6.婚約白紙のその後
本日はジュールス侯爵家のイヴァンナの部屋にてお茶会は開かれた。
白を貴重にブルーや紫といった寒色系の差し色だが、寒々しい印象はなくどこか温かみさえ感じるのは部屋の主の優しさが部屋にも表れているからだろうか。
「さて、驚きの一報により集まったわけだけど」
「本当に驚きましたわ。まさかアウトレーヌ男爵家がお取り潰しになるなんて」
「伯爵へなんて言っていたのにまさか罪人になろうとはびっくりね〜」
「まぁその伯爵になる話だって不正にお金を稼いでいたからこそだからね」
「輸入業で成功したわけではなかったのですね」
「裏でやばーいお薬とか仕入れていたのでしょう?」
「隣国の小さな村で色んな毒草を育てていたそうよ」
「許可なく栽培は禁止とされているものばかりと聞きましたわ」
「人の精神を狂わせるもの、依存性が高いもの、はては病気と思わせて人を殺せる毒、それらがアウトレーヌ男爵の輸入荷物から見つかったそうよ」
「モスウッド伯爵様はその被害者なのよね〜?」
「ええ、実験でもあったそうよ。本当に医師の目を誤魔化せるかどうか」
「実験……だからきっとお高いであろうそんな毒物を平民の女性が手に入れられたのね〜?」
「その女性、以前ラグナル様からアニスが教えていただいたパン屋さんで働いていたのですよね?」
「そう、あのパン屋の2階がアウトレーヌ男爵の密輸関係の事務所だったみたい。あ、もちろんパン職人達は関係ないわ。今はうちの新しい職場で働いてもらっているの」
「良かった〜あの美味しいフルーツサンドがもう食べられないのかと思ったわ」
「ふふ、そこは安心してちょうだい。それで、あの平民の女性はアウトレーヌ男爵の愛人でもあったそうなの」
「うわぁ伯爵夫人の愛人の執事の恋人はアウトレーヌ男爵の愛人ってもうすごいわね〜」
「執事のことをアウトレーヌ男爵も知っていたそうよ。それで、その毒で執拗く言い寄ってくる執事を殺すと女性は男爵に言ったそうなの」
「それが実際には良い仲の執事に毒が渡り、モスウッド伯爵に毒が盛られることになってしまったのですね」
「アウトレーヌ男爵もまさか伯爵を実験にする気なんてなかったでしょうね。平民になる予定の執事なら医者にはみせられるけれど、もしバレたとしても大事にならず丁度良いと思ったみたい」
「伯爵が毒を盛られたことできちんと調査が行われたのですね。皮肉なことですわ」
「毒の入手経路からアウトレーヌ男爵の悪事まで暴かれて良かったわ〜。これ以上被害者は出ないものね」
「それに関してはフラニータとラグナル様のお手柄よ」
「え?どうして〜?」
「あのパン屋とアウトレーヌ男爵の繋がりは2人が情報をくれるまで一切わからなかったのよ」
「そうなの〜?偶然だし、どちらかというとラグナル様のお手柄だけど良かったわ〜」
「アウトレーヌ男爵にはそもそも疑惑があったのよね。うちも食品関係は多く扱っているから、輸入業で上手くいったとしてもあまりに儲かっているんだもの。そこにきて毒物をどこかから入手した女性。その女性が働いてるパン屋を支援しているというアウトレーヌ男爵。でも表向き支援している様子はなく、隠している。となるとおのずと見えるものがあったというわけ」
「フラニータがアニスに美味しいパンを食べさせなかったら今でもアウトレーヌ男爵は捕まらないままだったかもしれないわ。フラニータもお手柄ですわ」
「ええ。それにイヴァンナもよ。執事が平民の女性と歩いていたという情報もとても役に立ったそうよ。モスウッド伯爵が殺されてから、かの平民女性までたどり着くのが早かったのはイヴァンナのおかげよ」
「まぁ、では私セドリック様のお役に立てたのですね?良かったですわ」
「お兄様はこの件でたくさん動いていたようだからね。お父様の人使いが荒いって嘆いていたわ」
「でもこれでようやく一段落なのではなくて〜?お待ちかねのデートができるわね、イヴァンナ」
「あ、ごめんなさい。あともう少しだけかかりそうなのよ。でもあとほんともう少しだから、待っていて」
「ええ、セドリック様からも事後処理がもう少しかかると。でも月末には終わらせて必ず時間を作るからディオンヌで食事をとお約束してますわ」
