めて気付いたのよ〜」
「気付いた?なにに?」
「ぜ〜んぶ私が昔憧れのデートとして話たことだわ〜って」
「まぁ」
「家まで送ってくださって、最後にはこの髪飾りをプレゼントしてくださったの。本当はネックレスとイヤリングを送りたかったけどそれはまだ早いだろうからこの髪飾りでって」
「まぁまぁまぁ!クリフ様ったら素敵な紳士ね!フラニータの瞳の色の石のついたその髪飾りとても似合っているわ」
「ふふふ、ありがとう。素敵なのよね〜。私の話を聞いてくれて、覚えていてくれて、しかも事あるごとに私のこと可愛いと言ってくださるの〜。色気があるとか妖艶で美しいとか言われることはあるけれど、可愛いってあまり言われ慣れてなくて恥ずかしいけれどとても嬉しいのよ〜」
「フラニータは可愛いですわ。クリフはよく分かっているのですわ、ずっと見ていたから」
「それじゃあもう返事は決まっているようなものじゃない?」
「ええ、決まってるわ〜。私ももうクリフ様のこと好きだもの〜」
「フラニータ本当?あぁ良かった、嬉しいですわ」
「おめでとうフラニータ」
「でも返事は半年後なのよぉ」
「半年後?」
「そう。クリフ様がね、ディオンヌを予約してくださったの。半年先のね〜。そこで返事をくださいって。半年間であなたに恋をしてもらえるよう頑張るから、どうか返事はその時にって〜」
「あら、半年もかからずフラニータはクリフ様に恋してしまったけどね」
「そうなのよ〜。だって何年も前に一度話をした理想のデートを覚えていて叶えてくれるような方よ?半年見てて欲しいって言われましたけど、半年かけずに私を大事にしてくれるって分かってしまったのですもの〜」
「半年にはたぶん隠れた理由がもうひとつあると姉である私は思いますわ」
「え?もうひとつの理由〜?」
「半年あれば今のクリフの成長具合ならフラニータの身長を追い越せるかもしれないと考えているんじゃないかしら?」
「身長を……あっ……」
「フラニータ?」
「私、昔理想の男性を聞かれて、私より背の高い方と答えたわ」
「そうよね、クリフが言ってましたわ。だからフラニータの希望を全部叶えて半年後にプロポーズするつもりなのではないかと思っていますの」
「じゃあきっと半年後ディオンヌの夜景の綺麗な個室でディナーをして、愛しい婚約者の瞳の色のドレスを纏って、婚約者の瞳の色のネックレスとイヤリングをプレゼントしてもらえるわね〜」
「それが幼いフラニータの理想のプロポーズ?」
「ええ。片膝をついて愛してると告白してもらって手の甲にキスを贈ってもらうのよ〜」
「背の高い素敵な婚約者様に?」
「ええ、そうみたい。そんな未来がきそうだわぁ」
「半年間は婚約者じゃないフラニータとクリフ様の恋する期間ね。存分に恋したらいいと思うわ」
「そうね、楽しく恋する期間にするわ〜。やだわ、ドキドキしてきちゃう〜」
「クリフが張り切りすぎて疲れてしまったらちゃんと言ってね?やっとフラニータに自分の想いを伝えられるって少し浮かれすぎていますから」
「クリフ様も溺愛タイプでしょう?ほらね、フラニータ、私の言ったこと全部当たったでしょ?」
「アニス、クリフ様のことまで知ってたの〜?」
「フラニータ、クリフ様が憧れる男性誰か知ってる?」
「憧れる男性?いいえ、知らないわぁ」
「セドリックお兄様よ。ジュールス侯爵家攻略にはもちろんクリフ様も含まれるもの。そしてクリフ様はセドリックお兄様を尊敬し憧れているの。そしてお兄様もクリフ様をとても可愛がっているわ」
「つまり、それって……」
「クリフ様の恋愛のお手本はセドリックお兄様ね」
「なるほど……溺愛……」
「ね?2人は溺愛結婚生活が待っていると言ったでしょ?」
「んふふ、アニスには敵わないわ〜。でも、羨ましいと思った溺愛結婚生活かぁ悪くないわ〜」
「ふふ、フラニータが良いなら良かったわ。フラニータもクリフも幸せになってくれたら、親友として、姉として、喜ばしいことですわ」
「あら、このまま皆結婚したら私達2人ともイヴァンナの義妹ね」
「あら〜ほんとだわぁ。よろしくね、お義姉様?」
「まぁ頼もしい義妹が2人もできるわ。嬉しいですわね」
淑女らしからぬ3人の笑い声は、クリフがフラニータお気に入りの洋菓子店の新作を持って現れるまで続いた。
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