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とある令嬢達のお茶会にて  作者: 朔晦 月陽


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8/8

8.婚約者とのお茶会



今日のお茶会はベルメーレン公爵家のガゼボにて。

しかしメンバーはいつもの3人の令嬢ではなく、アニスとその婚約者ヒューゴのお茶会だった。


「結局リレスタン殿下は表向き療養、実際は北の離宮に生涯幽閉となったね」

可愛いピンクのマカロンを手に取り、自分ではなくアニスの口元に運ぶヒューゴ。優しい印象を与える甘い顔をした美丈夫だ。少し癖のある金色の髪に、夜空のような深いブルーの瞳は最愛の人しか映していない。


「聡明な第二王子殿下と優秀なミアーナ様がこの国を担うのであれば安心だわ」

差し出されたマカロンを、照れるでもなくさも当然とぱくりと食べてからアニスは言った。


「ロザリンド様は婚約白紙だろう?」


「急ぎ足で婚約発表なんてするから2度も婚約が白紙になった女性になってしまったわね」


「で、そのロザリンド様は今日かなり厳しいと有名な修道院に旅立ったそうだね」


「ええ。リレスタン殿下との婚約が白紙になり、第二王子殿下に鞍替えしようと一度は頑張ったみたいよ」


「そうなんだ?てっきりそのままセドリック様に突撃してきたのかと思ったよ」


「いえ、殿下とミアーナ様が仲睦まじく庭園を散歩してらした所に突撃したようよ。」


「あの2人は本当に仲が良いからそれを見て諦めたのかい?諦めるような性格には思えないけど」


「殿下には道端の名も無き花より、この庭園に咲く大輪の薔薇のがお似合いですわ」


「え、似てないけどそれロザリンド様の真似だよね?地味なミアーナ嬢より華やかなロザリンド様がお似合いだと?その場でそれをロザリンド様は言ったの?」


「似てないかしら?まぁいいわ。そう、それで、ふふふ」


「思い出し笑い?早く僕にも教えて欲しいな」


「もちろん。第二王子殿下は、すぐに萎れて枯れてしまう薔薇の花は己の強い香りに酔って他の素晴らしい花々が見えもしない。そんな花より瑞々しく強く美しい名も無き花こそ価値があり私には必要だ、と」


「ぷはっ!年増と揶揄したわけか。第二王子殿下も中々言うね」


「さすがのロザリンド様も顔を真っ赤にしてその場を去ったそうですわ」


「第二王子殿下を諦めて、それで今度こそセドリック様に突撃したわけだ」


「そう。よりにもよってイヴァンナとの大切な時間を過ごしている所に無理矢理我が家に乗り込んできましたの。さすがの横暴さに驚きましたわ」


「公爵令嬢として、というより人としてもありえない行動だね」


「両親に甘やかされて過ごしたから、というよりきちんとした教育をされていない虐待ですわね。王妃を目指していたならそれ相応の教育をすべきでしたのに」


「王妃になるべく育てられたとロザリンド様はよく言っていたけど、全ての我儘を叶えることが王妃になるべく教育だと思っていたのかね?」


「娘というより、未来の王妃として接していらしたからね。あれが本当に愛情なのか私にはよく分からないわ」


「それで?突撃したロザリンド様はどう撃沈したんだい?」


「それがね、ロザリンド様ったらお兄様がイヴァンナと婚約したこと知らなかったのよ。第二王子殿下とのやりとりがあった後に元婚約者のところに来てみれば、自分より年下の女性と一緒にいるわけでしょ?」


「あぁそれはちょっと気の毒にすらなるね」


「お茶会でイヴァンナのことを見かけたことはあるでしょうに、ロザリンド様はイヴァンナのことを誰だかも分からなかったの」


「増々王妃になろうとしてたことにゾッとするね」


「まぁね。それでロザリンド様は、小娘名乗りなさい!とおっしゃったわ」


「すごいね、自分の無知を恥じることすらないとは」


「でもね、イヴァンナが名乗ったらロザリンド様すごすご帰っていったのよ」


「え!?どうして?」


「それがね、そもそもお兄様と婚約する時に、ロザリンド様は私は王妃になるのですぐにあなたとの婚約は白紙になります、とおっしゃっていたの」


「うん、それは貴族ならほとんどの人が知ってる噂で、そして事実だね」


「それに対してお兄様は、自分はイヴァンナを愛してるから、同じくそのうち白紙にすることを望んでる、と返したの」


「へぇ、そっちは知らなかった」


「双方同意の上ということで奇妙な婚約が整ったわけだけど、実はロザリンド様はセドリックお兄様がロザリンド様のことを愛していて、どうしてもロザリンド様と婚約したいと願っての婚約だと思っていたの。だからイヴァンナのことは架空の人で、ロザリンド様の気を引きたいがために言ったことだと思いこんでいたらしいわ」