「まぁ〜人気で予約は半年先まで取れないと噂のディオンヌで?」
「私もその噂は聞いていましたから驚きましたわ。無理をさせてしまったのではないかしらとセドリック様に聞いたら、アニスが予約してくれていたと聞いて更に驚きましたわ」
「アニスが?」
「ふふふ、私は親友のイヴァンナが大好きで、私に優しいお兄様が大好きなのよ。お兄様の様子から2人が婚約するのもそう遠くないと思って半年前に予約してたの。2人がまだ婚約してなくて行けなければ私とヒューゴ様で行ってもいいしと思ってね。間に合って良かったわ」
「手紙でも書いたけど、改めて本当にありがとうアニス。その気持ちがとても嬉しいですわ。でもアニスもまだ行ったことがないのでしょう?本当に譲ってもらって良いのですか?」
「いいのよ、お義姉様」
「素敵な義妹で良かったわね〜イヴァンナ」
「やだわ揶揄って。でも今回はアニスの気持ちと思ってセドリック様と楽しんで来ますわね」
「そういえばスコーチ様がイヴァンナに会おうとしてると噂を聞いたのだけど大丈夫〜?」
「え?そんな噂がありますの?我が家にも私にもスコーチ様から特に何もないと聞いていますわ」
「あぁそれならお兄様が対処してるから気にしなくていいわ」
「セドリック様が?」
「ええ。イヴァンナが彼と会うことは無いから心配しなくていいわ」
「あ〜そうなのね〜。じゃあ心配ないわね〜」
「そうそう、イヴァンナは気にしなくていいことよ」
「でも噂は知っておいた方がいいわよ〜。マリ様、処刑は免れたけど平民になってしまったでしょう?さすがにリレスタン様との婚約はなくなったし、スコーチ様に乗り換えようとしたらしいのよ〜」
「それならスコーチ様は喜ばれたのではないのですか?」
「スコーチ様、平民はさすがに無理だと言って断ったそうよ。そしてあの手紙通りにイヴァンナと寄りを戻そうと、イヴァンナに会おうとしているって話しよ〜」
「まぁ。マリ様への愛のために私との婚約を白紙にしたのですから身分など関係ないのかと思ってましたわ」
「侯爵家への婿の立場を捨てたものね。でもマリ様を選んでも裕福な男爵家。身分は下がるけれど侯爵家と同じぐらいの生活ができる予定だったのよ。愛もあったのでしょうけど、お金があっての愛だったのね」
「まぁ、そうでしたのね」
「結果としてどちらも失ったわね〜」
「まぁ平民が嫌だといっても、どこの貴族ももうスコーチ様を受け入れないでしょうから、平民になると思うけどね」
「イヴァンナと寄りを戻せると本気で思ってたのね〜。会えもしないとは思わず。どちらにせよ平民となるなら、マリ様という愛は選んでおけば良かったわね〜」
「スコーチ様の愛はその程度だったということね。まぁリレスタン様が無理だからとスコーチ様に乗り換えようとするマリ様もだけどね」
「スコーチ様の愛も、リレスタン様の愛もなんだったのかしらね〜。リレスタン様も結局ロザリンド様とあっさり婚約して。マリ様のことなんてなかったようにしてらっしゃるものね〜」
「さすがに罪人の娘で今は平民の女性を王妃には無理ですものね。婚約発表をする直前だったのは幸いだったのかしらね?ロザリンド様にするっと変えて発表したけれど」
「ん〜でも近々妹に大事な話があると両親も妹も王宮に呼ばれているのよ」
「あら、それはまぁそういうことでしょうね」
「そういうことでしょうね」
「やっぱそういうことよね〜。ロザリンド様どうするのかしら。」
「どうするのかしらね?とりあえずセドリック兄様にはロザリンド様に気を付けるよう言っておくわ。イヴァンナも気を付けてね、お兄様が色々策は講じているでしょうけど、用心するに越したことはないわ」
「そうね、スコーチ様からもロザリンド様からも気を付けてね〜」
「分かりましたわ。ありがとうアニス、フラニータ」
その後はディオンヌに着ていくドレスの相談をしたり、デートに行くならどこが今オススメかなんていう可愛らしい話題で盛り上がり、3人の少女達のお茶会は続いた。
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