「なぜそんな思い違いを?」


「ロザリンド様のことを愛していて、の部分は違うけれど、お兄様がとりあえずの婚約をロザリンド様としたいと願ってしまったから勘違いしたのでしょうね」


「あぁ、まさか本当にそのうちの婚約白紙を望んでいて、その間の女避けだとは思ってなかったのか」


「それで名前を聞いて、本当にいたのね、とだけ呟いて大人しく帰っていったのよ。酷い言葉をイヴァンナに言う前に取り押さえようと思ってたお兄様も、驚いてそのまま帰してしまったそうよ」


「ふふ、あのセドリック様が何もできないくらい驚くとは見てみたかったな」


「私も見たかったわ。でもイヴァンナが本当に存在すると分かって、セドリックお兄様が自分を好きじゃないと理解したら大人しく帰っていくロザリンド様がなんだか憎めなくなってしまったわ」


「それにしては厳しい修道院へ行くことになったのだね?」


「私でもお兄様でもなく、ロザリンド様のお兄様、つまり小公爵様が二度と関わらないという我が家との約束を破ったのだからと決めたのよ。現公爵様達にも隠居を言い渡して、もうすぐ公爵様になるそうよ」


「彼も苦労したね」


「妹が可哀想だったと言ってたわ」


「おや?厳しい修道院に送るくらいには妹が嫌いなのかと思ってた」


「王妃になる身だと傲慢に甘やかされて育てられ、リレスタン様のこともお兄様のことも、人を愛することができず、誰にも愛されず歪んで育ってしまったと。自分は何もできず救えなかったから、厳しいけれど不正もない、清く正しい修道院に入れてあげることが贖罪なのだそうよ」


「それは愛じゃない?」


「私もそう思ったわ。でもね、同じ環境で育てられてもああならない人もいる。結局は妹の素質もある。だから私はあの傲慢な妹が嫌いだ、ですって」


「男女の愛もそれぞれで難しいけれど、家族愛というのも難しいものだね」


「そうね。愛も恋も難しいわ。とくに貴族のしがらみがあると尚更。でも私は私の周りの人が皆幸せになったから良かったわ」


「君達兄妹の計画通りだね?」


「あら嫌ですわ。私はマリ様という逸材の噂を聞いて、マリ様が学園に通えるようほんの少し口添えしただけですわ」


「だけ、ね。それで彼らは見事に堕ちていったわけだ」


「彼らが破滅するのは遅かれ早かれですわ。結果社会がほんの少し綺麗になって、私の周りの人は皆幸せになった。それだけですわ」


「マリ嬢を見つけた時にアウトレーヌ男爵があんな悪事を働いていることも分かっていたの?」


「いいえ。ただ、食品輸入に成功したとしても少々稼ぎが良すぎると思うとはお兄様に言いましたわ」


「そこからアウトレーヌ男爵の不正をすべて暴き出したセドリック様はさすがだね。君も関わっているんだろうけど」


「私はただお茶会で耳にする淑女達の噂話を少しお兄様にも聞かせただけですわ」


「淑女達のお茶会は怖いね」


「まだまだお子様の私達に油断する大人は多いのですわ。色んなことを見る目も頭ももう育っておりますのに」


「頼もしいね、次期スペンサー公爵夫人は」


「お嫌かしら?こんな私は」


「まさか!僕は可愛くて美しくて、さらに頼もしくもあるアニスを世界で一番愛しているよ、本当だ」


「良かった。私もヒューゴ様を世界で一番愛してますわ。溺愛じゃなくていいのよね」


「溺愛?」


「ふふ、私は溺愛より同じくらいの愛が良いの」


「ふぅん?よく分からないけど僕のアニスへの愛は重いと思うけどな?」


「ええ、もちろん分かってるわ。でも同じくらい私の愛も重いということよ」


ひょいっとピンクのマカロンを摘んだアニスは、それをヒューゴの口元に持っていく。ヒューゴはそれを当然のごとくぱくりと食べた。





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